望まれざる客
隼太の来訪、滞在に最も難色を示したのは聖で、すんなり受け容れたのが楓だった。楓は、過去に隼太に拉致監禁され、辛い思いをしたこともある筈なのだが。
「半妖程度なら僕とこと様で何とでもなる」
「ならなかったら? そこのガキの命の補償はないだろう」
「私もコトノハは処方出来ます。ことさんに学んで精進を重ねてきました」
楓が、静かだが確固とした意志を秘めた声で言う。
隼太がは、と笑った。
「自信過剰は結構だが、御当主様のご意向はどうだろうなあ?」
楓と聖が私を見る。
「戦力は多いに越したことがありません。隼太さんが暴走しそうな時は、私が」
「僕が止めます」
言葉を遮る無礼を聖が犯すのは珍しい。それだけ思いが籠ったコトノハだったのだろう。そしてそれは隼太にも伝わったらしい。
皓歯を見せる。
「鬼兎と再戦となっても、別に俺は構わないぜ?」
私は額に手をついてやれやれと思う。座卓を囲んでの丁々発止。外は雨が降り続いている。羽虫がぶんぶん飛んで客間の天井にぶつかり煩わしい。
「楓さん。今日は一緒に寝ましょう」
「うん」
楓の首肯は私に守ってもらえるというだけでなく、私を守ることが出来る、という意図からのものであるようだ。聖の口が動きかけて閉じた。恐らくは私たちと寝所を共にしたかったのだろう。だが女の園に踏み込むことに躊躇したのだ。
隼太はそんな私たちをにやにやしながら見ている。それぞれ入浴を済ませ、夕食となった。本日は鯖のマスタード乗せ、根菜類のスープ、セロリの梅酢和えだった。
私と聖は念の為に飲酒を控えたが、隼太は堂々と酒を飲んでいた。
うちの秘蔵の純米大吟醸を!
私や聖、ましてや楓が供した訳ではない。隼太が自分で見つけて勝手に飲んでいるのだ。一体、どんな嗅覚をしている。
「おい、そんなに睨むな音ノ瀬こと。顔に穴が開く」
「開いたら酒粕を詰め込んで差し上げますよ」
「酒の恨みは怖いな……」
カッと稲光が室内を白と黒のモノトーンに染めた。
「近いですね」
「姫宮神社や康醍さんのところでなければ良いのですが。高い樹がありますからね」
「おい、他に何かつまみはないのか」
こいつ、吊るしてやろうか。
「出汁巻卵で良ければ今からでも作れますが」
チッと隼太が舌打ち。不承不承というように頷いた。
「それで良い」
こいつ、皮を剥いでやろうか。
台所に立つ私に聖もついてきた。
「聖さん。どう思います?」
「そうですね。彼がこの家を心配する道理が解りません。それに半妖であれば多少、数がいても僕とこと様で何とかなります」
ジュワ、と胡麻油をフライパンに敷くと、香ばしい匂いが広がる。
卵液をフライパンに注ぎながら、私は隼太の本当の狙いについて思いを巡らせていた。
背後に気配を感じて振り返ると、いつの間にか隼太が壁にもたれる体勢で立ってこちらを見ていた。
「驚かさないでください。油がはねますよ」
「変わるかもしれんぞ」
「え?」
「お前の宿業」




