5話 彼女の両親と・・・猫?
花粉がどんどん多くなってきて、花粉症には大変です。
昨夜、忙しく動き回った為かイマイチ疲れが取れていない気がする。実際に昨夜寝たのは、『朝1の鐘』まで設置に時間を取られた。何より一番、ギルドマスターの役立たずっぷりには、流石に俺たちよりおっさんの娘の受付嬢がとても怖かった。
「お父さん・・・・・・手伝っているつもりなの?それとも・・・邪魔しているの?」
・・と、とても暗い笑顔で笑っていた。あれは、一般人だと裸足で逃げ出してしまうだろう。
邪魔と判断した娘に簀巻きにされた。哀れと思う前に、俺とクロードは恐怖に支配されたように(支配されていたと思う)動き回った。ちなみに、おっさんは受付嬢が引き摺って部屋に持って行った。
外からは”3の鐘”の音が鳴り響いている。死者を送るには、少し上天気過ぎる気がしないでもないが、送り出す以上晴れてくれて助かった。そろそろ朝食を食べに行かないと、クロードが来てしまう。
「ハルティナの花か・・・。きっと何かしらの『花言葉』があるんだろう。」
そんなことを考えながら、朝食を食べた。今日の朝食は、ハム?と卵に薄味のスープが付いていた。この世界の食事は、ほとんどが『パン』であり『米』があるのかが心配だ。このパンにも幾つか種類があるらしい。
一番安い『黒パン』は、色が黒くそして固い。冒険者が保存食の一つとして利用するのがコレだ。固い理由は、”パンの水分が少ない為、保存が効く”それの代価が”歯が立たない”固さとなる。安い宿に多いらしい。単価は20~30リム。
二つ目が、表面が『茶色く焼けているパン』である。地球のパンにかなり近く、柔らかいがそれ程長く保存は出来ない。精々、2・3日くらいとの話である。現在の宿がコレを出す。単価は70リム前後。
最後が一番高い、『白パン』になる。”高級品の小麦粉”と『エルーミュ』と言うモンスターから採って作った”バター”っぽいものを原料にして、焼かず蒸してあるものらしい。
金額はピンきりで最低の価格が1000リム以上になる。他の二つとは比べられないほど、高級なのは材料が原因だ。ちなみに、保存にはむかず”当日中の消費”が定着している。
スープとセットで、『黒パンは60リム前後』で『茶パンだと100リム前後』になる。
高級な『白パンだと1500リム前後』なる。これほど高額になるのは、そのような料理を出す店が高級店になるからだ。
そんな話はさて置き、クロードが宿屋の入口から入ってきた。今日は、鎧姿ではなく落ち着いた服装だ。
今日の役目を考えれば妥当な服装と言える。トワの方は、動きやすさ重視の丈夫な服だ。
「おはよう、トワ。今日はよろしく頼む。」
「おはよう。あんまり肩肘張っていると、夕方まで保たないぞ?」
さあ、ハルティナの花を買いに行こう。
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あれから『2の鐘』くらいの時間、街中を歩き回り結構な時間探し続けた。回った花屋の数は、20店舗に及ぶ。そろそろ昼の時間が近付いてきた。
「クロード、そろそろ昼の時間になるが、今日の予定的に昼飯はどうなるんだ?」
「エリーの家族と顔合わせをして、姉さんが説明しているけど、出来ればトワの方からも話して上げて欲しい。」
「クーリッシュ家の当主たちと?」
ちなみに『クーリッシュ家』とは、トワが連れ帰った”彼女”の実家になる。
”エリスティナ・クーリッシュ”それが彼女の名前で、リヴィエルナ嬢から帰り際に教えられた。トワ本人としては、あまり貴族と関わりを持ちたくない。その本音は”世界を崩壊させない”為だ。
別に毛嫌いしたり、反発する気はない。クロード自身も貴族らしいのだ。個人的な繋がりは持ってもいいが、”貴族家”としての関わりは今の所持ちたくはない。
「ええ。姉さんの説明のお陰か、エリーの両親が昼食を兼ねて先に会いたいらしいんだ。」
「けど・・理由あっての”介錯”でも、親としては文句はないのか?」
「お二人はかなりの人格者です。詳しいことを聞かれはするでしょうが、私の父上の信頼も厚いです。」
この言葉に立てていた仮説が正しかったのを、望まぬ内に理解してしまった。心境としては”成るようになれ”である。
「侯爵家の当主になると、それこそ『国王』の信頼も厚くなるよな?」
そう無意識に返事していた。少し驚いたようだが、苦笑を返され「何時から判ってたんだ?」と言われた。
「クーリッシュ家が侯爵家と分かった時点で、”もしかして”とは思っていたさ。」
本当にもしかして・・でしかなかった。しかし、”騎士王子”ならぬ”兵士王子”とは恐れ入ったが。この国限定のことだろうか?
