守り人
まだ幼い人間の懇願というのは、大人のそれより切羽詰まって響く。
俊介は楓を見ながら、大きくなったな、と思った。
初めて逢ったのは楓がまだ八歳の時だ。その頃に比べて、意志の輪郭というものが格段に明確だ。だがまだ、大人の世を知らぬ一途さもある。
「ことさんは、俺じゃなくても聖さんや秀一郎さんが守るんじゃないかな。その力もある」
「しゅういちくん、昨日、酷い怪我をしたの。命も危なかった。ことさんは、そういう人たちに狙われてる。……しゅんくんは、花屋敷であたしを守ってくれたでしょう。そんな風にして、ことさんを守ってあげて」
恭司を見ると傍観する顔つきだ。
少女のコトノハは必死で純粋だった。
その何色ともつかぬコトノハに、俊介の胸が打たれた。
「解ったよ。俺に出来る範囲で、ことさんを守ると約束する」
楓の表情が目に見えて明るくなった。
「良かった。依頼料は、あたしの貯金から払います」
「いや、未成年からお金は受け取れない。それは君の将来の為に取っておきなさい」
楓がポシェットから出そうとしたのは、恐らく預金通帳だろう。ことが毎月、一定額を楓名義の口座に振り込んでいるのを俊介は知っていた。
俊介は楓の手を押し留めた。
「秀一郎さんの状態はそんなに悪いの?」
「…………」
楓が黙して頷く。
「そうか……」
俊介にとって秀一郎は、聖と同じくそつなく敵を蹴散らすイメージがある。
その彼がそんな重症を負うとは。
ならばことも不安に違いあるまい、と俊介は思った。
全く予期していなかったが、俊介が抱いていたある迷いや葛藤が、楓の頼みによってある状態に定まった。晴天の今日、事務所内は空調の必要もなく暖かく、まったりとした空気が流れている。
これが世界だ、と俊介は思った。
人々に何が起こり、何をどう決断しようともそれとは無縁に継続される。
楓と恭司が帰ったあと、俊介はレイニーにメールを打った。
「楓さん!」
私は気後れした様子で帰ってきた楓と、そら、言わんこっちゃない、という顔をした恭司を玄関で出迎えた。
楓と恭司の姿が消え、すわ敵の手に落ちたかと恐ろしい不安に陥っている最中だった。
恭司と共に姿を消したので、楓が自身の意志で出かけた可能性もあるが、それは如何程に危険なことか、私は気を揉みながら聖に宥められていた。その聖は、近所を捜してくると言って出たきりである。
「ごめんなさい、ことさん。どうしても外に出たい用事があったの」
楓は私の権幕に臆しながらも譲れない瞳でそう言った。
ああ、この子はこの子でもう大人になり始めているのだ、そうしてそれを私に止められる術などないのだ、と私は思った。
水蜜桃を思わせる楓の頬は蒼みを帯びた白で、双眼は屹立としている。
彼女には彼女の領分があり、守りたいものがあるのだ。
私はそれを尊重しようと思った。




