6話 初めての侵入者
GW死にかけています。舐めていたわけではないのですが、忙しくてこの時間になってしまいました。
トワに発破をかけた翌朝、俺は警告音に起こされた。どうやら侵入者が森に入ったらしい。現在はダンジョンの入り口から周囲300m区間を通称”迷いの森”で囲んでいる。
俺はそれをベッドの上で確認している。そんな俺の両サイドにはルクレシアとルルミナが幸せそうに寝ている。ティナとローナは別の部屋で寝ているはずだ。
コンコン
俺の意識は二人から来訪者に向けられた。
「ミネットか?」
「はい。クランドール様が侵入者が来たのでマスタールームに来て欲しいとのことです。姫様は私が付いておりますのでお向かいください」
扉を開け中に入ってきたミネットは、俺の衣服を手にしている。恥ずかしいが今更気にするのも変に思い着替えさせて貰う。
「それじゃあ、2人のことは任せた。ミネットは身体に異常はないか?」
俺の問いにミネットは幸せそうに微笑んでいる。
「ご配慮、感謝致します。コレといった異常はありません」
いや、口には出さないが”お腹に手を置いてる”ってどうよ?理由はわかっている。昨日のことだと・・・。
「なら良いけど・・・。クランドールのところに行ってくる」
俺は二人の頭を撫で、入れ替わる際にミネットの頭を撫でた。
マスタールームは近いのですぐに着いた。此処までは眷族なら誰でも入れる。実際のところ此処に置いているのは、机と椅子くらいのものでパッと見”作戦会議室”に見えるようにセッティングしてある。
ただ此処はダンジョンの中で一番セキュリティーの高い”コアルーム”へ行く唯一の扉がある。コアルームには入れるのは、『ダンジョンマスター』の俺と、クランドールだけになる。
「クランドール、侵入者は頑張っているか?」
「残念だが、森に生息させた”ウルフシリーズ”に苦戦させられたり、”迷いの森”の効果で『迷子』になりかけておる・・・・・・」
「仕方ない・・・ダンジョンの完成度を確認するために、一時的に”迷いの森”の効果を切ろう」
あっさりとダンジョンの防衛機能を止めることもそうだが、性能確認のために侵入させる事などしない。その理由は・・・。
「大丈夫なのか?」
「問題ないだろう。なにせ”初心者を卒業した”程度の冒険者だ。クリア出来ても”一階層の中盤”まで行ければいい方じゃないのか?」
クオンはそう判断したが、当の侵入者は一人前になり3年は経っている。ベテランと呼ばれるに近い経験を積んできている。
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Side:冒険者
俺たちは冒険者になり、そろそろ5年になるパーティーだ。今回は初めてギルドから話を持ちかけられた。
「ケイン、今回の依頼が”5級”の試験になるんだよね?」
「ああ。3日くらい前に突如発生した、迷宮反応の確認と”脅威度”の調査が試験内容だ」
俺はシリアの言葉に応えた。本来こう言うことは、3級以上の冒険者が行うが、今回の調査では6級の俺たちに話がきた。ダンジョンが発生する前は”初心者が戦闘経験を積むにちょうど良い”レベルだったと言うのも大きい。
俺たちのパーティーは結成当初から、ずっと一緒で安全面を重視して依頼をクリアしてきた。他の同期は”早いパーティーで4級”に届きかけていて結構バカにされている。
それでも、その同期と違い”依頼達成率”は100%と高くギルドからの信頼は厚い。討伐の経験もそれなりに積んできて、チームワークにも自信はあったが・・・・・・。
「ケイン、この森に現れた”グリーンウルフ”だが妙に強く、連携が良すぎないか?」
「アッシュの意見に私も同意します。あまり無茶はするべきではないですね」
盗賊のアッシュの意見に魔法使いのサーラは同意した。剣士の俺、盾士のシリア、治療師ののアリーと俺たちは5人のパーティーになる。
「アッシュたちの意見に同意ね・・・。この森はあまりに不気味よ」
「分かっている。無茶はしないさ。可能な範囲での情報収集を行おう」
この試験依頼にクリア条件はない。どれほどの情報を集め、無事帰還出来るかが焦点となる。それに今回の依頼で皆の目的に届く。
「そうだぞ!今回の依頼でやっと”料理の出来る奴隷”を買えるんだぞ!!」
アッシュは吠えた。その話の内容に誰も突っ込まない。突っ込めないか?
