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俺式異世界冒険譚!  作者: 明智 烏兎
最終章 ~俺式オープンエンド!~
78/80

グランスフィアの咆哮 ~カエデ VS 五行鬼~

 ──それから、どれほどの時が経ったのだろう。

 目を覚ますと、そこには顔面蒼白になって俺を見下ろすセイラの顔があった。


「お兄ちゃん! ……よ、よかったぁ~~、本当によかったよぉぉ~! もう、ダメかと思っちゃった……ぐすっ……」


 目に涙を浮かべて俺を抱き起こすセイラからは、かなりの疲労が見て取れる。きっと俺を回復するのに相当なルオスを消費したのだろう。

 感謝の気持ちを胸にしまい、俺は状況の把握に努めた。


「セイラ、戦況を教えてくれ。なるべく詳しく」

「う、うん……今はね……」


 セイラの話によると、戦況はかなり悪い。

 俺が倒れた後、陰陽師と戦うため階下に残ったみんなが次々と戦闘に加わっていったものの、みんな先の戦いの疲労とダメージが残っているため、決め手となるような強力な技を使う事ができないでいるらしい。

 しかも、この五行鬼はどの属性のアガムも無効化し、斬撃や打撃も全く受け付けないようだ。


「ま、マジかよ……それってつまり、無敵って事じゃねーか……」


 そんな奴相手に、どうやって勝てばいい? くっそぉ……どうすれば……。

 そうやって考えている間にも、みんなの体力は着実に奪われていく。動きが鈍くなった近距離組は、いつ直撃を受けてもおかしくなかった。

 後方支援組もアガムによる波状攻撃を浴びせ続けているが、無効化されたりリフレクトアガムで相殺されたりして、ルオスの無駄遣いにしかなっていない。


「斬ッ!」


 シオンが忍者刀で素早く斬りつける。しかし、五行鬼は全く意に介さない。どうやら物理攻撃は完全に無効化されてしまうみたいだな。


「いーかげんにしろ、デカブツ!」


 テミスが放った闇の波動が顔面に直撃したにもかかわらず、五行鬼は平然としている。


「バーニング・テンペスト!」


 ルナが得意とする炎のアガムが右肩に迫っても、五行鬼は無反応だ。


「ジェイル・ブリザードォッ!」


 ルナと同時にコロナが氷のアガムを発動させる。コロナはルナの事が本当に好きなんだなぁ、こんな時でも息ピッタリだ……っとと、今はコロナを観察してる場合じゃない。五行鬼を見ないとな……んっ!?

 五行鬼が、左肩に迫るコロナのアガムにだけ反応した! 掌をかざし、防御姿勢を取ったのだ。どういう事だ……左肩が弱点? それとも、氷が弱点なのか?


「コロナ! 左肩に氷、もう一発!」

「へっ? お、オッケーカエデちゃん! とりゃあーーッ!!」


 コロナの放ったアガムに対して、五行鬼は……。


「えっ、何でだ……今度はノーリアクションかよ」


 アガムを連発したコロナをうっとうしく思ったのか、五行鬼はコロナに対して腕を振り上げる。


「コロナちゃん、伏せて! ええ~いっ!」

「そうはさせないってーの! 行け、混沌ッ!」


 ルナとテミスのアガムが五行鬼の動きを止め、その隙にコロナは素早く間合いを取った。しかし、五行鬼は今の合体攻撃を受けてもやはり無傷。全くダメージを受けていない。


 でも……何だ? この違和感。

 五行鬼は無敵だ。どんな攻撃も効かない。それなのに……たまに見せる防御姿勢。無敵ならそんな行動を取る必要はないはずだ。

 つまり、五行鬼は無敵なんかじゃない。やっぱり弱点があるんだ……よし! もう一度よく観察してみよう。

 物理攻撃は……無効化。

 アガムによる攻撃は……無効化、そして相殺。無効化して、相殺……無効化、相殺……そうか! 分かったぜ……奴の弱点が!


「ルナ、コロナ、テミス! バラバラに撃つな! 同時に撃て! それぞれ違うエレメントでな!」


 そう……奴の弱点、それは『同時に複数の属性は無効化できない』事だ。単発で来るアガムは全て無効化し、複数で来るアガムは一方を無効化、もう一方はリフレクトアガムで相殺していた。

 つまり、一度に色々な属性のアガムを放てば……!


「グゥゥオオォォッ!!」

「あぁっ! コイツ効いてる……効いてるよルナお姉ちゃん!」

「よぉぉ~しっ! そうと分かれば一気に行くよ! リピオとプリムも炎と氷、お願いね!」


 ルナの号令に合わせて、アガムを使えるみんなが一斉攻撃を仕掛ける。そして、ついに……!


「オオォーーン……」


 ついに……無敵かと思われた五行鬼が、咆哮と共に屋根へと突っ伏した。勝てた……のか?


