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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
風姿花伝編 第一章
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望まれざる客

 隼太の来訪、滞在に最も難色を示したのは聖で、すんなり受け容れたのが楓だった。楓は、過去に隼太に拉致監禁され、辛い思いをしたこともある筈なのだが。

「半妖程度なら僕とこと様で何とでもなる」

「ならなかったら? そこのガキの命の補償はないだろう」

「私もコトノハは処方出来ます。ことさんに学んで精進を重ねてきました」

 楓が、静かだが確固とした意志を秘めた声で言う。

 隼太がは、と笑った。

「自信過剰は結構だが、御当主様のご意向はどうだろうなあ?」

 楓と聖が私を見る。

「戦力は多いに越したことがありません。隼太さんが暴走しそうな時は、私が」

「僕が止めます」

 言葉を遮る無礼を聖が犯すのは珍しい。それだけ思いが籠ったコトノハだったのだろう。そしてそれは隼太にも伝わったらしい。

 皓歯を見せる。

「鬼兎と再戦となっても、別に俺は構わないぜ?」

 私は額に手をついてやれやれと思う。座卓を囲んでの丁々発止。外は雨が降り続いている。羽虫がぶんぶん飛んで客間の天井にぶつかり煩わしい。

「楓さん。今日は一緒に寝ましょう」

「うん」

 楓の首肯は私に守ってもらえるというだけでなく、私を守ることが出来る、という意図からのものであるようだ。聖の口が動きかけて閉じた。恐らくは私たちと寝所を共にしたかったのだろう。だが女の園に踏み込むことに躊躇したのだ。

 隼太はそんな私たちをにやにやしながら見ている。それぞれ入浴を済ませ、夕食となった。本日は(さば)のマスタード乗せ、根菜類のスープ、セロリの梅酢和えだった。

 私と聖は念の為に飲酒を控えたが、隼太は堂々と酒を飲んでいた。


 うちの秘蔵の純米大吟醸を!


 私や聖、ましてや楓が供した訳ではない。隼太が自分で見つけて勝手に飲んでいるのだ。一体、どんな嗅覚をしている。

「おい、そんなに睨むな音ノ瀬こと。顔に穴が開く」

「開いたら酒粕を詰め込んで差し上げますよ」

「酒の恨みは怖いな……」

 

 カッと稲光が室内を白と黒のモノトーンに染めた。


「近いですね」

「姫宮神社や康醍さんのところでなければ良いのですが。高い樹がありますからね」

「おい、他に何かつまみはないのか」

 こいつ、吊るしてやろうか。

「出汁巻卵で良ければ今からでも作れますが」

 チッと隼太が舌打ち。不承不承というように頷いた。

「それで良い」

 こいつ、皮を剥いでやろうか。

 台所に立つ私に聖もついてきた。

「聖さん。どう思います?」

「そうですね。彼がこの家を心配する道理が解りません。それに半妖であれば多少、数がいても僕とこと様で何とかなります」


 ジュワ、と胡麻油をフライパンに敷くと、香ばしい匂いが広がる。

 卵液をフライパンに注ぎながら、私は隼太の本当の狙いについて思いを巡らせていた。

 背後に気配を感じて振り返ると、いつの間にか隼太が壁にもたれる体勢で立ってこちらを見ていた。

「驚かさないでください。油がはねますよ」

「変わるかもしれんぞ」

「え?」

「お前の宿業」






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― 新着の感想 ―
[良い点] 敵地を我が物顔で闊歩しこと自慢の秘蔵酒をも悠然と横取りする。もう息を吸うかのような傍若無人振り……それでこそ隼太。 だが、最後の言葉の真意が気になる……。
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