表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
音ノ瀬異国血族編 第三章
183/817

逃れた罪びと

「なぜだっ」


 境内に響き渡る大音声。


「なぜお前だけが喪った者を取り戻せる! 不公平ではないかっ。したり顔で、道徳を遵守するような振りをしながら」


 コトノハは続く。


「羊の皮を被った偽善者! 悪魔めっ」


 レイニーの口を夜叉衆が塞ぐ。

 しかし彼の言葉は私の胸を抉った。その通り。音ノ瀬家の当主である自負と同時に、私は自分を律する力に秀でている気になっていた。だが所詮は我が身が可愛い凡人であったのだと、自身について思い知らされた。

 私は双眸を細める。


「すみません。……(もく)


 今の心乱れたレイニーになら、黙のコトノハも有効だった。

 レイニーは声を発することが出来ず、ただ充血させた目で私を睨むばかり。

 その怨念は、受けて然るべきものだろう。


 やがてキャロラインとビクターが現れ、レイニーの身柄を引き受けた。近くでことの成り行きを見守っていたのだろう。

 ジョージと黄竜もやってきた。二人共、満身創痍、ぼろぼろだ。

 黄竜は恐らく、滅呪慟哭が使えないと風に聴き、戦意喪失したと思われる。彼もまた、キャロラインたちに連行された。ジョージもそれについて行く。自分一人、罪を逃れる積りはないらしい。

 隼太は見るべきものは見終えたとばかりに、大海と共に去って行った。それを咎め立てする夜叉衆はいなかった。端的に言えばその余裕がなかったのだ。


 それから私は再び公民館に取って返し、毒ガスの脅威は杞憂であったことを述べ、避難勧告を撤回する旨、放送した。


 夜半の夜叉衆は私の成したことについて何の追及もしなかった。

 皆、疲労していた。

 私の解散のコトノハで、彼らはそれぞれの家路に就いた。

 聖と私も帰宅し、着替えるなりシャワーを浴びるなりしてから、隠れ山まで飛んで楓を迎えに行った。


 楓を一度でも見放してしまったことを、私は生涯忘れないだろう。

 自分の悲しみに盲目となり、宇宙に縛られるところだった。もし帰還が叶わなければ、楓は聖と二人、私のいない穴を噛み締めながら生きることになったのだ。私は己の罪深さにぞっとした。


「ことさん、あたし、ことさんを待ってたよ。ね? 足手纏いにならなかったでしょう?」


 花屋敷で私に飛びついて真っ直ぐ見上げてきた楓に、私は言葉を詰まらせた。

 純粋無垢の眼差しに弾劾されるようだった。


 ともかくもその夜は祝宴となった。

 音ノ瀬隼人の日記も無事、手元に戻り、レイニーは本国に帰されるとキャロラインから電話で聴いた。

 俊介が甘鯛と種々豊富な茸を持ってきて、鯛の刺身と茸尽くしの鍋にブルーチーズを切った。厚揚げに出汁と大根おろし、鰹節を掛けた物も合わせた。

 白ワインと純米吟醸の栓が開き、秀一郎含めた三兄弟、俊介、聖、恭司、楓、私が漆黒の卓を囲んで飲んで食べた。

 私は聖の健やかな顔を盗み見る。

 あの時。

 永遠に喪ったと感じた恐怖と絶望。

 決して忘れないだろう。

 楓を置き去りにしようとしたことと合わせて、私は罪科を身に沁みて深く感じていた。

 聖の赤い瞳を見るたびに、幸福と、罪の烙印を感じるのだ。






挿絵(By みてみん)







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