「やった……? やったよね? 勝った……倒したよっ!」


 もう動く事のない鬼を見て、勝利を確信するルナ。それにみんなの歓声が重なり合う。


「ふにゃあ~……いや~強かった~コイツ。下手するとデゼスよりヤバかったかも」

「わ、私達って、すっ、すごくないですか!? すごいですよねっ!?」

「さっすがお兄ちゃんだね! お兄ちゃんが弱点に気付かなかったら勝てなかったよぉ。どうして分かったの?」

「んん~? いやぁ、ゲーマーの勘ってヤツかな? はっはっは!」


 手を叩き、肩を組み、地にへたりこみ……それぞれが勝利の余韻を楽しんでいた。


 ──だが。


「グゥゥオオオアアアァーーーッ!!」


 もう二度と聞きたくなかった鬼の咆哮が夜を穿つ。

 五行鬼は死んでいなかったのだ。いや……正確には“再生”したと言うべきだろう。一度は、間違いなく死んだはずだ。


「う、そ……私、もうダメだよぉ……」

「御主人様ぁ、わたしももう動けません……」

「あちゃ~……こりゃダメだね。人生諦めも肝心じゃない? なんちゃって……」


 諦めが肝心、か。諦めたくなる言葉だなぁ……本当に。

 ゲームならリセットしたいぜ……なんて、くだらない事考えちまった。


「みんな……まだ諦めるのは早いよ」


 絶望に沈む俺達の中に一人だけ、希望を失っていない者がいた。立ち向かおうとする者がいた。


「ルナ……お前……」

「私に任せて、カエデ! 要はさ、再生できないくらい跡形もなく消し飛ばせばいいんでしょ?」

「ん、そうだな。無限に再生を繰り返すような奴は、マンガとかゲームだと大体そうやって倒すもんだ。でも、ロストスペルでもない限りそんな事……」

「あ~~! カエデが諦めてるとこ初めて見た! 珍しいもの見ちゃったなぁ~!」


 な、何だよルナの奴……こんな時だってのに、ずいぶんテンション高くないか?

 心中でそう思った時、ふいにルナは真顔になって俺に言う。


「カエデ、時間がほしいの。十秒でいいから鬼の注意を引いて」

「十秒? 何で……」


 ルナは俺の質問には答えず、ただ小さく笑うだけだった。ルナが一体何を考えているのか俺にはさっぱり分からなかったが、十秒くらいなら俺一人で何とかやれるだろう。

 俺はソーマヴェセルとネレイダーをそれぞれの手に構え、


「よっしゃあ! 最後の大暴れだ! うおおおおおおッ!!」


 ほぼヤケクソになって二刀流で五行鬼を攻め立てる。よしっ、十秒たったぞ! ルナの方は……?


「準備できたよ! 離れてカエデ! ……行くよ……地聖!」


 半開きにした左手を顔の前にかざすルナ。外側に向けられた手の甲に、白く輝く紋章が浮かび上がる。


「解……印ッ!!」


 その刹那、ルナの体から大量の白い閃光が竜巻となって溢れ出した。


「くらいなさいっ! 必殺……『大地の烙印ガイア・ブランド』!!」


 ルナの手にある紋章が巨大化したかと思うと、それが五行鬼のもとへ飛んでいく。

 純白の紋章を烙印され、もがき苦しむ五行鬼。その姿はさながら、蜘蛛の巣に囚われた蝶のよう……いや、そんな綺麗なもんじゃないか。

 そうして五行鬼は、一瞬にして粉々に砕け散った。断末魔の叫びを上げる暇もないその破壊力……恐るべし……。


「おいルナ……すげーじゃねーかッ! 何だよ今の技、ロストスペル並みだったぞ! いや~、こんなのがあるんなら最初から使ってくれりゃあ……」


 俺がそこまで口にすると、突然ルナが膝を突いてうずくまる。右手で左手の甲を押さえ、小刻みに震えるルナ。


「ど、どうした!? い、痛むのか……?」


 俺も、他のみんなもルナの異変に驚いてそばまで駆け寄る。肩を抱いて顔を覗き込むと、ルナは軽く微笑んで囁くように言った。


「い、今の技はね……体に、大きな負担を掛けるの……。命を削られ……使いすぎれば、死ぬ事もあるって……」

「命が……削られる……? 死、ぬ……? ふッ……ふざけんなよルナァッ! お前、何でそんな馬鹿な真似」


 悔しくて、腹が立って、怖くて、辛くて、どうしようもなくなって……俺はルナを、とにかく怒鳴ろうとした。だけど、ルナはそんな俺の唇に人差し指でフタをして……、


「う・そっ! あはははっ! カエデってば何泣きそうになってんのよ、も~!」


 ぴょんと立ち上がって明るく笑った。

 うそ……うそなのか……は、はは……。


「はぁぁ~……頼むから、そんな嘘つかないでくれよ。寿命が縮んだぜぇ……」

「うん……ごめんね、寿命縮めちゃって……」


 ルナがみんなに頭を下げる。下を向いたままのルナの口から、


「……そういう技なの」


 ぼそっと何か聞こえたような気がしたけど、俺の耳にはよく聞こえなかった。


「でもでも、これで分かったでしょ? 私の気持ち!」


 パッと顔を上げて、ビシッと人差し指を俺の鼻先に突きつけてくるルナ。


「は? 分かったでしょって……何が?」

「カエデがロストスペルを使うたびに、私はさっきのカエデと同じ気持ちになるの。だから、これからはもうロストスペルは使わないでよ?」


 ルナは怒ったような表情でそう言ってから、「ま、もう使いたくても使えないでしょうけど」とすぐに笑顔を見せる。

 それにしても……ルナの気持ち、か。それはもう、十分すぎるほどに理解できた。できたから……。


「分かったよ。ならルナも、地聖封印はもう使わないようにしてくれよ?」


 俺達は、互いの切り札を封じ合う。この約束は、絶対に破らない。

 だからこそ、俺はもっと強くならなきゃ。これ以上、何も失わないために──。

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