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ダブル・サイド  作者: 四宮 皇季
第四章 トワ、ダンジョンで出会い、攻略する
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二話 マリスの迷宮を攻略する

 今回でマリスの迷宮は攻略になります


6月11日 誤字を修正いたしました。教えていただきありがとうございます。

 トワは近くにあった小部屋の中を確認し、安全を確保した後、先程捕まえた娘のことで悩んでいた。そう、トワをつけて来ていた少女についてだ。


 「──はぁ~なんなんだ? この娘は……」


 考えたところで分かるわけでもない。当の少女はトワが気絶させたからだ。


 「────────────────」


 今のところ目を覚ます気配はない。目覚めたとき、暴れられたら危険なので、ロープで縛ることにした。


 「──こんなところだろ」


 この男は、ヤりきったぜ! みたいな顔をして少女を『亀甲縛り』にしている。これでは当の少女じゃなくても、トワに対し警戒するだろう。恐らくこの様なことをしたのは、少女のスタイルが原因だろう。

 ──ボン・キュ・ボン──この世界(フェブリーズ)で初めて見るくらい、ナイスバディなのだ。しかも金属鎧とかを装備しておらず、魔導師のようなローブを着ている。

 縛り上げた少女は、元から強調している胸を、さらに強くアピールしていて……実に眼福である!


 「──うむ。やっぱり、彼女のようなスタイルの良い女性には──コレだな!」


 そんな最低ともとれることを言っているトワは、少女を放置して、レベルアップした自分の肉体の調整をしている。

 今までは、上昇した分のステータスを『そのまま』使っていた感じになる。こうやって、自身の身体の細部まで意識して動かすことにより、微妙な手加減や様々な急制動を肉体に過負荷をかけずに行えるようにするためである。


 「────────う……ん」


 どうやら少女は意識を取り戻してきているらしい。

 トワが少女の覚醒に気付いて、十分が経つ。


 「いい加減にしないと、そのままの姿で放置していくぞ──」


 ビクン


 少女の身体が、動いた。


 「──何時から、気付いていたの?」


 「逆に返すが──よくお前は、意識が戻ったことを、悟られていないと思ったよな~?」


 トワは呆れた口調で少女に返す。少女は頬を膨らませ、トワを睨む。


 「質問に質問出返すのって、失礼じゃない?」


 普通に出会っていたなら、いくらトワといえども見惚れていただろう。だが、状況が状況だ。

 ──それ故に、少女は自身の言った言葉の代価(・ ・)を払うことになる。


 「──あ"あ"ぁ!? 現状の貴様に、そんな事を言う資格があると思うのかぁ!!」


 トワはとりあえず、現時点で最大の殺気(・ ・ ・ ・ ・)を少女に叩きつけた。この時点でトワの少女に対する他意はない。結果として少女が失禁したくらいだ。


 「──ひぃうぅ!!────」


 プシャーっと言う音が聞こえたトワは周囲を警戒するが──音の元は、目の前の少女の下半身からだった。若干臭いもする──。


 「ほう──漏らしたか……

 先ほどの威勢はどこに行ったんだ?」


 トワは少女を睨み付ける。今回は殺気を放っていない。純粋に『見た』だけなのだが……


 「──ひぅ……殺さないで下さい──」


 メッチャクッチャ怯えられた。少し心が折れそうなトワであった。──しかしそれでも、少女が着けてきた理由をハッキリとしなくてはいけない。


 「──さて? それは……君次第だ──」


 タップリと余裕をもたせて、少女を煽る。正直に話すなら、それなりに扱うつもりだ。

 しかし少女の思考回路はトワの考えの上を突き進んだ。


 「────私の身体が目・当・て?」


 ふざけたことを言うので、もう一度全力の殺気(・ ・ ・ ・ ・)をぶつける!!


