【特別番外編②】ミオの休日
それはまさに、青天の霹靂であった。
「では、本日はお休みを頂戴いたします」
「エエッ!?」
と、声を上げたのは僕だけだった。
「なにがエエッですか、トマス」
ミオ様に睨まれ、額に汗をかく。
事前に話を聞いていたらしい、旦那様やマリー様、それにリュー・リュー夫人は、行ってらっしゃいと手をフリフリしていた。
「だ、だってミオ様、僕がここの城に来てから二年半、一度もお休みとったことないじゃないですか」
「それで驚く方が不思議です。普通は週に一度か二度はお休みをもらうものですよ。あなただって今日は日中休みでしょう」
そう言われてみると、確かにその通りなんだけど……。
「ミオ様って、何かこう、お尻で火を燃やしておけば永久に稼働していられるのかと思ってました」
「私は蒸気自動車ですか。確かに、体の休息は業務の合間で事足りるのですけどね。今回は旦那様から休むように言われたので、少しまとまった用事を済ませようかと」
「それにしてもミオは働きすぎだからな」
旦那様が言う。
「侍従頭が休まなさすぎると、下の者も遠慮する。たまには気を抜いたところを見せるのも上司の務めだぞ」
「……そのように、旦那様がおっしゃるので仕方なく」
と、ミオ様はいつものように淡々と言った。しかしその表情がなんとなく和らいでいるような、楽しみにしているような……。
「そういうことなので、出かけて参ります。失礼いたします」
ぺこりと一礼し、彼女は食堂を出ていった。
閉ざされた扉をぼんやり見つめる一同。
「どこへ行くのかしらね」
マリー様がぼそりと言う。みんなが同じ感想を持っていたらしい、黙って顔を見合わせた。
本当、どこで何をするんだろうなあ。まあ僕には関係ないんだけど……。
と――。
「怪しいわね」
「ぶふっ!? な、何!?」
突然現れた幼女の声に、僕はグリーンピースを吹きだした。顔に張り付いた豆を弾き飛ばしながら、ツェツィーリエが不機嫌な顔で言う。
「とても怪しいと思うの。ミオさまがお休みを取るだなんて」
「そ、そうかい? 確かに珍しいけど、本人も言った通り普通はもっと休んでも当たり前だし」
ちちち、と人差し指を振るツェリ。
「休むこと自体はいいわ、だけど旦那さまに言われたから仕方なく、というには、お顔がワクワクしてたように思うの」
「ええ? 確かに機嫌よさそうな気はしたけど、別に、久々の休日なら普通」
「ふっ! トマスは女のことがわかってないのだわっ!」
びしっと指を突きつけて言う六歳児。
その後ろから、もう一人の六歳児がひょこっと顔を出した。
「僕にも分かったよー。ミオ様、なんだか機嫌が良さそうだったよね!」
マリー様の弟、セドリックである。
学園が連休の間、この城に居住している彼だけど、同じ年のツェリと気が合うらしい。二人はよく一緒にいた。
「きっと誰か、恋人か友達に会いに行くんだと思うな。デートだよ、きっと!」
「ほら、セドリックもそう言ってる」
と、得意げなツェリ。
……あのミオ様に恋人、友達……そんなのいるかな?