「悪いな・・・。俺も頑張ったが食えるものを作れなかった・・・・・・」
ケインはそう言う。
「切って挟むだけでも”不味い料理”にどうしてなったのかしら?」
シリアの疑問は皆が持っている。
「実家ではナイフも持たせてもらえなかったですし・・・」
サーラは不器用・・・超不器用だ。怖くて刃物は持たされない。
「あたしも教えて貰ったように料理しても、何故か変な味に成るのよね?」
アリーはドジっ娘だ。素で塩と砂糖を間違え、トト(トマトのようなもの)とピーニョ(唐辛子っぽいもの)を間違えて入れる。
「切って、ぶち込んで、煮るだけなのになんで食えなくなるんだろう?」
アッシュのは料理と呼ぶには失礼な『闇鍋』と言ったところだろう。
「それにしても良く”料理が出来ない”もんが集まったものだ」
「そうね・・・買う奴隷は可愛い娘にしましょう!成人したばかりの娘がいい!」
元気良く答えるはシリアである。ラグドリーズで販売される奴隷は15歳からであり、奴隷商も14歳くらいからしか買い取りをしない。この事は”神の決めた規則”であり、コレを破ると血族全てに『奴隷印』が生じ、最初の発見者が主人となる。それ故に、奴隷商とは”ある意味気高く、高潔”な社会イメージとなる。
無論、違法奴隷商はいない。国の無認可でしょうものなら血族全ては”死に絶える”事になる。
「シリアはいつもそうね。でも可愛い娘でも、冒険者になれなかったら諦めてね?」
アリーは無理強いだけはしないでとシリアにお願いをした。実際奴隷に選ぶ権利はないが、自分から望む・望まないかで成長に差がでる。
「休憩はここまでにして、調査を続けよう」
ケインの言葉に全員が頷き、移動を開始した。その様子を見ている存在に気付かないまま・・・・・・。
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Side:クオン
なんとまあむなしい連中だ。料理番に奴隷を買うなんて、無駄じゃねぇ?そう思うが。
「ふむ・・・こいつ等を使うか?」
「どういう意味だ?」
クランドールはクオンの呟きに質問する。
「言い方は悪いが”撒き餌”に使おうかな・・・と、思ったわけだ。多少の被害は覚悟して、ちょいと豪勢な景品を与えてやろうかな?と考えている」
「現状、ダンジョンへの侵入者がいないからな・・・」
クランドールも理解したようだ。冒険者なら、”全て自己責任”であるから多少の死人がでても問題にならない。
「さて”ご褒美”はどうしようかな?メイス・棍棒とかでいいかな・・・・・・。
品質は”失敗した上級品”で問題ないかな?」
クオンは悩む。コレでいいのか・・・と。
「クオンは知らんようだが”ハイノーマル”は中級者のステータスになっとるぞ?まあ文明がいくら進んでも、そこまで鍛冶技術が進歩しているわけではないからな・・・」
「元々は『稀少固有』の武具を造っていた時の失敗作だし・・・。性能もそんなに高くないんだ・・・・・・」
少し恥ずかしそうにクオンは話した。10個作った武具の内で成功したのは”5つ”だけありその完成品はルクレシア・ルルミナ・ミネット・ローナの四人に渡してある。
付加されたスキルは<魔装化><状態異常無効><超回復>の3つのみであるが、その一つ一つが”異常な効力”を持っている。
魔装化・・・所有者の適正に応じた武具になる。ちなみに、ルクレシアは指揮棒・ルルミナは単眼眼鏡・ミネットはダガー・ローナは巨大戦斧である。
超回復・・・魔力を全消費しても10秒程で完全回復する。キズも回復するが、軽度の擦り傷で20秒、骨折でも1時間くらいで回復する。
このスキルはこの世界にはないモノで、特別に・・・と言うか”偶然”出来たスキルで作成したモノになる。
創造・・・神権能力を越えたスキル。スキルの理から外れた存在である。創造力・想像力・妄想力の全てが必要になるため、扱いが難しい。
