レイニー
隼太は荒ぶるものが好きだ。
強く樹々をも薙ぎ倒す嵐のような強さ。
荒ぶって喰い千切る強さの頂。
柔らかさや嫋やかさなどよりそのほうを断然に好む。
雨が降っている。
この季節にしては冷たい雨が。
外出の帰りに、出逢った男が雨を呼んだようだ。
そう、思わせるような空気を相手は纏っていたのだ。
そろそろ暑くなってきているであろうグレーのコートを着て、中折れ帽を被り。
その、帽子の下から垣間見える目が良くない。
あれは悲しみに沈んだ瞳だ。
戦士のそれではない。
恐らくは、彼は戦士でありながら。その矛盾。
出逢った最初から隼太は彼を敵と目して殺気を放っていたが、相手からはまるでそうしたものが感じられないのだ。
ただある、悲哀。
「日系音ノ瀬だな?」
「その呼び名は不本意だが……。私の名はレイニー・ダーク。君の言うように戦前にアメリカに渡った音ノ瀬の孫に当たる」
「レイニー・ダーク。本名か?」
「残念ながら」
そこから互いに接近戦術にもつれ込んだ。
テコンドーでも修めたのか、足技がやけに多いレイニーに対して、隼太も上段蹴り、回し蹴りと足技で応戦した。傘はとうに二人共、捨てている。
隼太の拳がレイニーの帽子を掠め帽子が飛んだところでレイニーがコトノハを処方した。
「切」
「防」
「斬」
「解」
互いに間合いを取り、睨み合う。
「今も音ノ瀬の血統主義は健全なようだな」
「それが日本を出た理由か」
レイニーの顔が歪む。
端整だがどこかアンドロイドじみた顔の瞳は大きな湖のように凍てつき青い。
「そうだ。一つの血筋を至上とするなど愚かな行為だ。血が、人の価値を決めるなど……。けれど祖父は渡米の後、日米の開戦により日本人というだけで収容所に入れられた。血、血、ブラッド……。どこまでも血がつきまとう。我々はこの数ヶ月、音ノ瀬本家の動きを監視していた。結果、音ノ瀬現当主と副つ家の守り人の婚姻話を知った」
そこでレイニーは言葉を切った。
激しい雨音にも負けない強さで、レイニーのコトノハが紡がれる。
紡がれる悲嘆、悲嘆。そして憤り。
何より強い悲哀の色は、激しい雨さえも凌ぐ程。
「私には解らない。なぜ未だに血統に拘る?血に拘る蒙昧が、マリアを殺した!」
隼太自身も髪から雨粒を滴らせながら眉をひそめる。
「音ノ瀬ことと副つ家の件なら自由恋愛だ。血が濃くなる弊害は多少、否めんがな。今の音ノ瀬は過去からの悪習を絶とうとしている。――――マリアとは誰だ?」
「信じるものか。結局は血筋で人を判別しているのだ、音ノ瀬本家は未だに! そのような一族は滅んでしまえば良い」
隼太が何か言おうとする前に、レイニーが一気に間合いを詰め、隼太の懐に掌底を打ち込んだ。
吹っ飛び、気絶した隼太に向けて、レイニーは雨と同じくらいの冷たい声音でコトノハを処方しようとした。




