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俺式異世界冒険譚!  作者: 明智 烏兎
第六章 ~最強の片鱗~
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混沌よりの啓蒙

「諸君、よくぞ神具を守り抜いてくれた! 盗賊団の首領を捕えられなかったのは残念だが……あれだけの爆発で死者が出なかっただけでも幸運だった。今回はそれで良しとしよう」


 先の戦いでボロボロになってしまった玉座の間に、アスラート王の声が響く。王の言う通り、あの爆発で死人が出なかったのは奇跡だと思う。でも俺は、その奇跡は緻密な計算によって作り出されたもののような気がしている。なぜなら、爆発を至近距離で受けた傭兵でさえほぼ無傷だったからだ。あの時この玉座の間に降ってきたアガムケイジは、爆発のアガムが込められたものと、それを無効化する障壁法陣が込められたものの二種類が絶妙な割合で混ざっていたんじゃないか……と、俺はそんな推理を勝手にしている。

 ミリーは無闇に人を傷つけるような奴じゃない。なぜかは分からないけど、俺はそう思いたかった。


「特にカエデとその仲間達の働きは称賛に値するものであった。心より感謝する」

「えっ! いやぁ、そんな照れるっス……」


 王の言葉に気恥ずかしくなり、俺は頭を掻きながら言った。最後は金的攻撃で悶絶してたわけだし……。

 その後、王は他の傭兵達にも労いの言葉をかけながら褒賞を手渡し、その場は解散となった──俺達を除いて。


「あ、あの……王様? どうして私達だけ居残りなんですか?」


 ルナが不安そうな声で王様に尋ねる。


「ふふ、何を動揺しているのかね? ただ君達に興味が湧いたというだけの事さ。どうだね? 君達さえ良ければこのまま我がアスラートに仕えてみないか? もし応じてくれるなら相応の待遇は用意させてもらうつもりだ」


 王が言い終えると同時に、この場にいる全員の視線が俺に注がれた。押し潰されそうなほどの重圧に困惑しながらも、俺は答える。初めから決まりきった、その答えを。


「……せっかくのお言葉ですが、すみません王様。俺達……大切な旅の途中なんです。なので……」


 すると王様は一瞬残念そうな顔をしたものの、


「いや、謝るのは私の方だ。君達の旅の目的を知っておきながら、無理を言ってしまったな……本当にすまない」


 すぐに表情を和らげて頭を下げてきた。しかし、顔を上げた王様は名案とばかりに膝を打って続ける。


「……ふむ、そうだな。困らせてしまったお詫びに、私にもそなたらの旅、手伝わせてはもらえないだろうか?」


 王様の予期せぬ申し出に、俺達は顔を見合わせる。


「カエデとルナは、降魔剣アポカリプスを探しているのだったな。セイラは生き別れの兄を……ティリスはケイネルを襲った人物だったか。ケイネルを襲った者については前々から全力で調査を進めさせているのだが、未だ何の手がかりもないのだ……すまないな」

「い……いえ、謝られては困ります。調査をして下さっているだけでも救われる思いです。ありがとうございます……」


 本当にすまなそうに声を落として言う王に、いつもは感情を表さないティリスが少し狼狽して頭を下げていた。

 その後、王はそれぞれの情報を集め、提供する事を俺達に約束し、今度アスラートを訪れる事があったら必ず立ち寄って欲しいという言葉と共に高額の報酬と一本の槍を渡してきた。


「こ、こんなにたくさん……! しかも何かすごそうな槍までもらっちゃって……はぁ~~、こりゃあどうもすいません」

「何、気にする事はない。その槍は我が王家に伝わる『雷樹槍らいじゅそうアラドヴァル』というものだ。是非役立ててくれたまえ。君達の旅に、ゼークヴァリスの加護があらん事を……」


 アスラート王にはなむけの言葉を賜った後、俺達は城を後にするのだった──。





 ──それから城下町を回り俺達なりに情報収集してみたものの、やはり収穫はゼロ。ミリーとの戦いの疲れを癒すためという名目で数日滞在した後、俺達はいよいよアスラートを発った。ガルツァーク大陸には町村は少なく、別段寄るべき場所もないため、俺達はルナの発案によりガルツァークから西に行ったところにある『ラグオス大陸』に渡るべく(地図上ではガルツァークが一番西の大陸として描かれ、ラグオスは東方の大陸となっている)、再び港町ジャークへ向かう。その途中での事──。


