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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
家督相続編 第二章
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変容受容

「だからね、この玉をこうやって、こう動かすの」

 土曜日、うちに来た悟に楓が客間でソリティアを教えている。

「難しいな」

「ばっか、お前、こんなんも出来ないのか」

 そこになぜか恭司が混じり、大人げなく真剣に考え込む悟を莫迦にしている。

 恭司は三、四回程やっただけで最適解に辿り着けたのだ。

 こうした遊戯に関して、呑み込みが早いらしい。

 莫迦にされた悟は悔しそうにもう一回挑んでいる。

「恭司君。そういう言い方、良くないよ」

「恭司さんと呼べ、ガキ。俺はこう見えて大人だ」


 そういうところが子供だなあ、と見ている私には思えるのだが。



 聖が散策に出て、好事家の物書きが住む家の、椿の生垣に差し掛かった時。

 風が吹き、待ち構えたように立つ隼太に出会った。

「僕に用かい?」

「ああ」

「何だろう」

 戦闘態勢は取らない。今は必要ないとお互い感じている。

 薄曇りの空の下、二人は緩やかに対峙した。

「音ノ瀬ことはこのまま、受け容れを続ける気か?」

「僕はそうだと思っている」

「……思ったより度量の広い女だな」

「あの方は、そういう方だ」

「――――ここで、音ノ瀬秀一郎と一戦交えた」

 そう言って隼太は椿の葉の一枚に触れる。

 生垣はまだ無残に散らされた跡を留めて、見る者の目に痛々しく映る。

「その時はこういう事態に発展するなどとは思わなかったが」

「……それは僕もそうだ。こと様とてそうだろう。未来の予測など、誰にもつかない。恭司君は今日、うちに遊びに来ているよ。楓さんと悟君を冷やかし半分だけどね」

 隼太は無表情に相槌を打つ。

「そうか。あいつもまだガキだな。――――――――音ノ瀬ことはなぜキャロラインからの要請を断った?」

「君が彼らを匿うことを頼んだのだろうに」

「そうだが遵守の義務は無いだろう」

「窮鳥懐に入れば猟師も撃たず、とこと様は言っていらした」

「……あの女らしいな」

「花屋敷が新築されたら戻らないのか」

「それはない。あの場所は知られ過ぎた。俺が戻ればまた面倒事が起きるぞ」

 あっさり言い放つ。

 フォーゲルフライ、という言葉が聖の脳裏に浮かんだ。それは元々の意味ではなく、ただ鷹が蒼穹を舞う映像と共に浮かんだものだった。

 流浪ではあっても、この男は何にも縛られない――――――――。

「〝ほとぼりが冷めたらいつでも花屋敷に戻ってきてください。門戸は開けておきます〟」

「何だそれは」

「こと様からの伝言だ」

「相変わらず呑気な女だ」

 隼太と今日、会ってからの違和感に聖は触れた。

「今日はいつものコートを着ないのかい?」

 黒いVネックのTシャツの上に、隼太は何も羽織っていない。

「たまには良いだろう」

 紫陽花色のコートは父である大海よりの守護の象徴だった筈だ。

 あの花屋敷炎上から、何か隼太の中で区切りとなるものが生じたのだ、と聖は思った。

 散らされた椿の生垣から遠ざかる、紫陽花色ではない隼太の背中を見ながら、時の流れを感じた。


 

「出来た!」

 やっと最適解を出せた悟が歓声を上げた。

「え、凄いね、悟君。私はもっとずっと何回も掛かったよ」

「それぐらい出来て当然だろ」

 恭司が水を差すように言う。

「恭司君も凄いんだね」

「おう、褒め称えて良いぞ、ガキ」

 楓が顔をしかめている。

「ガキじゃなくて楓。ちゃんと名前で呼んでよ。名前で呼ぶって大切なんだよ」

 悟がちらりとそんな楓を見る。

 恭司は一顧だにしない。

「はいはい。ガキ」

「もう!」


 傍から見ているぶんには十分、仲睦まじく見える三人だ。

 この三人のこれからもどうなるか。

 未来は解らない。

 とりあえず私は三人と自分のおやつに、ドーナツと牛乳を用意した。

 柱時計がもうすぐ午後三時を告げる。



挿絵(By みてみん)




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― 新着の感想 ―
[良い点] すべてのものが流れて変わる。ことも聖も楓も恭司もそいsて、隼太も……。
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