宝珠
「どういう意味です」
「そのままの。禁呪を使った贖いが、なくて済むかもしれないということだ。今日来る半妖の姿をよく見ておけ」
私は油で焦げそうな卵を慌てて引っ繰り返した。その時には隼太はもう遠く離れていた。私の中で疑問がぐるぐると渦を巻く。出来上がった出汁巻卵をまだ飲んでいる隼太の元に運び、食べやすいよう切り分ける。聖が不快そうな表情をしている。隼太が私をこき使わせているようで腹立たしいのだろう。隼太はそれも承知の上で、二重の嫌がらせをしているのだ。釣忍と烏の音が同時に鳴った。烏の隼太も来ているらしい。私はいつも通り、縁側で月桃香を焚こうとしたが、半妖が嫌がり遠ざかるかと考え、やめておいた。それを見た隼太が、合格だと言わんばかりの笑みを浮かべる。
食事を全て終えて洗い物の途中、彼らは来た。
私は思わず言葉を失った。
それは妖怪の一種と言うには余りに美しかったからだ。半透明に透けた身体は人型で、そのどれもが緑色の長い豊かな髪をしている。特筆すべきは、彼らには総じて私たちに対する敵意がなく、背中にこぶのような真珠色の珠をつけていることだ。隼太が庭に降り、濡れながらコトノハを紡いだ。
「離」
すると真珠色のこぶが完全な球体となって離れ隼太の手に納まった。珠を失くした半妖は、さして気にする風もなく、それどころか私たちに微笑んでさえみせたのだ。
「お前らも手伝え」
私たちが隼太の命令に従う言われはどこにもない。ましてやこの半妖は、無害そうではないか。だが私も聖も、そして楓も隼太の指示に従った。そうして半妖全ての珠を回収したところで、隼太が告げる。銀線に打たれて、皆がびしょ濡れである。
「散」
隼太のコトノハを服用した半妖たちは、散り散りに去って行った。
聖が隼太の肩をぐいと引く。
「自分の利益の為に僕たちを利用したな。初めから彼らがここに集まるよう仕組んでおいただろう」
私はそれより濡れた楓の身体をタオルで拭くのに忙しかった。風呂の追い炊きをしなければ。そう考えながら縁側に上がる濡れた男二人を見る。
「この珠は宝珠の一種だ。集めれば人の業を浄化する。俺は俺なりの目的があって集めているが、そちらはそちらで使いでがあるんじゃないか?」
意味ありげな視線を受けた私と聖は、それが何を意味するのかを理解した。