「しかし何故、兵士をやっているんだ?」
「父上の考えもあるが、私と姉さんは”第2王妃”の子供なんだ。第1王妃には2人の王子がいるし、王女も一人いる。そうなると私たちは・・・「争いの元になる・・・か?」・・・そうだ。」
そんなことを言っているが、クロードは父親を嫌ってはいないのだろう。尊敬しているかどうかは不明だが。
「私はまだましな方だ。姉さんは・・・・・・」
「政略結婚の生け贄になる・・・か。世知辛く思うが、王族に生まれた”王女”の定めか?」
「最悪はそうなるだろう。身内びいきになるが、側室とはいえ王女だし・・・それに美しい。」
トワは「クロードは”シスコン”か?」と内心思ったが、その言葉をなんとか飲み込んだ。
「まあ否定はせんが・・・」
そう言うことしか出来ないトワを責めないで欲しい。
「で?クロードはクーリッシュ家に降家というわけか?」
「そうは言っても、私もエリーも互いに”愛し合っていた”から基本的に問題はなかった。」
婚約者が亡くなった以上、クロードはこれからどうなるのだろう?俺の心配しているのが顔に出ていたのか、苦笑しながら話してくれた。
「エリーの妹と結婚することになるだろう。まだ12歳になったばかりだから、3年後になるだろうがな・・・。」
別段、おかしなところはないのだが、地球での感覚がちょっと邪魔をする。クロードの表情は落ちつきていて、その妹との仲は良いのだろう。
「クロードも大変だな。俺もある意味、ハズレを引いた様なもんだが。」
初依頼でモンスターの大群と戦い、ゴブリンの巣で”侯爵家令嬢”の介錯をすることになる。登録当日にそんなことにあって、生き残れたのはトワだけだろう。
「トワにとってはそうかもしれんが、エリーを連れ帰ってくれたことには感謝している。私もそうだし、姉さんも、エリーの家族も同じだ。トワがしてくれたことは、他の冒険者ではしてくれないことだ。」
少し悲しそうな顔をしながら、「国と冒険者は”金”と”利益”で繋がっているから・・・」と言った。
現実問題、トワも”冒険者”だ。今回のことだって、彼女が『死んで』いたらそのままだったと、自分自身で思っている。会話を交わしたからこそ、地球での感情がトワを引っ張ったのだから。
「感謝して貰っても、今回の事はたまたまだ。状況が少しでも違ったら、連れ帰っていないと思うぞ?」
「『たら』『れば』は無用のまさかだろ?」
そう言いながらも歩き続けること30分。”貴族区”にある、クーリッシュ家の門前に辿り着いた。
クロードが門の柵を開け、トワに入るように言う。荘厳な扉に付いている、獅子?らしいノッカーで扉を叩いている。
コンコンコン
高めの音が玄関に響く。扉の向こう側から、人の歩く音が近づいて来た。
「お待ちしておりました、クロード様。お隣の方が、トワ様で御座いましょうか?」
「ああ、彼がトワだ。ベルフォート様とクリシア様に到着したと伝えてくれ。」
このやり取りを聞いていると、クロードが王族だと納得してしまう。今まで無かった、〈威厳〉的なものを感じたからだ。
「広間でお待ちになっております。」
そう言うと『優雅』と言えそうな佇まいで、俺たちを案内した。メイド服って”異世界共通”なのだろうか?そう心の中で思った。
コンコンコン
「旦那様、クロード様とトワ様がお見えになられました。」
流れるような動作で、一連の動きを行う彼女に見取れてしまった。
「村育ちだと、メイド自体が珍しいのか?」
クロードは面白そうに話しかけてくる。「頼むから、大きな声で言わないでくれ!!」と心も中で叫んでしまった・・・俺は悪くないはずだ。
「おお!待っていたよ!入りなさい。」
かなりフレンドリーな声が聞こえてきた。入室すると目に映ったのは『猫』だった。驚きのあまり固まった俺を、クロードは腹を抱えて笑っていた。
「やっぱりトワもそんな顔をしたか!(≧∇≦)b」
「キチンと説明はしてくれるよな?」
ギギと音が聞こえそうなほど、変な動きをする。
「おや?クロード君は、我が一族のことを説明していないのかい?(*ゝω・*)ノ」
笑いながら、俺に声をかけるベルフォート氏?