 チョロチョロチョロ……


 さっきほどは、勢いがないらしい。二度も同じ恐怖を味わうとは──この少女はMなのかもしれない──。


 「さて──遺言はあるかな?」


 聞くだけ聞いてやる──そういうスタンスで話しかける。状況把握出来ているなら、どちらが優位か分かるだろうと軽く考えていたトワは、自分の判断が甘かったことを直ぐに知ることになる──。


 「私の身体を舐めるように見ていて、なのまともぶっているのよ!?」


 状況把握どころか、反省もしていなかった……。頭痛が痛いトワである。

 現状で利用価値皆無な少女は置いて行かれることになった……。


 「──────────じゃな」


 バタン


 扉が閉まるのを少女は、ただ見ていることしか出来なかった。それは当然だろう……簀巻きにされている時点で、身動きはし難いものだ。


 「──え"? ちょっと──!?」


 トワは少女のせいで無駄にした時間を取り返すべく、高速機動で動き回る。

 会話は無駄だったが、休憩中に身体を動かしたことは間違いでなかったと確信した。

 出会うモンスターは<魔繰糸>で切り裂きながら、壁を蹴り目にも留まらぬ速度で移動する。


 「もうすぐ三十階層のボス部屋に着くな……今度はどんなボスモンスターが出てくるんだ?」


 資料に一切データがないという、厄介な問題がある。そのこと自体も厄介なのだが、一番の問題は──ダンジョンを攻略した後のことが不明(・ ・)な点だ。

 ベル様にお願いをして、王城内の書庫に該当する書物がないか調べて貰ったのだが──これが全くの空振りだった。


 「──さて、鬼が出るか、蛇が出るか──」


 トワは三十階層のボス部屋の前に到着した。少しでも情報が残ってないか、周囲を確認するが、分かったのはこの扉が金属で造られているであろう事だけであり、門番に関する情報は何一つ発見できないという非常に困るモノだった。

 そうなると、最悪の事態は想定した方がいいのだろう──そう、三十階層まで来たのが嘘か──二十九階層で全滅しかけた何か(・ ・)があったと──。


 「これ以上考えても、答えは出ないかな?」


 情報収集をこれ以上しても、何もないと思ったトワは扉を開け中に入った──。



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 薄暗い通路を歩いて行くと……空間の広がりが目に付いた。

 高さ二十m、五十m四方あろう部屋の中央に何かがいた! うずくまっていた時点では判断できなかったソレだが、体をブルン!! と振るわせた。

 体を起こしたソレを見てトワは、無意識である言葉を口に出す──。


 「──恐竜? ──いや、ティラノサウルス??」


 一見そう呟いたトワは悪くないだろう。

 体高は優に五m、全長は九mになるだろう巨体、トワの身長ほどの頭部──そこに並ぶ牙は、狼の牙など及ばない程の鋭さが見て取れる。


 『Gyaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!』


 その大きな口から、咆哮が響き渡る。動いていない自分が後ろに下がっていくような感じがした。咆哮を上げたためか、背中が見えた。──その背には、不透明な水晶らしきものがあった。トワの背に嫌な汗が流れる。

 尻尾の先から順々に水晶は輝いてくる──。ソレにともない、恐竜もどきから感じる威圧感が上昇していく。


 「──っちぃ! これは……まずいな」


 そう感じたトワは、射線から全力で移動した。十mほど移動したときに、背後を高熱が通り過ぎた。


 「おいおい……これじゃあまるで、ゴ○ラじゃないかよ──」


 先程までは土の地面だった場所が、所々融解し、一部ガラスっぽくなっているのが見えた。


 「これが──情報がなかった理由なのか?」


 誰にでもなく呟くトワの推論は、正しかった。三十階層まで潜った冒険者は確かにいた。

 ただ、そのパーティーはボスの扉前で一度帰り──再度三十階層のボスに挑み敗れたのである。だからこそ、ボスに対する情報が何一つ伝わっていないのだ。その当時を知るものはいない──人族ではだが──


 「とりあえず……攻撃してみないことには、話が進まん……」


 二十m離れた距離を一瞬で詰め寄る。

 トワの足元が抉れ、土が舞い上がる。恐竜もどきの脚を踏み台にして、さらに上に登る。恐竜もどきの背中を駆け上がったトワは、首筋に刀での一撃を加えた!

 当然、刀には魔力を纏わせる事により──キレ味・耐久性共に高めている。


 ガキィィィィィン!!!!


 その刃は恐竜もどきの皮膚に通用しなかった! トワは刀が跳ねた反動で、空中に飛び出した!


 「──やばい!!──」


 恐竜もどきの瞳に怒りの色を感じ取った。スローモーションな時間の中、ヤツが空気を吸ったのを感じ取る! ──咆哮がくる……そう思ったトワの脳裏にある会話が蘇る。



 ──ダンジョンマスターとしては、咆哮を使うモンスターは重要なんだ! 何故なら……防ぐ方法が二つしかないからだ!

