終焉の始まりは
世界が終わる時、というのはどんな景色だろうと私は考える。
それは雨上がりの虹のように、私の脳裏を掠めては、笑いながら通り過ぎる数秒の思考。
古代において虹は不吉の象徴とされていた。
今との扱いの落差に、私は人の想念の移ろいと儚さを思う。
世界が終わる時。
それは葉の先にぎりぎりまで留まっていた露が、ついに落下するような、刹那の美しさを見せるのかもしれない。とりどりの景色や人々の思い出といったものを一滴に凝縮して大地を目指す。美しいプリズムを見せながら。
庭に打ち水をしているとそんな他愛もないことが頭を占める。
或いは――――。
私は屋内を振り返り、ソリティアに興じている楓と恭司を見遣る。
そして今は秀一郎を見舞っている聖を想う。
或いは掛け替えのない人を喪った時、世界の終焉とするのかもしれない。
大海のように。レイニーのように。
客間には楓と恭司の他に、秀一郎の長兄である藤一郎がしかつめらしく端座している。
聖が呼んで、置いていったのだ。うちには恭司もジョージもいるが、ジョージはいざとなったらどちらの味方に転ぶか解らないグレーゾーンだ。
あれで心配性のところがあるのだ、聖は。
私は打ち水を終えた桶と柄杓を置いて、客間に上がった。
素早く反応して叩頭する藤一郎を、楓と恭司が物珍しげに見ている。その堅苦しさは概ね音ノ瀬一族全般に通じるものではあるが、藤一郎は特にその傾向が強い。時に気軽な言動をとる弟の秀一郎との違いだ。容姿は弟に似て、端麗。髪も弟と同じ黒褐色。但し色の着いた衣服を着て裸眼であるだけで、その印象は秀一郎から離れ、藤一郎個人を主張するものとなる。
秀一郎が特殊に過ぎるとも言える。妙に気障だから目立つのだ。
「藤一郎さん。咽喉は渇いてませんか。冷えた麦茶を出しましょうか。それとも熱い緑茶が良いですか」
「とんでもありません。御当主のお手を、煩わせる訳には」
そう言いながら台所で食器を拭きあげているジョージへの目配りにも余念がない。
うん。始終この反応では面倒だ。
秀一郎や聖以上に融通の利かない藤一郎は、長男という立場もある為だろう、殊の外、私に対して尊敬の念を払っていた。
恭司の目に面白がる光が躍っている。大人の困惑を面白がるんじゃない。
私が溜息を吐いて、選択肢に挙げなかったパックの水出し煎茶を客間の卓に置いた時、玄関の呼び鈴が鳴る音がした。私の前をまず藤一郎が行く。警戒しているのだ。だがその警戒は無用に終わる。
「お帰りなさい」
このコトノハを言える幸福。聖と千秋、そして俊介を私は迎え入れた。
聖が帰ってきた。当たり前の奇跡。
両親のように、帰らない場合とてあるのだから。
楓がととと、と寄ってきて私と手を繋ぐ。
小さなひとひら。
目の前の赤い双眸。
私の心を形作る愛しきものたち。




