祝言
桜が芽吹き、咲き綻ぶ春。ごく薄い花色が少しだけちらほらと舞っている。
春風にも、今日という日を言祝ぐような吊り忍の音。
私は八重鶴に桜の白無垢を纏い、今年で十三になる楓の手を取りしずしずと歩いていた。
髪の毛は日本髪に結い上げ、鼈甲や珊瑚、銀の透かし細工など美々しく飾っている。その中でも楚々と目を惹く桜の小枝。庭のものを拝借したのだ。
そして待ち受けるのは私の生涯の伴侶となる聖。
青が極めて薄く混じった黒い紋付袴。
風が吹く。
おや烏の隼太が来ている。
主のほうは招待状を当然のように無視したのに、お行儀よく桜の枝に留まっている様子に笑みが浮かんでしまう。なぜだか聖が眩しそうな顔で楓から私の手を引き継いだ。私と聖は二人共、神職のようなものなので、斎主はおらず、二人揃って祝詞を奏上する。
見守るのは真葛や重音嬢、康醍夫婦、千秋、また大きくなった瞳、そしてどうやってスケジュールの都合をつけたのかキャロラインやビクターまでいる。
皆、私と聖のささやかな結婚式を祝う為に来てくれたのだ。
私は、父と兄は来ているのに本人は欠席した秀一郎と、俊介の胸中はあえて考えまいとした。
青い空がそれで良いというように金色の陽光を投げかけてくれる。
さして広くない家だ。仰々しさを嫌う私はさっさと自宅での挙式を選んだが(この挙式スタイル、何でも最近、注目されているそうな)一族関連の者、花屋敷関連の人たちを集めると家が潰れる。私が家で挙式するというと是非とも参加したいと言ってくれる声が有難いことに多かったが、中には花屋敷の住人たちや一族の他の者のように、遠慮して、その代わりに豪勢な祝いの品を贈ってくれたりした。
……しかし重いな、白無垢って。着たことないから解らなかった。頭もずっしり。一生、解らないままでいると思っていた時期もあった。
やがて客間で開かれた会食は和やかに賑わい、宴はその後、締め括られたのだった。
私はその会食では桜色の絹のワンピースを着て、母の形見である真珠のネックレスを着けた。
ことたちが挙式している頃、行きつけの喫茶店では俊介と秀一郎が言葉少なにコーヒーを飲んでいた。同病相憐れむ、ではないがことを想う者同士、互いの胸の痛みは解り過ぎる程に解った。今日、店内を飾る花は時期外れの淡い水色の紫陽花だ。紫陽花の花言葉は「移り気」。
「ことさんも紫陽花みたいだったらなあ」
今日も白い三つ揃えの秀一郎が、コーヒーカップの向こうからそんな俊介を窺い見る。
「そういうことさんで良いのかい、君は」
「意地悪い質問ですね」
「子供みたいに拗ねるのはやめたまえ」
「……俺は秀一郎さん程、大人になれませんから」
「マスター、パウンドケーキを彼に」
ここでぱっと顔を輝かせた俊介を見て、成程、まだ子供なのかもしれないと秀一郎は考えた。