首をかしげる僕。ツェリとセドリックは、顔を見合わせてニヤリと笑った。
「これは、調査が必要なのだわ」
グラナド城は王都の南の果てにある。運河を利用し職人街への搬入や港町へ下るにはとても便利だけど、街中からは少し離れている。
僕たちはまず、使用人用の小さな馬車で城を出た。都会につくと馬を預け、馬車鉄道に乗り換え。そうしてミオ様から最低限の距離だけ取る。もちろん変装はしているが、結構大胆な尾行だった。そうして昼も少し回る頃、ミオ様は市場の入り口に降り立った。
「市場の婦人街だわ……ショッピングをするみたいね」
トレンチコートにレプリカのパイプ、口ひげ姿のツェリが言う。
うんうん、と、頷くセドリック。テンガロンハットになめし皮のベスト、やはりオモチャの小銃を無意味に構えて、柱から顔を半分出す。
「婦人街には可愛い服や化粧品がいっぱい売っているからね」
僕は、そうかなあ、と首を傾げた。
その拍子にずり落ちてきた、縦巻ロールの鬘を慌てて直す。
「ショッピングだったら恋人と待ち合わせてから一緒に行くものじゃないか? あとなんだよこの変装、かえって目立つだろ」
チッチッチッ、とツェリが舌を鳴らす。
「トマスはほんとにわかってないわね……待ち合わせの前に化粧品やドレスを買って、ドレスアップしてから会うのよ」
「そ、そうかなあー」
「ほらっ服屋さんに入ったわっ」
指差された先を反射的に振り向くと、確かにミオ様が、女性服店に入っていった。ミオ様はふだん、ずっと城にいて、休憩中もずっと侍女のエプロン姿をしている。流行りの服を買う必要はないはずだが……
「あっ出てきた! 見て! 可愛い服を着ているわっ!」
「えっ、わ、ええっ……」
「中で買ったものに着替えたんだね。わー、ミオ様かわいい~」
六歳男児が無邪気に言う。
そう、ミオ様の装いは一変していた。鮮やかなオレンジ色の市民服、いつものおさげ髪もほどき、長い髪を風になびかせている。さらに彼女は斜向かいの化粧品屋に入り、メイクアップまで……。
「え、えっ、えっ、まさか本当に?」
「そうこれは恋人よデートよ間違いないわっ」
確かに、街へ出るだけならただの買い物や、友人と会う可能性もあるけど……お洒落にイメージチェンジときたら、野暮な想像もしてしまう。
キャッキャと嬉しそうな幼児たち、戸惑う僕を尻目に、ミオ様は通りの店に入っていった。お洒落なレンガ造りで、これまたお洒落な看板には、『テラスカフェー癒し』とある。
「ここで彼と待ち合わせなんだわ……」
「う、うーん……それにしても、どうして出先で着替えてたんだろう。城を出るときで良かっただろうに」
「ふふふ、トマスはやっぱり鈍いわね」
ツェリはいよいよ僕を小馬鹿にした。なんだよ、と見下ろすと、そっと耳打ちしてくる。
「秘密の恋よ。ミオ様の恋人は、ひとさまに言えないようなおひとなのだわ」
「え……」
「旦那さまやマリーにもバレたら困るような……あるいは法律に触れるような……」
「なんだそれ、どんな男だよ。マフィアのボスとか?」
「ツェリの推理だと――ズバリ! ミオ様のお相手は、アルフレッド・グラナド公爵ねっ!」
「えええええええええっ!?」
大絶叫をしてしまった僕を慌てて口をふさぎ、黙らせるツェリ。だって……そんなばかな!
僕はセドリックに助けを求めたけど、セドリックもまたウンウン頷いていた。
「そうだねえ。ミオ様はおとなだし、別に侍女って恋愛禁止でもないから、秘密にするならそのくらい、まじやばなひとだよねえ」
「い、いやいやいやいや。グラナド公爵って、キュロス様のお父さんだろ? リュー・リュー夫人とも親子くらい歳の差があるのにミオ様とじゃ祖父と孫、っていうか実際、義理の親子みたいな関係じゃないか」
「だからやばいのよ。これは一大スクープよ、グラナド城がひっくりかえっちゃうわっ」
いやいやいや……。
