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俺式異世界冒険譚!  作者: 明智 烏兎
第十二章 ~彼女の笑顔に満月を~
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ただいま、人間界

 ──さて。人間界に帰還した以上、俺達には真っ先に果たさなければならない事がある。それは冥界での目的が無事に果たせた旨を、アスラート王へ報告する事だ。

 王城に着くなり顔パスで玉座の間に通された俺達は、いつにも増して柔らかな表情を見せる王様と謁見する。


「よく戻ったな、カエデとその一行。無事な姿を見られて安心したぞ」

「ご心配をお掛けしました。こうしてデゼスを倒す事ができたのは全て、王様の協力があったお陰です。ありがとうございました」

「なに、礼には及ばないさ。むしろ宣言通りに冥王デゼスを討ち果たしてしまったカエデ達の力は驚嘆に値する。もはや向かうところ敵無しかもしれんな」


 そう言いながら、アスラート王は傍に控えさせていた諜報騎士と目配せをする。その顔からはもう、笑顔が消えていた。


「本来ならカエデ達の帰還を祝い、盛大な宴の席を設けたいところだが……実はここで重大な話がある」


 凛然たる王者の瞳が俺を射抜く。俺は無意識に気を引き締め、王様の次の言葉を待った。


「先達ての事だ。戦士の大陸“モートオルモ”の首都アレフィスにて……セイラの兄、アレスの姿を見掛けたという情報が入った」

「っ! ほっ、本当ですかっ!?」

「あぁ。だが済まない。発見次第声を掛け、引き止めるよう騎士達には通達していたのだが……アレスは騎士が声を掛けようとした瞬間、白いエクルオスを纏った剣を掲げると共に姿を消してしまったそうだ」

「そんな……。いえ、有益な情報、ありがとうございます」


 落胆は一瞬。俺はテミスから引き続いての有益な情報が、アレスへの距離を確実に縮めている証だと信じてすぐさま気持ちを切り替える。

 なるほど……王様が宴を自粛した理由が今なら分かる。だって俺は、今すぐにでもアレフィスに向けて旅立ちたい──王様はこの気持ちを見越していたんだ。


「本当にありがとうございます王様。あの、それじゃ俺達……」

「うむ。形式ばった挨拶は不要だ。迷わず、真っ直ぐ、自分が思った道を貫け、カエデ」

「はいっ!」


 王の激励、そして騎士達の喝采を浴びながら、俺達は王城を後にする。

 目指すは戦士の国、アレフィス。差し当たってはその玄関口、港町トップだ。

 俺は王の言葉を胸に、迷わず真っ直ぐ、自分が思う道を突き進む。それがいつか、みんなの笑顔に結びつくと信じて。





「……って、勢いで行き先決めちゃったんだけど、みんなはこれで良かった?」


 モートオルモ・トップ行きの船の上、俺はそれぞれの部屋に解散しようとするみんなを前に尋ねた。いや、別に早速迷いが出たわけじゃないぞ? ただあんまり独りよがりなのは良くないと思ってだなぁ。


「大丈夫だよカエデちゃん! 良かったも何も、これ以外の選択肢はなかったよ!」 


 俺の質問に明るく答えたのはコロナだ。何となくホッとした俺に、コロナはそのまま根拠を述べる。


「カエデちゃん達がまだ行った事のない大陸は、残り5つでしょ? そのうち国がある大陸はトレイル、モートオルモ、ラグナート、倭京の4つ。トレイルは砂漠の中にちっちゃい集落が一個あるだけの小国だし、ラグナートは牧場と風車以外は特に何もない田舎大陸。倭京はちょっと前から急に鎖国状態になっちゃったからそもそも入港できないし。となるともう、消去法で考えてモートオルモが一番アポカリプスがある可能性が高い大陸なんだよ」

「へぇ~。でもさ、ラグオスは? 一度立ち寄ったとは言ってもあの時はデゼスの事があったからほぼスルーだったじゃん」

「ううん、それも大丈夫。だってラグオスは魔術国家エルドラントが統治する大陸だよ? 魔術師ギルドの総本山、おまけにゼラン・ルーラントの屋敷もあるんだから、アポカリプスの情報があったらとっくに耳に入ってるはずだよ。だから今はセイラちゃんのお兄さんがいたっていうモートオルモに向かうのが、カエデちゃんセイラちゃん両方にとっての最善なの!」


 と、左手を腰に当てて説明を終えるコロナ。


「ふむふむ。何だかルナみたいでカッコよかったぞ、コロナ先生」

「ふえっ!? ル、ルナお姉ちゃん、みたい……? わ、私が? ……そっかぁぁぁ……そっかぁっ!! わふーーーーっっ!!」


 な、何事? 俺が褒めた途端、何故か異様な舞い上がり方をしながら走り去っていくコロナ。あっという間に見えなくなった後ろ姿を捜すように、俺とルナは揃って首を傾げるのだった。



