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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
風姿花伝編 第一章
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色にいでにけり

 私は楓の艶やかな髪を手で梳く。

 心地いいのかくすぐったいのか、楓がくすくす笑う。楓の部屋である。たまの夜、このように私に甘えて添い寝をねだる時がある。年齢の割に大人びた少女の、まだまだ子供と思わされる一面だ。薄氷の散る青い楓の浴衣のすぐ隣に、桔梗柄の浴衣の私が寝そべっている。

「学校はどうですか」

「うん。楽しいよ」

 良かった。

 何かと迫害されやすい要素を持つ楓が、集団の中で爪弾きにされはしないかと、私はそれが心配だった。

「あのねえ? 立木(たちき)さんと(かれ)(くも)さんが(ゆずりは)(くん)のこと好きで」

 お? 恋バナ?

「でも杠君に私が告白されたから、立木さんたちには嫌われちゃった」

 お、おおお。私はごくりと唾を飲む。

「楓さんはそのあおにさ、いえ、杠君とやらに何と言ったのですか?」

「好きな人が他にいますから、って言ったらしばらく無言だった。それで、そいつは君を幸せに出来る奴なのって訊くから、そういう損得で好きな訳じゃないのって言った」

 

 あおにさ、杠君、見事に玉砕。

 そうかあ。楓はそんなに。


「恭司君が好きですか」

 尋ねると楓の色白の頬が朱に染まる。色にいでにけりわが恋は。

 難しい相手で、難しい恋だ。

〝こいつは俺が生涯守ると決めた女だからだ〟

 ……恭司はそう言ったと聴く。あの奔放な野生の猫のような男が、楓に本気になったとは、俄かには信じられないが、恐らくそれは真実なのだろう。


 ん? とすると?


 私は楓の部屋の天井の、私の部屋のものと同じ和装の凝った意匠の電気を眺めて思う。


「え、私、恭司さんにお義母さんとか呼ばれるんですか、嫌!」

「落ち着いて、ことさん」

「楓さん、」


 いやこれが落ち着けようものか。嘗ては秀一郎に手傷をも負わせた隼太子飼いのコトノハ使い。ちょっとばかり見てくれが良いからと言って、安々と楓を任せる訳にはいかない。

「楓さんを嫁にと望むからには、まずこの私を倒してからにしていただきましょうか……!」

「ことさん、ことさん、戻ってきて」

 楓の懇願にはっと我に帰る。

 こほん。

「……すみません。取り乱しました」

「うん。それに恭司君は、私と結婚するとか考えてないんじゃないかなあ」

 それは私もそんな気がする。だからこそ楓との仲を諸手を挙げて祝福出来ないのだ。その後ガールズ(?)トークに一頻り花を咲かせてから、私は聖が待っているであろう寝室に向かった。すると台所を過ぎるあたりで聖が立っていた。玉虫色の着流しと、白い髪が闇夜にぼうと淡く光っている。私を見た聖の赤い目は名状し難いものを孕んでいた。私の右手首をするりと掴み、抱き寄せる。

「聖さん?」

「楓さんとご歓談でしたか」

 解り切ったことを訊く。

「はい……」

「僕は自分で思うより、嫉妬深い男のようです」

 囁きながら告げられる。

 縁側から迷い込んだ蛾がパタパタ舞っている。

 私は愛する男に抱擁されながらそれを見ていた。見ながらも頬が火照るのを感じる。


 ああ。

 色にいでにけり、だ。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます! 楓さんがことさんに日常の報告をしているところ、自然に打ち解けてて素敵だなぁと感じました。 [気になる点] 恭二君は結婚しても「お義母さん」とは呼ばなそうですね…
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