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俺式異世界冒険譚!  作者: 明智 烏兎
最終章 ~俺式オープンエンド!~
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倭京城を駆け上がれ!

「シンキはどこに行ったのでしょうか!?」


 冷静さを取り戻したリピオが、森を抜けてすぐに誰にともなく問い掛けた。


「恐らく、倭京城でござろう」


 自信なく言葉を紡ぐシオンに、根拠はなかったのだろう。だが、俺はその言葉に強く賛同する。

 新領主即位と鎖国……この二つの事柄は陰陽師の策略によるものだろう。そして、国外からやって来た俺達を真っ先に足止めし、倭京への立ち入りを拒んだのも陰陽師だ。

 人目に触れられたくない“何か”が、倭京にはある。そしてその“何か”はアポカリプスに関係があるはずだ。

 アポカリプスのそばに、シンキがいる。ならばルナがいる場所も、きっとそこに違いない。


「ミュー、目指すは倭京城だ! 急いでくれ!」



 ──倭京大陸は小さい。一秒でも早くルナを救出したい俺にとって、それは唯一の救いだった。

 すでに辺りは夜の闇が支配していたが、日をまたがずに倭京へ辿り着く事ができた。


「む! ……邪悪な気配が漂ってござる。これより先は魑魅魍魎が渦巻く戦場……お覚悟はよろしいか?」


 門衛のいない夜の倭京城、その城門前にて、シオンが小さく呟く。


「当然! 冥界帰りの俺達にそんな台詞は無用だぜ……行こう!」


 俺は背負うソーマヴェセルに手を伸ばすと、それを全力で振り下ろして城門を斬り飛ばした。

 そこから見える城内は、外と同様の闇に浸食されていた。照明の類は一切なく、光源は空から見下ろす月明かりのみだ。

 俺達は意を決して城内へ駆け込み、まだ慣れない闇に眼を凝らす。一番早く反応したのはミリーだった。


「カエデ君の推理は当たりみたい。……敵さん、早速お出ましよ」


 ミリーが凝視する暗黒の先……そこには白い狩衣に青い袴の陰陽師が立っていた。


「もう来やがったか異人共。サイガめ、偉そうに出て行ったくせに抜かったな……。ふん、オレ様の名はソウジ、ここより先は通さねーぜ?」

「ニャハハ、そういう台詞って聞き飽きてんのよね~。みんなは先に行きなよ、ここはウチが引き受けた!」

「ミリー……すまない。この埋め合わせは」

「はいはい、いーから! ウチに頼れって言ったっしょ? 任せてちょーだいってね! おっと忘れてた、コレ持っていきなよ」


 ミリーに手渡された物……それはアガムケイジだった。


「使いどころは考えてよ? それ、爆発物だから。んじゃ、ここは任せて。その代わりルナの事は任せたからね!」


 その言葉を背中で聞き、俺達はソウジの横を通り過ぎて階段を目指す。


「オレ様を無視する気か、テメーらぁッ!!」


 ──ビシィッ!


「おっとオレ様君、よそ見してると瞬殺しちゃうよん?」


 ミリーが手元に鞭を引き戻し、ニヤニヤと口元に笑みを受かべる。


「けっ、馬鹿な女だ。たった一人でオレ様に挑んだ事、後悔させてやらぁ!」

「一騎当千はウチの売りだよ。後悔させられるもんなら、させてみなッ!」


 闇に閃く短剣と鞭の乱舞。死ぬなよ……ミリー!