 その一つは、『同じような咆哮を行う』ことだ。

 もう一つは────



 それはクオンと話した言葉。その言葉は──トワに対する警告でもあったのだ!


 「この場にある……風の精に求める──この場に一時の──静寂をもたらせ!! 『静かなるとき(サイレント)』!!」


 発動場所は、恐竜もどきの喉元になる。どれほど大きな声でも、発生源を抑えてしまえば、叫べない! トワはヤツに対する対抗手段をこの時に得たのだ。


 『───────────────────』


 ヤツの十八番たる咆哮を封じられたのだ!そうなればヤツは最早、大きいだけのトカゲとなる。そうはいっても──攻撃が通用しない時点で、勝機がない──!!


 「熱放射(ブラスター)は分子の加速────!! そうか! これならいける!!」


 トワが何かを思いついたらしい──。


 トワは水筒を取り出し、フタを開け中身を刀にかける。刀に触れた水は凍り出し、刃の上に『氷の刃』を生み出す。

 その刃からは白い粉雪が舞い落ちている。


 「ちょっと……予定とは違うけど──新・魔法刀『氷燐零華』……完成だ!」


 そう言ったトワは、恐竜もどきに肉薄する。白い粉雪が一本の白いラインを生み出す。


 「──セェェェェェェイ!!!!」


 トワの振るった氷刃は、恐竜もどきの足首を守る分厚い鱗を切り裂いた!! ──しかし! そこから流れるはずの血は、一滴も流れない。

 それだけで終わらず、何度も切りかかる。一閃・二閃・三閃……氷刃でつけられた斬痕が青紫色になる……。

 尻尾での攻撃を悟ったトワは、その場から飛び退く。尻尾の攻撃は──トワの居た場所を、虚しく通り抜ける。


 「──ふう。結構魔法刀(コレ)の維持が大変だな……」


 これも魔法剣の一部である以上、MPの消費が激しい。

 恐竜もどきがこちらに突進しようとしているのか分からないが、その太く丈夫な足の爪三本で地面を引っかいている。


 ドタドタドタ──


 ヤツの足音が近づいてくる。


 「────甘い──『血華氷撃』」


 恐竜もどきの速度が最高点に達する直前、氷燐零華により切り裂かれた足首から氷柱の花(・ ・ ・ ・)が咲き、大地に根を張った! その氷の花は血で『真っ赤』に染まっていた……。その血はもちろん恐竜もどきである。


 ドスン!!


 地面に転がった恐竜もどきにトワはゆっくりと近づき、『大上段』に刀を構える。

 ──数回深呼吸し、目を開けたトワは刀を振り下ろした。


 「────『氷刃唯閃』」


 ブン! と振り下ろした刀は、何者にも阻まれることなく──その首を一刀ものもとに斬り伏せた。

 身体中を駆け巡る圧倒的な──力の奔流──レベルアップである。ゆっくりとその流れを抱き締める・・。


 フォォォォォン──


 ヤツが寝ていた場所に魔方陣が浮かび上がった。トワはそれに入る────


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 転送が終わって目に写るのは、石のレンガが四方を囲んだ、五m×五mの小部屋だった。そこには菱形の八面体が部屋の中央で浮かんでいた。


 「これが……ダンジョンコアか……?」


 トワがそっと八面体に手を触れると、八面体の輝きが失われた。──そして、トワの脳裏にある『声』が響く──。


 【──マリスの迷宮のクリアを確認──攻略者に、称号を与えます。

 トワに<ダンジョン踏破者> <一騎当千> を贈ります。

 神の試練を乗り越えし者に褒賞を与えます──】


 ──そういうと、脳裏に響いていた声は消え去った……。目の前には一振りの刀が現れた。

 鑑定をしてみて、その内容に驚く。



 【雷斬り】 実態のない雷ですら切り裂くという逸話を持つ刀。 固有装備(ユニーク) トワ専用

 ATK+百五五 固有能力(ユニークスキル) <雷斬り> 魔力を纏わせることにより、非実体の魔法・モンスターを斬ることが出来る



 オーバースペック乙……「役立つから、まあいいか──」そう思い、頂戴することにした。

 隣に浮き出た魔方陣に入り、入り口まで転送された──。


 「──な~んか……忘れているような?」


 そう思いながらも、疲れたので街に帰る。

 今回、一番不憫なのは、忘れられた少女です。


 誤字・脱字がありましたら連絡をお願いします。


 次回の更新は6月15日を予定しています。

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