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俺式異世界冒険譚!  作者: 明智 烏兎
第十二章 ~彼女の笑顔に満月を~
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海王獣ファントナエラ

 その後、予定通り全員で酒場に行って情報収集をしてみたが、結果はいつも通り……全くの徒労に終わった。


 諜報騎士が目撃したというアレスを町の人間が誰一人目撃していないというのは、一体全体どういう事なのか。立つ鳥跡を濁さずとは言うが、今回ばかりはさすがにおかしい。

 もしかして、アレスは立ち去る時に自分と係わった人間の記憶を消しているとか? そんなアガムがあるのかどうかは不明だが、仮にそうだったとしてそんな事をする意味は何だ?


 自分の目撃情報を消す……それは自分の存在を隠す事だ。これは全くの推測だが、アレスは自分が生きて世界を旅している事を知られないようにしているんじゃないだろうか。

 そしてそれを隠す相手というのは他でもない、妹のセイラだ。アレスはセイラに自分の生存を知られないようにしている可能性がある……いや、それもおかしな話だ。

 だってセイラとアレスは、エアリアルリングで繋がっている。互いの存在を感覚的に認識できるんだから、隠しようがない……って事は、だ。


 自分の存在を隠したい相手は、他にいる。そしてその相手とは──真紅翼の堕天使。多分、これが現時点で一番しっくり来る推理だと思う。


 次にアポカリプスについてだが……こっちの情報がない事は何となく予想してたから驚きは少ない。

 前々から思っていた事だが、アポカリプスはただの盗人に金になると思って持ち去られたんじゃなくて、もっとヤバイ目的……たとえば幻獣の封印を解いて世界を滅亡させてやろうとか、そういう陰謀めいた事に使われようとしている……と、俺は睨んでいる。


 でもなぁ……そう仮定してみても、俺にはアポカリプスを解放する事で発生するメリットがさっぱり思い付かないんだ。


 幻獣アポカリプスは、史上最強の魔術王メイガスを以てしても討伐できなかった化け物だ。封印を解除した人間の言う事をペットみたいに聞いてくれるとは到底思えない。

 つまり真っ先に殺されるのは封印を解除したヤツであり、その後の世界滅亡を確かめる事も、その過程で積み重ねられる惨劇を眺める事もソイツにはできないわけで。


 となると……一番考えたくないけど一番自然なのはやっぱり……封印解除を望んでいるのは、アポカリプス自身……?


 まぁ何にしても、今まで通りの探し方じゃ多分アポカリプスは見つけられないだろう。町を歩けば簡単に情報が落ちてるような軽い話じゃないからな。

 とはいったものの、結局俺達にはこの探し方しかできないのも事実だ。焦ったって何も変わりはしない。だから今後の旅の目的にも、変更はない。


 モートオルモ大陸を後にした俺達は、最寄りの大陸『倭京』を目指す事にした。ぶっちゃけ俺の予想では、アポカリプスはここにある。もしなかった場合は……神界か精霊界のどちらかって事になるだろうな。そうなると少し厄介だけど……全く見かけないセイラの兄がそっちに行っている可能性もある。


 ともあれ、今はあれこれ考えるより行動だ。行動を起こさなければ、結果なんてついて来ないんだから。


「カエデ様っ、ご覧下さい! おいしそうなお魚がたくさん泳いでますね!」


 ビュンビュンと尻尾を振りながら、俺の隣でリピオが言う。リピオの運動神経なら甲板から落っこちるなんて事はないだろうけど、見ていてヒヤヒヤするなぁ。

 けど、楽しい船旅もそろそろ終点だ。といっても、本当の終点である倭京大陸はまだ遥か彼方だが。


 というのも、目的地である倭京大陸は現在、他のどの国とも交流を絶っている……つまりは鎖国状態。しかもそうなったのはここ最近、ちょうど俺がグランスフィアに転移してきた時期に突然、という話だ。何でも、その頃倭京では新たな総領主の即位があったらしい。

 そういうわけで、今の倭京に外来の船は入港できない。なので、“倭京の近くまで”という条件付きで俺達は船に乗せてもらっているのだ。そしてそこからは、積んである小型船を借りて俺達だけで行く事になっている。


 今回の船旅は波が低く、べた凪状態が数日続いた。そのお陰で俺の船酔いもないし、全てが順調に行っているかのように思えた。

 しかし、それが嵐の前の静けさだという事に気付く者は、誰一人としていなかったが……。


 俺達の乗った船は、いつの間にか不気味なしじまの中を漂っていた。

 ──静かすぎる。俺の第六感がそう告げた時には、もう全てが手遅れだった。


 明らかに自然現象ではない、突然の嵐。

 その異常な暴風雨に船は瞬く間に飲み込まれ、そこで初めてその場の全員が何らかの異変に見舞われている事に気付く。激しい雨風が容赦なく吹きつけ、高い波が船を大きく揺らす。さっきまでの快晴がまるで夢か幻だったかのように……。


 そして、その時。


 ──シャオオオオオオオオオオオォォォーーーーンッッ!!