 ──二階。


「この城って何階まであるんだ? シオ……っと、玄武」


 階段を上り切ったところで、俺はふと湧いた疑問をシオン改め玄武に尋ねた。ここは陰陽師の巣窟だ、四神忍者である彼女の本名は一応隠した方がいいだろう。


「確か、五階だったはずでござる」

「じゃ、陰陽師は何人いるんだ?」

「五人でござる……むっ」


 俺の言わんとしている事に、玄武も気付いたらしい。そして、そこで計ったように現れる敵の気配。


「中々良い読みをしておるのぅ。わしの名はマガツ。さて、わしの相手は誰かのぅ? 無論、全員まとめてでも良いが……」

「バカ言わないでよおじーさん! カエデくん、ここはあたしが残るわ。ミリーにだけ良いカッコさせられないしぃ~!」

「ボクも残るよ! テミスちゃんはウィザードだから、ボクが前衛で頑張ってみる!」


 セイラの槍の腕前だけど、実はかなりのものなのだ。俺のパーティー内でも、意外に戦士寄りの役割を担う事が多い。

 テミスがアガムを唱える時間を、セイラなら難なく稼いでくれるだろう。


「よし! テミス、セイラ、頼んだぜ! 俺達もすぐに大将をぶっ倒すからな!」


 残る二人を鼓舞するように言い残し、俺達は三階を目指して走り抜ける。


「わしの相手は二人だけか……もう少し高く評価して欲しかったがのぅ」

「あらら? 若くてかわいい女の子が二人もお相手なんて、結構良くない? それともぉ……そんな体力、もうなかったりして。あははっ!」

「テミスちゃんは若くないんじゃ……あっ、なっ、何でもないよっ! よぉ~し、早く終わらせてお兄ちゃんを追うんだから……こんなところで負けられないよ!」


 部屋の闇を払うように、天使と悪魔、それぞれの翼が大きく開かれた──。



 ──三階。


「さて、そろそろ拙者の出番でござろう! 黄竜様からいつも“玄武は足を引っ張るのが上手ですね”と褒められているでござるからな!」

「あ、わ、私も足を引っ張るのは得意です! ……って、何か意味おかしくないですかぁ?」


 玄武とリースが三階の陰陽師と対峙する。

 二人の発言にはかなり問題があるけど、戦力的には全く問題ないはずだ。


「オーケー二人共、今日は敵の足をじゃんじゃん引っ張ってやれ!」


 すでに恒例と言った感じで、俺達は三階を後にする。


「え、えっと……僕のお相手は君達だけ、かな? 僕は火の陰陽師……ゼンです。よろしくお願いします!」

「わ、えとっ、これはご丁寧にどうも! こちらこそ、よろしくお願いします!」

「ほほう、敵ながら天晴れにござりまする。拙者の名は玄武、いざ尋常に……」

「ヒィィィーハハハァァァッ! 掛かったなぁ馬鹿共がぁぁぁッ! コロスコロスコロォォォーースッ!!」

「あれぇっ!? ゼンさんが急に怖い人になりましたよ!?」

「な、何と! 猫を被ってござったかぁぁーーーっ!?」


 だ、大丈夫かな、あの二人……あぁ~心配だぜぇぇ……。



 ──四階。


「……誰もいない……ね?」


 呟くコロナの言葉通り、この階には陰陽師が配置されていなかった。どういう事だ?


「陰陽師は五人です。しかし、それはサイガとシンキも含んだ数……つまりこの階には、単純に人数が足りなくて配置できなかっただけなのではないでしょうか」


 何かの罠かも、と思って立ち止まっていた時間が、酷く無駄に感じられた。敵が留守のうちに、さっさと通り抜けてしまおう。

 最上階へと続く階段に足を掛けようとした、その時。


「包囲陣招来、急急如律令!」


 どこからともなく聞こえてきたサイガの声と共に、部屋の壁という壁に光の線が走る。

 この光、どこかで見たような……そうだ、竜洞穴! 赤宝眼の竜が使ってきた『包囲法陣』と同じものか!

 くそ……これじゃあサイガを倒さない限り、この部屋から出られない。


「カエデちゃん、心配いらないよ! 私達がどうやって冥界に行ったか覚えてる? エレミヤの書は空間に干渉するアガムの宝庫、その持ち主である私なら『包囲法陣』を破るなんて簡単だよ!」


 コロナがエレミヤの書を開くと同時に、辺りの空間からガラスが割れたような音が響き渡る。


「さぁカエデちゃん、ルナお姉ちゃんを助けてあげて! ここは私とプリムが片付けちゃうから!」


 最上階へ向かうのは俺とリピオの二人だけになってしまったが、ルナを助けるためにみんなが力を貸してくれている。

 俺は頼れる仲間達に感謝しながら、最上階への階段を駆け上がった。


「……本当は、私がお姉ちゃんを助けたかったんだけどな~。ま、いいや。サイガのおじさん……私今、相当怒ってるんだよ? お姉ちゃんに酷い事した陰陽師を……私は絶対に許さない!」

「全く面倒な小娘ですねぇ……そなたも悪魔の書物をお持ちだったとは。……いいでしょう。それでこそ、四神忍者との戦いを切り上げて来た甲斐があるというもの。久しく本気でやれそうです!」

「それはこっちの台詞だよ。はぁ~あ……今まで本気なんか一度も出した事なかったんだけど……今の私は手加減してあげられそうにないや。……行くよ、プリム!」

「はい! このプリム、御主人様の命ずるままに!」


 覚醒した天才の本性が、倭京城に終末の風を呼び起こそうとしていた──。

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