「? カエデ、何してんの?」


 ジャークへと続く街道、夜も更けた頃。馬車の外で一人あぐらをかいていた俺に、突然ルナが話しかけてきた。さっきまで馬車の中でセイラ達とおしゃべりしてたと思ったのに……大方、セイラ達が眠ってしまい退屈になったんだろう。


「ルナか。いや、ちょっとアガムの修行でもと思って……ほら、俺も結構ミリーに苦戦してただろ?」


 俺は手元のエゼキエルを見せながらそう答える。するとルナはジロリと意地の悪い目で俺を睨みつけて言った。


「アガムの修行よりも、煩悩を捨て去る修行が先じゃない?」

「うぐ……で、でもそれは修行の方法が分からないからなぁ。アガムの方なら分かるんだけど……」

「ふ~ん? ちなみにアガムの修行って、どうやるの?」

「うん。俺も最近気付いたんだけどさ、この……あった、このページのエンハンスアガムと、あと後ろのロストスペルなんだけど……ほら、これって15番目以降の魔術文字が交互に入れ替わってるだけなんだよ。でさ、理の章の……え~~と、あ、この部分を応用してね……」


 俺はページをめくってルナに説明しながら地面に魔術文字を書く。ルナは「うんうん」と時々相づちを打ちながら熱心に説明を聞いていた。


「……で、二重詠唱をすると……ほら、エクルオスの最大値を少しだけ上げられるんだよ」


 実演してみせると、ルナは目を輝かせてエゼキエルを覗き込んできた。ちょっ、近い近い!


「ま、まぁこんな感じ。俺もまだ全部読んだワケじゃないから、最後まで読み進めたらもっとすごい事ができるようになるかもね」


 俺は照れ隠しに、エゼキエルのページをパラパラとめくって見せる。と、その時偶然にも最後のページが目に入った。魔術文字がびっしりと書き込まれた他のページとは明らかに違う、ほぼ白紙のページ……そこには、たった六文字の言葉が刻まれていた。


「混沌を映す瞳……?」


 ページに書いてあった一文を、何気なく口にしたその瞬間。


「……あれ?」


 俺はあぐらをかいた体勢のまま、闇の中にいた。

 そこは音もなく、風もなく、光もない世界。だけど地面と空気だけはあるらしい。真っ暗で、何も見えない……それなのに、俺自身の姿だけが、はっきりと見える。一体……何が起こったっていうんだ?


「え~と、もう始めちまっていいのかな? いない相手に向かって話すってのは、中々に難しいもんだぜ」

「っ!?」


 背後から、いきなり誰かの声が響いた。俺は弾かれるようにそこから離れ、声のした方を向く。そこには、全く見覚えのないオッサンが立っていた。

 一見して魔術師と分かる黒いローブを身に纏い、黒髪・黒目・黒髭の男。全身黒尽くめのオッサン……見覚えなんてないはずなのに……何でだろう。ひどく懐かしいような、それでいて見慣れているような……そんな不思議な気持ちにさせる顔だった。


「久し振り! ……って、言ってもいいのか良く分からんが、まぁ……あんまり時間もないからとにかく本題に入らせてもらうぞ」

「ほ、本題って……ちょっと待って下さいよ! 何なんですかあなた、ってかここはどこなんですか?」

「俺の顔が見えるか? 見えないなら見えるところに移動してくれ」


 ん? 質問がスルーされた? ……いや、違う。このオッサン、さっきから勝手に喋ってるだけだ。俺の声は聞こえてないみたいだし、会話はできないって事か?