そりゃあ、男女のアレコレは理屈や打算だけで成るものじゃないよ。数百年前には政治的策略で近親婚が繰り返されていたというし、年の差婚だってまあ、あるだろう。僕は数えるほどしか公爵を見たことないけど、旦那様によく似た美丈夫で、今でも若い娘に惚れられてたって驚きはしない。同時にミオ様だって見た目は悪くないんだし、当主が使用人に手を出すなんてよくあることだし……。
だけどあのミオ様が……助平爺の言いなりになるか? あるいは秘めた思いを持ったとしても、突き通すものだろうか? リュー・リュー夫人や旦那様に不義理をしてまで……。
「あっ、出てきたわっ。テラス席に座った。これで観察しやすくなったわね!」
「でも、あっちからぼくたちのことも見えちゃいそう。茂みの陰に移動しよ」
僕はコリコリ頭を掻いた。
「……いや、ふたりとも、もう帰ろう。これ以上詮索するのは――ぐえ」
後ろから首にぶら下がられて、僕はカエルみたいな声を上げてしまった。僕の首をぎゅうぎゅう絞めながら、ツェリとセドリックが文句を言う。
「なんでよ、ここからがいいとこ――重大な事件なのに! 彼氏の顔を確認して、あたしの推理を検証しないと、無責任なのだわっ」
「いやもうただの悪趣味だよ、てか僕になんの責任があるってのさ」
「ここまで来たからにはミッション・コンプリートまで付き合いなさいっ。トマスもほんとは気になるくせにぃ~」
「き、気にならないと言ったら嘘になるけど、真偽どっちにせよ僕が口出すことじゃな、いたいイタイ痛い」
しかし僕が何と言おうとも、六歳児たちは決して動こうとしない。城から離れたこの市場に子供二人置いて帰るわけにもいかないので、僕も離れることができなかった。
「わかった、じゃあ相手の顔を見たら、それがどんなひとであれ帰るんだよ?」
そう二人に言い聞かせ、茂みからそっと顔を出す。
間もなく……ミオ様の前にひとりの男性が立った。背の高い男だった。金髪を後ろに撫でつけ、パリッとしたスーツ姿で紳士の一礼。そして、涼やかな声で囁いた。
「お待たせいたしました。当店名物、『もりもりシュークリーム盛り合わせ』でございます」
僕たちは三人同時にずっこけた。
「な、なんだ拍子抜け……」
「いやこれからよ。もうじき、待ち合わせのダーリンが来るのだわ」
一応、体勢を戻して観察続行。
山盛り積まれたシュークリームを、ミオ様はもりもり食べ始めた。普通、待ち合わせ相手が来てから食事をとるような気がするんだけど、一人でパクパク食べてる。そして彼女は皿が空になるなり、すっくと立ちあがった。
「ごちそうさまでした。お会計を」
「……あれ? 相手がこないまま出ちゃったぞ? 待ち合わせじゃなかったのかな……」
「そうだわ、これからがデートだったのよ! あれは腹ごしらえね!」
ふぅん、と思う。
今度こそ帰ろうと思ったが、やはり子供達が許してくれなかった。引き続き、ミオ様の後をついて行く。
カフェを出たミオ様は、早足で婦人街を抜け、大通りへと戻ってきた。また馬車鉄道に乗り、どこかに向かう。後ろの方の席でこそこそと相談する僕たち。
「この路線、『ごちそうストリート』行きだよ。デートで行くようなロマンチックなところじゃないって」
「あら、食べ歩きはカップルデートの基本コースでしょ」
そんなもんなのかな……確かに僕は男兄弟の長男坊。島の女の子達はみんな観光地で働いていて、村にはほとんど女性がいない。恋愛の機微なんてよくわからないし、仮にデートするにしても海か山か森だもん。
それで言うと、男女がほぼ同数いる王立学園に通うセドリックや、幼くても女性であるツェリの方が、ずっと僕よりも詳しいのかもしれない。二人はミオ様と一緒にいる時間も長いしな。
とりあえず僕は二人に従うことにした。
やがて馬車は通称『ごちそうストリート』に到着。ミオ様は迷いもなく歩みを進めていく。
さすが王都きっての飲食店通り、市場の屋台とは比べ物にならない多種多様な店舗が並んでいた。
あちこちから良い匂いが漂ってくる。そういえばそろそろお腹すいてきたなあ。
ミオ様は、ある店の前で立ち止まった。置き看板を見下ろし、何かを確認するようにじっくりと見つめている。そして「よし、ここだ」というかんじで頷くと、店内に入っていった。