 鼓膜を貫かれるようなけたたましい騒音。それが生物の鳴き声だと気付くのに、多少の時間がかかった。

 それもそのはずだ。今俺達の目の前に出現したソレは、一見すると単なる黒い壁。嵐が引き連れてきた闇に紛れ込み、それが何なのか一瞬では分からない……いや、じっくりと目にしている今もなお分からないままだ。

 その壁は、遥か彼方まで続いていた。その大きさは実に数百メートルというより、数キロメートルと言った方が妥当だろう。ここまで巨大な生物が存在するなんて……。


 しかし、俺達を驚かせたのはその怪物の大きさばかりではなかった。これほどの巨体が海面に急浮上した事により、その衝撃が津波となって船に襲いかかってきたのだ。


「み、みんな! 何かに掴まれっ、来るぞぉぉッ!!」


 そう叫ぶと同時に、俺達のいる甲板に勢いよく海水が押し寄せてくる。そのとてつもない水流にさらわれまいと、俺は必死に甲板の手すりを握り締めた。

 だが、甲板に置いてあったタル等の積み荷が容赦なく俺にぶつかってきて、俺は一瞬気を失いかける。くそっ、何だこの地獄みたいな状況は!? は、早く終わってくれぇ~~ッ!!


「せ、船長ッ! 今の波でメインマストが大破! 船底にも損傷が出た模様! 本船が沈むのは時間の問題です……指示をッ!!」


 津波をどうにか乗り切ったと同時に、船上では乗組員の叫び声が響く。そんな中、俺はすぐさま仲間達の無事を確認しようと声を張り上げる。


「みんな! 無事か!?」


 雨音や船体の軋む音に負けないように、俺は大声で叫んだ。が、その声に返ってきた答えは、俺に最悪の絶望をもたらした。


「駄目ぇっ! ルナお姉ちゃんがいないよおぉぉぉーーッ!」

「その声……コロナか!? ルナはどうなったんだッ!?」

「メインマストが大破して……ルナお姉ちゃん、そこに掴まってたんだよぉッッ!!」


 ……何だって……? じゃあルナは今頃、メインマストと一緒にこの荒れ狂う海の中に……!?

 俺は冷静さを失う前に船上を素早く見回すが、確かにルナの姿だけが見当たらない。


 ──シュオオオオォォオオオォォォォ……。


 俺達をあざ笑うかのように怪物が唸り声を上げる。この……野郎ッ!!

 一刻も早くコイツを倒し、ルナを助けに行かなければ……そう思った瞬間、精神統一やらなんやらをすっ飛ばして、俺のエクルオスは黄金から漆黒へと変化していた。

 ──混沌を映す瞳、開眼。これなら……行ける!


「混沌よりの啓蒙……我、紡ぎ誘わん」


 迷いはない。全てを失う覚悟を以て、俺はたった一つを救う。


「傀儡と沈みし夜半の暗黒……静謐にして、叫喚に。煉獄なる洗礼……彼の者の魂を贄とせしめん。我が魂に瘢痕を刻みて! テメェはどいてろ……『エレボスの洗礼』ッ!!」」


 以前、宝石眼の竜を相手に使ったロストスペルを、今度は混沌を映す瞳の状態で解き放つ!

 禍々しい闇が一直線に伸びていき、怪物にぶつかって爆鳴を轟かせた。


 ──ヴォォォォォ……。


 倒すまではいかなかったがさすがに効いたらしく、怪物は低い呻き声を残して海中にゆっくりと沈んでいった。

 それと同時に、激しかった嵐が次第に弱まってくる。やはりあの突発的な嵐は、あの怪物が起こしたものだったのか。天候すら操る、謎の巨大生物……俺のロストスペルでも倒せない相手。あいつはなぜこの船を襲ったんだ……?


「そうだ! ルナは!?」


 ハッと我に返りデッキから身を乗り出して海面を見る。すると、遠くにメインマストの残骸が見えた。ルナがいるとすれば、あの辺りか……!

 そう思った瞬間、俺はマントを脱ぎ捨てて海に飛び込んでいた。弱まってきたとはいえ、海はまだ荒れている。中々前に進めない事に苛立っていると、俺はある事に気付いた。


 ……あれ? どうやって泳いだら前に進むんだ? そういえば俺……全然泳げなかったんだっけ。ま、まぁ焦っても仕方がない。とにかく今は一刻を争う。俺はマストが沈んでいった場所を目指してがむしゃらに泳いだ。

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