 ガルツァークの港町・ミノーを出港してから数日。長い航海の末、俺達は無事にモートオルモの大地に降り立つ事ができた。


「……ぅおえぇ……」


 ──訂正。俺は無事じゃなかった。うぷ……気持ちわる……。


「あららら、カエデさん大丈夫ですかぁ? お顔が真っ青ですよぅ、少し休憩しましょうか?」


 リースが心配そうに言って俺の背中を擦ってくれる。そのまま前のめりに倒れそうになる俺をすかさずプリムが支え、俺の腰からリピオがそっとネレイダーを外して文字通り負担を軽くしてくれた。


「うん……悪いけど少し休ませて……今回はかなりヤバイ……」


 気力を振り絞ってそれだけ言うと、俺はルナが用意してくれた水を飲んでその場に座り込んだ。はぁ……もう倉庫前にあるベンチまで歩く力もない……。


「あははっ! カエデくんって船酔いするんだ!」

「みたいなんだよねぇ。戦いじゃあんなに強いのに、意外な弱点だよ」


 テミスの質問にミリーが答え、多少呆れを含んだ溜め息をつく。


「思い出すなぁ、確かメイガスくんも超乗り物に弱かったんだよねぇ。ちなみにあたしもメイガスくんに乗ると……いやん! 昼間っからそんなコト言えな~い!」

「あぁぁ黙れにゃ淫乱サキュバスッ!」


 言い争う二人の声が遠く聞こえる……。そっかぁ、兄貴も船ダメだよなぁ。兄貴……魔術王なら船酔いに効くアガムとか編み出しといてくれれば良かったのに。仕方ない、全てが片付いたら俺が研究してみよっと……。



 それから数分後、何とか動けるくらいには回復した俺はモートオルモの首都アレフィスを目指して旅を再開した。大陸北端の港町トップから南下していく道中にはグルドという小さな村があり、丁度アレフィスまでの中間地点となっている。

 トップを発ってから二日後、そのグルドに到着した俺達は食糧を買い足すついでに念のため軽く情報収集をしてみたものの、案の定これといった収穫はなかった。


 翌早朝にはグルドを発ち、アレフィスへの旅路は順風満帆。調子よく距離を伸ばし、一度の野営を挟んだ次の日の夜遅くには目指すアレフィスに辿り着いたのだが……。


「現在ここアレフィスは不審者取締り強化月間のため、夜間の出入りが禁止されている! 帰れ帰れ!」


 と言った具合に、外門を護る兵士に追い返された。

 これじゃあ何のために強行軍で町まで来たのか分からなくなるが、文句を言っても仕方がない。結局この日の夜も野宿となり、町に入れたのは翌朝の事だった。





 戦士の国として世界に名を馳せるアレフィス城下町は、首都国ガイルロードに続いて二番目に規模の大きな国だ。

 よく整備された石畳と、立ち並ぶ石造りの建物。少々の街路樹が彩る緑と空の青以外、目に入る色は全て灰色という厳かな町並みは、まるで剣と甲冑で武装しているかのように見えなくもない。


 と言っても、アレフィスが戦士の国と呼ばれる所以はその町並みからくるものではなく、単純に重戦士系の武器・防具屋が多くあるからという事らしい。

 ただ、戦士の本領を脅かすアガムによる遠距離戦に備えるためか、耐アガム効果の高いローブなんかも何気にちょこちょこ置いてある。要はあらゆる意味で戦闘的っていうのが、俺の感じた印象だった。


 そう──そんな感想を持てるくらいに、俺はアレフィスの町を存分に見て回った。

 なぜなら俺はルナによって、とある指令を言い渡されていたからだ。その指令とはズバリ、“リピオとプリムの服の購入”。

 リピオもプリムも女の子だ、本来なら同姓の人間がコーディネートするべきところだが、どういう訳かリピオの強い希望により俺が抜擢された。なんでも、以前俺が買い与えた首輪やリボンのチョイスが相当お気に召したんだとか。


 そんなこんなで始まったお使いミッションも無事にコンプリートし、今は朝にチェックインしておいた厩舎付きの宿屋前で、それぞれの情報を探しに行った他のメンバーを待っているところだ。