「おしゃれなお店。今度こそ待ち合わせなのだわ」
「ていうか、おいしそう。ぼくお腹空いてきちゃった」
「僕も……」
僕たちはこそこそとレストランに入店した。ミオ様の背後の席を陣取って、メニューブックとにらめっこする。
「ぬぬ……なんか高いな……」
「高級店なのね。デートにぴったりじゃない」
「それはいいけど、どうせ君たちお金持ってきてないだろ。僕の手持ちで三人分、足りるやつ選んでくれよ?」
とりあえず店員を呼び、サンドイッチ(いちばん安かった)を三皿頼む。ところが店員は眉をひそめた。
「ひとり一皿? あなたはまだしも、お子様はまだ無理だと思いますけど?」
「えっ、それってどういう――」
ちょうどその時、ミオ様の席に注文の品がやってきたらしい。
「お待たせいたしましたー!」
と、元気のいい声と共に、ミオ様のもとにドンと置かれたのはハンバーガー。……ただし、テーブルを埋め尽くすほどに超巨大な。
おおおおっ! と店内から声が上がる。
「あれは伝説の、キングオブマックスデカ盛り進撃のギガンテスバーガー! この『リストランテ・大食漢』でも最大のチャレンジメニューだ!」
……なんじゃそりゃあ。
「本当に頼むひと初めて見た。あれ全部食べたら賞金が出るんだよね」
「無理に決まってるだろ、女の子だぞ」
「挑戦するだけエライよ。がんばれお嬢さん!」
やんややんや、はやし立てる観客たち。
……どうやら『お洒落』なのは店構えだけだったらしい。
持ってきた店員も心配そうに見守る中、ミオ様はいつも通りの無表情のまま。
両手にナイフとフォークを持ち、一度、目をつむる。
そして、
「いただきます」
……ふだんの会話では見たことがない、大きな口を開けたのだった。
――小一時間後。
「しんじられない……人間の体に、あれだけの食べ物が入るなんて……」
「ミオ様、あの小さな体のいったいどこに……」
「食べた後は妊婦さんみたいだったのに、いつのまにか平らになってるし」
「……異次元……」
「二人とも、ミオ様の本気食いを見るのは初めてだったのか」
僕が呟くと、二人の子どもは青い顔で頷いた。その青さは、『ごちそうさまでした、また来ます』と言われた時の、店主に引けを取らぬほど。
僕らの前をゆくミオ様は、完食の賞金をお財布にしまいつつ、また通りを進んでいく。その足取りは……ちょっと機嫌がよさそう、かな?
どうやらひどく胸やけを起こしているらしい、ツェリが口元を押さえながら呻いた。
「デートの日の腹ごしらえが大食いチャレンジとは意外だったけど……でも今度こそ、待ち合わせ場所に向かうのよね?」
「このまままっすぐ行ったらマーメイドの噴水広場だけど――」
「それよっ!」
「……それかなあ。僕は嫌な予感しかしないぞ」
「何言ってるのトマス、さあっミオさまの恋人を拝んで帰るのよっ」
ディルツ王都の中心地、市民の憩いの場である。石畳で整備された綺麗な空間に、巨大な噴水が作られている。夏には子どもや男たちが半裸になって涼み、冬には水の代わりに花が活けられる。春と秋には、水しぶきが大きな目印となって、待ち合わせに最適なスポットになるのだ。
人が集まるということは、商売ができるということ。噴水広場の周囲を囲むようにして、たくさんの屋台が並んでいた。
「あ、ぼくもなんとなく、オチが見えてきた……」
同感だよ、セドリック。
ミオ様はまず、一番手前の屋台を覗き込んだ。そしてすぐに離れて、その横へ。また離れる。
こそこそと後に続いてみると、雑貨屋と化粧品屋だった。
さらにいくつか見て回り、一軒の屋台で足を止める。ノボリには、『ミートボールスパゲッティマウンテン早食い挑戦者募集』とある。
ツェリが呻いた。
「……まさか……」
距離を置いていたので、店主とのやり取りは聞こえなかった。それでも、ミオ様の前に大きな皿と山になったスパゲッティ――そして数分後、ガランガランガランと鳴り響く、勝鬨のベルはよく聴こえた。
……ミオ様は、いつも通りの涼しい顔で、それでも片手だけでガッツポーズをとっていた。