黒い毛並みに、60センチくらいの体高。はっきり言って『猫』以外の何者でもない。
頭に浮かんだのは、一つの種族だった。
「”妖猫種族”か・・・?」
「その通りだ!改めて紹介しよう!
”ベルフォート・クーリッシュ・ケットシー”ワシがクーリッシュ家の当主だ!ε=ε=(ノ≧∇≦)ノ」
俺の周りをチョコチョコ周りながら、自己紹介を始めたベルフォート氏。隣にいるのは”猫獣人種族”の女性がいた。当然、彼女はベルフォート氏の妻である。
「クリシア・クーリッシュ・ケットシーと申します。此度はお招きに応じていただきありがとうございます。」
丁寧な口調で話しかけられて、返事が返せなかった。
「あ~ご丁寧にどうも。冒険者7級のトワです。」
本人的には、丁寧に話したつもりだ。しかし、ベルフォート氏たちは笑っていた。
「娘の恩人だ。無理に敬語を使わなくて結構だ(^_^)ノ」
クロードの方を見ると、頷かれたので問題ははないらしい。有り難く、好意に甘えよう。
「そうだな、ワシのことは『ベル』と呼んでくれ(ゝω・)」
「私のことは『シア』と呼んでね?(*^▽^*)」
何ともフレンドリーな夫婦である。貴族として、いいのだろうか?と思わなくもないが、敬語の苦手な人間のセリフではない。ここはあまり、気にしないようにしよう。
「クロード・・・どうやったら、この二人から彼女が生まれるんだ?」
疑問を口にしてしまう。どう見ても彼女は"人族"にしか見えなかった。
「獣人族と人獣族にの違いって知ってるか?」
この言葉に俺は頷き返した。
獣人族は"人をベースに獣の部分がついている"種族で、クリシア氏がこれに当たる。
人獣族は"獣が人族のように二本足で生活し、手を動物より器用に使う"種族で、ベルフォート氏がこちらに当たる。
「基本知識としてはそうだが、少し違うところがある。エリーは"先祖返り"したので、人族の様な姿だったんだ。
そうは言っても、少しは獣人の特徴があったんだ。」
詳しく彼女を観たわけではないので、どうだったは分からないが、あの時感じた違和感を思い出そうとした。
「・・・もしかして・・瞳か?」
「よく分かったな!私は教えて貰うまで気付けなかったんだが・・・」
少し落ち込んだ表情のクロードを見て俺は、「しっかりしろよクロード」との言葉をなんとか飲み込む。
「クロード君ですら、エリーが教えて気付いたのにスゴいではないか!ヾ(o´∀`o)ノ」
この猫が侯爵家当主とは・・未だに実感がない。尻尾がピコピコ動いている。
「うふふ・・・。クロードさんは”ハルティナの花”のこともエリーに教わったのよね?」
シア婦人が、おっとりと笑っている。その姿を見て「娘を産んだとは思えんよな?」と言いたくなる。
実齢は知らないが、外見からは未だに”令嬢”と言っても誰も納得しそうだ。
「それで、”ハルティナの花”は買い占め来てくれたんだよね!(*ゝω・*)ノ」
猫の顔が器用に”悪い顔”をしていた。案外俺がそう感じ取っただけなのかもしれないが。
この場で”ハルティナの花”ついて聞いた方が良いと<直感>が告げている。
「そういえば、買ってきた”ハルティナの花”がどういったものなのかを知らないんだが?」
俺がそう言うとシア婦人が答えてくてれた。
「”ハルティナの花”の合言葉は、『再び、巡り会う』。死んでも再び、愛し合う二人は出逢うそうなの。」
そう教えてくれた。
お読みいただきありがとうございます。
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次回更新は、3月20日の予定になります。




