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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
音ノ瀬異国血族編 第三章
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そちらのあなた

 レイニーが護送中に死んだと聴いたのはその数日後だった。

 服毒自殺らしい。

 私はキャロラインとの電話を終えると、黒い受話器をチン、と置いた。

 遣る瀬無い気持ちだった。

 今日は楓は学校だ。レイニーの件が一応の落着を見せてから、彼女は久し振りに登校した。もうその必要性もないのだが、恭司の送り迎えは続いている。

 私は縁側に出た。素足に木の感触が心地好い。

 鳴る釣忍に言寄せる。


「……貴方はそれで満足ですか」


 入道雲に蝉の声が聴こえ。

 季節はすっかりと夏だ。レイニー。

 レイニー。時は巡っている。

 けれど貴方は、それが耐え難かったのだな。

 時を止めたくて、選んだのだな。


「私と貴方は少し似ている。悲しみに、溺れた点が」


 私は太くなった桜の樹の幹と青々と茂る葉を見る。

 枝に隼太が留まっている。この烏はいつも気紛れだ。

 

 レイニーに語るコトノハは多くない。


「マリアさんとはお逢い出来ましたか」


 返るコトノハは当然、ない。

 ただ、石燈籠の横に一瞬、グレーのコートの影が見えた。中折れ帽と共に。

 それは本当に一瞬の出来事で、次の瞬間には掻き消えていた。

 隼太が、かあと鳴く。


 風が吹いて私の髪を揺らした。

 目を閉じて黙祷する。

 視線を感じて振り向くと、聖が立っていた。玉虫色めいた光沢の青緑の着流し。

 赤い色はその衣服にはない、と一瞥して安堵する自分がいる。

 聖が撃たれた瞬間とその後のことは、私にはトラウマのようになっていた。


「こと様」

「はい」

 聖が跪き、私と視線を合わせる。

 この紅玉の色が在る、至福。

「僕と結婚していただけませんか」


 ああ、もう逃れられないのだなと思う。

 この、私のウサギから。

 聖は私の手を取り、手の甲と掌の両方に口づけた。

 手の甲にする口づけは敬愛を。

 掌にする口づけは懇願と忠誠を。


 私は微笑んだ。


「はい」


 私の手首にはアール・デコ調の腕時計。


 柔らかで優しい風が吹く。

 風が吹く。

 私の時計兎に貰った大事な時計は、進む時を教えてくれる。

 私は再び空を仰いだ。

 時は進むのだ。

 



挿絵(By みてみん)






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