「いやあ、お嬢さんすごいね。まさかうちの『ロード・オブ・カオス』を完食する者が現れるとは」
「ふだんは城の経費を鑑みて、控えておりますので。たまにはこうして食いだめが必要なのです」
「わけがわからないねえハッハッハ、いや笑ってごまかして賞金をしぶっているわけじゃないよ、はいどうぞ」
「ありがとうございます。遠出してきて良かったです。城に近い店はあらかたチャレンジメニューを辞めるか、『みつあみの侍女出入り禁止』になりましたから」
「ワハハハハなるほどね、気に入って頂けて嬉しいよ。でももう二度と来ないでね」
……この、店主とミオ様とのやりとりを見るのは、もう四回目。
さすがに僕たちもこれ以上つきまとう気にならず、グラナド城へと帰還する。三人とも胸やけを起こし、お互いの背中をさすりながら。
ミオ様が帰ってきたのは、夜遅くになってからだった。
夜の門番である僕が馬車を迎える。いつもの侍女服姿に戻った彼女は、いつものように「ただいま戻りました」とだけ挨拶をくれた。
「おかえりなさいミオ様。休日、楽しかったですか?」
「ええ、堪能させていただきました。お土産に、これを」
そう言って、ぽいとなにかを投げてくる。小さな犬のぬいぐるみが二つ。
「これ僕に? なんでふたつ?」
「ツェリとセドリックに。職人街の屋台で、ふたりが熱心に見ていたものです」
「えっ」
「ねだるのを遠慮していたようですね。気付かないふりをし、さりげなくプレゼントをすれば好感度を稼げます。異性とのデートでも有効でしょう、あの二人にも教えてあげてください……そういったことに、興味津々のようですから」
……やれやれ。僕は頬を掻いた。
城内へ進みゆく、ミオ様の背中に向かって頭を下げる。
「すみませんでした。プライベートを探るようなまねをして」
「別に。詮索されて困る生き方はしていません」
「でも――いつかの未来にでも、ミオ様に好きなひとが……って、ありえないことじゃないし」
くくっ、と何か、鈴を転がしたような音。ミオ様がかすかに笑ったのだ。
「それはそれで。ひとに言えないということはないですよ。相手が誰でも、どんな形であっても、ひとを愛しく思うことは等しく尊く、なんら恥じ入ることではないのですから」
なんだか珍しいことを言って、彼女は回廊へと消えていった。
……本当に、やれやれ、である。こうして僕の、貴重な半休は終わってしまったのだった。
◆◇◆◇◆
「はいこれ、お土産」
と、紙袋を差し出す。
それを、野良猫みたいに首を伸ばし、興味深げに覗き込んで……リュー・リュー様は歓声を上げた。
「あら! なにこれおいしそう! ドーナッツね?」
「うん。今日いちにち食べ歩いて、一番美味しかったお店で包んでもらった」
「わーっ嬉しい、ちょうどこういうのが食べたい時期だったのよねえ。この頃ちょっと仕事で立て込んでて――ほらやっぱりあたしって生まれが蓮っ葉だからさ。お城の料理も美味しいけど、たまにはこういう、下町の味が欲しくなんのよ」
夕食をもう食べ終わったはずなのに、手につまんだドーナッツを、パクリと一口。
「美味しい! 疲れがふっとぶ! 幸せ!」
そうしてパクパク食べ進んだあと、私にもひとつ、差し出してくれる。
私は遠慮なく、彼女の指からパクリと食べた。リュー・リュー様は大笑いした。
「相変わらず、あんたの食べっぷりは見ていて気持ちいいね」
嬉しそうな、彼女の笑顔に、こちらも顔も思わずほころぶ。
こうして私の大切な休日は、たいへん充実して終わった。
お知らせ/ 2022年1月15日、コミカライズ3巻が発売、予約受付中。
先駆けて2021年12月12日(日曜)、電子コミック配信サイト&アプリのCOMICOさまにて、当作品がフルカラー(タテコミ)になって連載開始です!COMICOアカウントをお持ちの方、仲倉千景さまの美麗なコミカライズをフルカラーで観たい方はこの機会にぜひ、色のついたずたぼろ令嬢もよろしくお願いします。
(原作者、先にちょっと見せてもらったけどスゴイぞ!!)




