表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
風姿花伝編 第一章
197/817

秘めた紫陽花

 雨は人に安らぎの孤独と不安を連れてくる。

 その日、楓は学校で、聖はふるさと。家にいるのは私一人だった。独り、きり。

 なぜだろう。少し前まではそのようにして暮らしていたのに、今の私は孤独を寂しいと思う。銀線が宙を遮断する。あれは本当は透明なのだ。銀色に見せ、自分を格付けしたいだけなのだ。私は気持ちを落ち着ける為、殊更、丁寧に緑茶を淹れた。

 その時、縁側のほうの風が雨混じりに〝それ〟を告げた。


「鬼兎と祝言を挙げたそうだな」

 突然現れた音ノ瀬隼太は肩が雨に濡れていた。ビニール傘だけでは足りなかったらしい。私がタオルを渡すと、存外素直に受け取り、拭いていた。とりあえず客間に通す。

 お茶を余分に淹れていたのが幸いした。それから(きん)(ぎょく)という和菓子を二つ。桜色の硝子の小皿に入れて座卓に出す。

「良いのか? 俺は何をするか解らん男だぞ」

「風が告げました。客人が来ると。ならば貴方は私に危害を加えたりなさらないでしょう」

 隼太は僅かに目を見開き、それから細くした。

「確かにな。他の男のものになった女など興味はない」


 遠雷の音。楓が怯えていなければ良いが。


「お話は何ですか。この雨の中、世間話をしに来た訳でもないでしょう」

「雨に紛れて半妖(はんよう)が動き出した。こちらにも害が及ぶかもしれん」


 ふ、と電気が消える。停電だ。

 ブレーカーを上げに行くのも億劫で、私はコトノハを処方した。

(とう)

 するとコトノハに従い電気が再び点った。隼太は一連の動作を何ら驚くことなく見ていた。当然だ。彼もコトノハ使いなのだから。コトノハの戦士(ソルジャー)

「承知しました。お知らせくださりありがとうございます」

「俺も当分、ここに居座るぞ」

 この言葉には驚いた。私は淡い桜色の硝子を見る。

「半妖がここに来る算段はそんなに大きいのですか」

「俺はそう睨んでいる」

 私や聖はまだ良い。隼太から自衛の心得がある。だが。

「――――水木楓が心配か。ああ、もうすぐ音ノ瀬楓になるんだったな」

「……」

「安心しろ。ガキに興味はない」

「楓さんを侮辱するのは許しませんよ」

 パチパチ、と文字通り火花が散った。私が処方したコトノハだ。隼太は無言で、唇で弧を描いた。ああ、折角、吟味して淹れたお茶が物騒な会話のせいで美味しく味わえない。

「そう喧嘩腰になるな。用心棒を雇ったとでも思えば良い」

 確かに、味方となれば隼太程心強い存在もないだろう。

 秘すれば花なり。

 この紫陽花色のコートを纏う男は、どんな過去を歩んで今に至るのだろう。

「隼太さん……」

「何だ」

「人を愛したことがおありですか」

 隼太の目が束の間、静穏となった。その静穏の瞳のまま答える。

「ないな」


 嘘だ、と私は確信した。隼太は今、嘘のコトノハを処方した。

 答えたくない事情があるのだろう。私はふう、と息を吐いた。

 それは隼太の提案への了承となった。


 紫陽花色の男は、どんな花を秘めているのだろう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