窃盗
その報せは知り合いの刑事からもたらされた。
夏の暑さ盛んな昼下がり。
「コトノハを使った窃盗団?」
『どうもそのようなのです。これまでの手口からすると、まず、目星をつけた裕福な家の人間に貴重品の在り処を訊き出し、それを難無く盗み出す、と』
「その一連の手口にコトノハが使われている。そう仰るのですか」
『被害者たちは口を揃えて相手の言葉の意のままに動いてしまったと言っています』
「……解りました。看過出来ない事態のようですね。心当たりがないでもないので、少しこちらでも探ってみます」
『よろしくお願いします』
チン、と電話を切ると、横にはいつの間にか聖がいて、赤い瞳を思慮深そうに瞬かせていた。
「聴いていましたか」
「はい。しかしとりあえずはこと様」
「はい」
「素麺を召し上がってください。夏バテ気味のようですし」
私は苦笑した。ここ最近、猛暑が続き、私の食欲は減退していた。窃盗団程ではないが由々しき事態だ。
今日は楓は小学校に登校していて、家には私と聖しかいない。
〝僕と結婚していただけませんか〟
急に聖のプロポーズをぽんと思い出し、口元が緩みそうになる。万難を超えて聖と結婚に至れることに感慨を覚える。
テーブルに着き、素麺を聖と共に食べる。
聖の目のような真っ赤な桜ん坊が硝子鉢に浮いている。芸が細かい。
「コトノハの悪用は、過去に例がないでもありませんが……」
聖の言葉に、私もある男の顔を思い浮かべる。
空調の効いた室内は涼しい。聖の推測は恐らく私と同じだ。
「はい。使い方次第で良薬にも毒薬にもなる……。悪用されているのであれば、それを止めるのが音ノ瀬家当主たる私の役目です」
閉め切った硝子戸の向こうに見える入道雲。
季節を弥が上にも知らしめる。
緑が揺れて、釣忍が鳴った。
その運んできたコトノハに、私も聖も耳を澄ませる。
聖がにこやかに微笑んだ。けれどそれは表面上の笑みで、芯からのものではないと判る。
「こと様。〝彼〟と会う時には僕も同席させてください」
「…………」
やはりそうなるか。ただでさえ、過保護な聖だ。私一人を事件の渦中に向かわせはしないだろう。
私は微苦笑して頷いた。
「ええ。未来の旦那様」
そう答えた時の聖の顔を、私は一生、忘れないだろう。
まるで初心な少年のような、真っ赤に火照った顔だったのだ。私は改めて、聖の心を盗んでいたことを認識した。