とこんなスキルを手に入れた。使ってみて解った事はこのスキルがかなり”ピーキー”なモノと言うことだ。スキルのことは此処までにして、4人に与えたアイテムの形状はローナが”腕輪型”他の3人には”婚約指輪を兼ねた指輪型”になっている。現状では着けられないティナの分も同型で作製してある。
やっと冒険者がダンジョンの入口に到着したようだ。
Side:冒険者
あれから数十分でダンジョンと思わし”穴”を発見した。コレからどうしようか話し合うことになった。この時の事は後々思い出すと、彼らとの”縁”の始まりであると同時に”配下としての俺たち”の栄光と大陸巡りのスタートでもあった。
「試験としてはダンジョンだけで問題なくクリア出来ると思う。ただ、間違いなく”ダンジョンへの一番乗り”は俺たちになる・・・」
「一階層の入り口周辺と、モンスターの群生情報をある程度入手した方が、評価としては高いのではありませんか?」
サーラの意見はもっともであり、続くアッシュの言葉にも魅力がありすぎて正常な判断は難しいだろう。
「ケインの心配は分かるが、こんな機会には滅多にありつけないぞ?このチャンスは生かすべきだ!」
「アッシュの言うように、少しでも”手付かずのお宝”を回収しない?」
3人の意見を受け入れた場合の、利益などを頭の中でイメージしてみる。仕掛けられている罠、手付かずのお宝・・・数分悩んだ俺はリーダーとしての判断を下す。
「3人の意見を受け入れよう。ただ撤退の条件はかなり厳しくする・・・このことに関しては、反論は認めない!」
「初めて入るダンジョンである以上、私は賛成ね。軽傷なら簡単に治せるけど、死んだらアリーの回復魔法でも無理だし・・・。買う奴隷をハグ出来ないのは嫌よ」
何かズレているように感じるが、このチームの守りの要であるシリアの賛成は大きい。
「「「問題なし(ありません)」」」
3人も同意してくれた。
「撤退条件は、モンスターが予想以上に強かったとき・サーラ及びアリーのMPが40%になったとき・ダンジョンに入って3時間が経ったとき、以上3点だ。
隊列はアッシュを先頭にシリア、サーラ、アリーの順で俺が最後尾を行く」
隊列を決めた俺たちはダンジョンに入る。
ダンジョンに入って、体感的に10分を過ぎたくらいだろうか?出てくるのは主にスライムとフォレストウルフだった。遭遇数はダンジョンの割に少ないと感じる。より注意して進むべきだろう・・・。
「ケイン、この角の先に小部屋があるようだ。扉の方に向かうか?」
「確かに木戸が見えるな・・・。よし、罠に注意して進んでくれ!」
俺はアッシュにさらに注意を促した。そろりそろりと足音をたてずに先に歩くアッシュは扉の前に着くと、俺たちに『安全』だと合図した。全員が扉の前に集まると、アッシュに扉のチェックをさせた。
「扉の方に罠はないようだ。開けるぞ?」
シリアの緊張感が高まったのを感じる。俺は後方の注意、サーラは魔法をいつでも使えるようにスタンバイ、アリーも俺と同じく周囲の警戒をしている。
「部屋の奥に宝箱があるぞ!!ケインこのまま入ってもいいか?」
アッシュの興奮が伝わってくる。他のメンバーにも少なからず、伝播したらしい。
俺は興奮を抑えるために、一度深呼吸を行う。
「わかった。室内に入るが、各人かなり注意してくれ・・・・・・。」
そうして俺たちは財部屋に入った。
*そのころのクオンたちは・・・・・・
「クオンよ侵入者を放って置いて大丈夫なのか?」
「問題ない。何も問題ない。最初の罠を回避できる奴はいないさ・・・・・・。”ダンジョンで初めての宝箱”を無視する奴はいない」
朝食のトーストを食いながら、俺は断言する。
「最初の大罠はどんな感じかな?」
悪どい笑顔でクオンが笑う。どうなるのかな・・・・・・?
初めての侵入者と、宝箱の中身は?
次回の更新は5月10日を予定しています。
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