 そして……。


「え……か、カエデ、だよね……?」


 戸惑いの色を隠せないルナが、戻ってきたみんなを代表して俺に声を掛けてくる。


「なんでそんなおっかなびっくりなんだよ? グランスフィアで黒髪の人間は、今のところ俺だけだぞ?」

「だ、だって……どうしたの? その格好」


 俺が着ている服を指さして言うルナ。ふふふ……実はその質問を待っていた。


「ま、ほとんどアスラート王から貰ったものとはいえ俺達も結構お金持ってるし。ついでに買っちゃいましたよ、俺の新しい服を! どう? どう? カッコよくない?」


 水と風のアガムによって瞬間洗濯&瞬間乾燥ができるグランスフィアでは、替えの服はほぼ要らなかった事もあって俺はこれまで最初に着てた地球の服を使ってきた。でもまぁ連日の戦闘もあってさすがにボロくなってきてたし、いいかげん新調しなきゃと思ってたんだよな。


「か……か……、かっこいいと思う」

「マジでッ!?」

「服が! 服がよ! 勘違いしないでよね!!」


 あからさまに狼狽して、ツンデレみたいなセリフを取って付けるルナ。でも、服が褒められただけでも充分嬉しい。何しろ大分こだわったからなぁ。


 ちなみに俺の新しい服装は、どちらかというと魔術師風。丈の長い紫のローブに、黒のズボン。革製の指出しグローブと鉄板付きの黒い半長靴はミリーのものを真似させてもらったが、俺はもっとシャープな感じのデザインを選んだ。

 そして極めつけは、白い縁取りの付いた漆黒のマントだ。実はコレ、仕立て屋さんにソッコーで仕立ててもらったオーダーメイド品であり、リピオとプリムの提案でこのマントには二人の髪の毛が一本ずつ織り込まれている。

 アガムキメラのタテガミには優秀な耐ダメージ効果があるらしく、炎と氷を司る二人の髪を織り込んだこのマントは二つの属性をほぼ完全にシャットアウトする究極の装備となった。


 肝心のリピオ達の新衣装だけど……これは俺の独断と偏見により、動きやすさより可愛さ重視で選んだ。ダッフルコート風の外套に、下はチェック柄のプリーツスカートという旅人らしからぬカジュアルな服装。デザインは二人とも一緒の物だが色だけ違い、白いコートに赤いスカートがリピオで、黒いコートに青いスカートがプリムだ。


「いいなぁ……プリム可愛い服選んでもらったんだねぇ、しかもリピオっちとお揃いで……。ああ~い~なぁ、私も次服買う時はカエデちゃんにコーデお願いしようかな?」


 プリムの服を物欲しそうな目で見つめていたコロナが、そのまま目線を俺の方に向けて言う。


「おっ、いいですとも。その時は俺がコロナの属性にぴったりな服を見繕ってあげましょう」

「っ! じゃ、じゃあ私も……、何でもない……」


 コロナに便乗して何かを言い掛けたルナだったが、俺と目が合うとすぐに俯いて言葉を飲み込んでしまった。


「……」


 う~ん……できれば勇気を振り絞ってそのまま言い切って欲しかったなぁ。

 実を言うと、俺はリピオ達と自分の服以外にもう一つ、ある物を購入していた。そのある物とは、リボン。フワフワした柔かい生地でできた、ラベンダー色のリボン──ルナに似合いそうだなと思ってつい買った物だけど……さて。どうやってプレゼントしたものかなぁ。


 何となく渡すタイミングを逃した気がして、俺はリボンを内ポケットの奥にそっと押し込む。ん……別に今じゃなくてもいいよな? むしろルナの分しか買ってない以上、今渡したら他のみんなから苦情が殺到しそうだし。


「ところでそっちは何か情報あった?」


 服の話題を切り上げ、俺は誰にともなく問い掛ける。するとミリーが一歩前に出て、ゆっくりと首を横に振りながら答えた。


「ん~にゃ、それがサッパリ。せめてセイラの兄さんの痕跡くらいはと思ったけど……ダメだったね。たださ、まだ酒場では聞き込みできてないんだ。この町の酒場って、開店は夜オンリーらしいんだよ」

「へぇ……デカいくせに何かと制限の多い町だなぁ。ま、そういう事なら夜まで待つしかないな。俺は宿で休む事にするけど、みんなは解散して好きにしてていいぞ。あ、物見遊山に行く人はとりあえず夜七時には宿に戻ってきてくれな。じゃ、解散!」


 と、号令を出したはいいけど……結局のところ、誰一人として町へ遊びに繰り出そうとはしなかった。

 え~、何だよ、みんな宿でごろ寝かよ。なんか年寄り臭いパーティーだなぁと一瞬思ったけど、まぁ……遊ぶ気力もなくなるくらい頑張って聞き込みしたって事なんだよ、な?

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