「……よし、じゃあ話すぞ? え~と、まず最初に言っておく事がある。お前はこの世界に来てある程度強くなったと感じているだろうが、勘違いするな。お前は決して“最強”なんかじゃない。ただ“特別”なだけだ。そこを履き違えると、痛い目を見る事になるぞ」


 い、いきなり何だ? 人の事を最強じゃないとか……でも、この話には興味があるな。


「今こうして俺と会ってるって事は、無事にエゼキエルは手に入れたって事だよな。魔導書は全部で三冊だ。まだ揃ってないなら、頑張って集めてくれ。お前のために超使えるアガムをいっぱい書いてやったから、役立ててくれよな」


 魔導書を書いただって? まさか、このオッサン……。


「おっと、話が逸れたか。いつ時間切れになるか分からんから、今言っとく。いいか? “お前にできるのは強い奴のやり方を真似る事”だけだ。で、強い奴ってのはもちろん俺の事。お前に真似して欲しいのは、今から見せる“コレ”だ」


 オッサンがそう前置きした、その直後──。


「っ!? お、おいおい、何だよこの力……っ!」


 凄まじい魔力の奔流が、真紅に輝くエクルオスとなってオッサンを中心に溢れ出す。

 その光が、変化する。音も無く、ゆっくりと……切り替わる。

 赤から黒へ──エクルオスの変色、いや、変質だ。規格外の、別次元の魔力量を誇る漆黒のエクルオスが今、周囲の闇の輪郭を歪ませながら空間を満たしていく。


「どうだ? って済まん済まん、ちょいと見栄張って本気出し過ぎた。……とにかくな、これが俺の……いや。俺と、お前の力。その名も『混沌を映す瞳』」


 混沌を……映す瞳……だって?


「あぁ、注目するのはエクルオスの色だけじゃないぜ。俺の目ん玉の中を良く見てみろ。……ハハ、つってもあんまり顔近づけ過ぎるなよな?」


 冗談半分に言われ、俺は恐る恐る瞳の中を凝視する。そこには波が揺れていた。どんな光も映さない黒く淀んだ瞳の中、寄せては返す紫の波が。それを一目見た瞬間に俺は理解した。この瞳に映る光景こそが、“混沌”なんだって事を。


「コレ、なんでも“賢者の石”の一種らしいぜ。どうしてそんなモンが俺達の眼に宿ってるのかって訊かれたらまぁ、メタなところで『主人公補正』! って答えるのがお前には一番納得かもなぁ。何にせよ上手く使ってくれ。コツとしては……脳ミソを混沌と入れ替える感じ。頭の中の想像を直接世界に放り出すような……分かるか? この微妙なニュアンス」


 スミマセン、よく分かりません。いやしかし……何なんだ、この人のメタな発言は。これじゃあまるで別世界の…………地球の、人間の……。


「…………あれっ!? ぅわお、ダイナミック尺余り!? 思ったより記録時間長いのな……。あ~じゃあさ、もう一回言っとくぞ。お前は最強なんかじゃなく、ただの特別。そしてこの世界じゃ特別製の化け物はゴロゴロいて、同じ特別同士でぶつかった時、お前は勝てない。何故なら他の特別共は大体が天才とか言われる奴らだからだ」


 不満そうなオッサンの言葉を聞いて、俺の頭にミリーの顔が浮かび上がった。確かに……“特別な天才”であるアイツに、俺はこれから先も勝っていける自信はない。


「でも心配するな。俺達の“混沌”は、それを補って余りあるチート性能だからな。っと……さすがにそろそろ時間切れか。これで最後になるがもう一つ。いいか? お前は『最強を模倣』しろ。ひとまずは俺の真似でいい、でもいつかは自分の中に最強を創り、それを更新し続けろ。得意技だったろ? 俺達のさ」


 オッサンは一方的に捲し立て、何やら感慨深げに宙を仰ぐ。だけど……オッサンのその気持ちが、俺には何となく分かるような気がした。


「説明も無しにいきなり語っちまって悪かったな。このアガムはパラドックスを生みかねないからこっちの情報はほとんど明かせないんだ。ただまぁ……俺がこっちの世界で誰なのか、あっちの世界で誰だったのか。お前ならもう分かってるよな?」


 ……。あぁ分かってる。きっとこのオッサンの正体は……。


「そんじゃま、頑張れよ──兄弟」

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