77 ワープ走行!発進!とか言いそうになっちゃいましたよ。
ブックマーク、高評価、たくさん頂きまして本当にありがとうございます!
……息をしていなかった恋愛タグがぴくりと動いた気がします!
誤字報告ありがとうございます!
久しぶりのグリちゃんを堪能して、私とクレスさんはカルセドニー渓谷へと急ぐことにした。
リヴァイアサンなお姉さんが待っているからね。
私がグリちゃんに乗ると、クレスさんはスッと縄を出した。
……あ、やっぱり?
ぐーるぐーると縄を回して、グリちゃんと私をしっかりと縛った。
ギュッ!
「ぐえぇ。」
「クエェ?」
「少し辛抱してくれ。出来る限り街などに寄らずにカルセドニー渓谷まで向かうぞ。」
「はいぃ。」
クレスさんが私の後ろ側に乗って、両腕で私を支えるようにして手綱を持つ。
クレスさんの合図にグリちゃんが走り始めた瞬間……。
「うわ!」
「これはっ!」
「クエェッ!?」
視界が歪んだ。
進行方向の一点だけが見えて、それ以外が線のように走っていく。
あまりの速さに体が後ろに持っていかれて、クレスさんに思いっきり寄りかかってしまった。
慌ててクレスさんに謝る。
「すみません!クレス!」
「大丈夫だ。それにしても、これが祝福の力か……。」
「凄いですね!祝福!でも、グリちゃんの負担とかは大丈夫ですかね!?」
「クエェェェェ!!」
「……大丈夫そうだな。」
「良かったです!」
「クエッ!」
グリちゃんの声は心なしか楽しそうだ。いつもより速く走れる事が嬉しいのかな?
グリちゃんはスピード狂だったかー。
物凄い高速で道を駆け抜ける。
この調子ならとんでもない早さでカルセドニー渓谷の入り口まで行けそうだなぁ。
お姉さんが意外とあっさり渓谷へ戻ったから、ちょっとだけ変だなって思ったんだよねぇ……。
あまりの速さに叫ぶことも忘れ、必死にしがみついていると、後ろからクレスさんの心配そうな声が聞こえた。
「チカ、しっかり縛ってあるし、絶対落としたりしない。もう少し力を抜いていいぞ。」
そう言って、私を挟むように伸ばしている両腕がグッと私の体に寄った。
ちょっと恥ずかしいけれど、安心感のある筋肉質な両腕が私をしっかり挟んでくれる。背中には大きな壁もある。
……うん。頼りにさせてもらおう。
しがみ付いていた力を弱めて、後ろに寄りかかる。ビクともしない頼もしさにホッとする。
「……ありがとうございます。クレス。」
「……ああ。」
ちょっと恥ずかしくて、声が小さくなっちゃったけれど、ちゃんと聞こえたみたい。良かった。
クレスさんの返事もなんだか少し小声だった気がする。
夕方まで走り抜け、カルセドニー渓谷の手前に到着した。
本来は三、四日かかる予定の道のりを一日で走った事になる。凄いね!
途中から人に見られたら大変だ、との事で街道を外れ、人通りのない森の中を突っ切ったりしたんだけれど……それでも着いてしまった。
恐るべし……祝福!
あと、グリちゃんの木を避ける術も凄かった!あの速度でも余裕そうに避けていたからね。おかげで私は左右に振られ、大変だったよ……。クレスさんの腕が全部受け止めてくれたけど。
さて、このカルセドニー渓谷は、入り口手前で朝になるまで待ってから入るのが基本だ。
でも……お姉さんが待ってくれるはずないよね!
それを証明するように、渓谷の入り口には見覚えのある綺麗な緑の髪の子供が立っていた。
えっと、確かあの子の名前は……。
「ペドリット君!」
コクン。
「……こっち。」
頷いた後、俯いて目を合わせてくれないペドリット君。
頬がほんのりピンク色になって、唇を少し突き出している。……名前を呼ばれて照れているのかな?可愛いなぁ!
何故か私たちの周りには誰もいない。きっとお姉さんのお力なのだろう。
意を決して、ペドリット君の後に続いて渓谷に入った。
そういえば、どうしてお姉さんはこんなに来い来いムード全開なのだろうか?
何かあるのかな?
無理難題とか出されないかな?大丈夫かなぁ……。
そんな事を考えていると、ペドリット君が渓谷の道から外れて木が生茂る奥へと向い始めた。
山登りコース!?と思って見ていると、ペドリット君は木々の前で立ち止まった。
右腕をブンッと無造作に降る。
すると、目の前の木々がザワザワ言い始めた。
ペドリット君の近くにあった木が、左右に割れていく。それが、波のように奥に向かって連鎖していった。
「……木が避けてくー。」
言ってみたかったランキングにはのっていないけれど、現実で言うと思わなかった言葉が口から出ていた。
「……こっち。」
そう言って、ペドリット君は出来た道をどんどん進んでいく。
まってー置いてかないでー。これ、どのくらいで戻っちゃうの?あんまり離れると、木が鞭のように返ってきたりしない?当たったらベチコーン!とか言いそうだよ?
心の中で、このファンタジーにツッコミを入れながらペドリット君を追った。
「着いたー。」
「一日で来れるとはな……。」
「クエェ。」
山の中でここだけ平らで開けている。オリーブ園もそのまま変わっていない。実が生っている気がするけど、気にしない。神獣様の育てるオリーブだものね……。
そしてオリーブ園の奥には、前に見た時と変わらないこじんまりとした可愛いログハウスがあった。
ログハウスの前には人間の姿になっているリヴァイアサンのお姉さんが立って待っていた。
ペドリット君はペタペタと音がしそうな駆け足でお母さんのもとに急いで行く。
「ははうえ、つれてきた……。」
「よくやった。さすが我の息子。」
「……うん。」
母子の仲睦まじい様子は和むなぁ。
二人に近づきながら和んでいると、お姉さんがこちらを向いた。
「そして、よく来た。チカと……チカの番かのぉ?」
「えっ!?いや、あの!」
「……。」
いきなりの番発言に動揺してしまう。番ってあれでしょ?雄雌ひとセットな……夫婦的な……あぁーーー!
「なんじゃ、違うのかえ?面白くないのぉ。」
「えぇ……。」
まぁ良い、おいで。と言ってお姉さんはお家に入って行ってしまう。
私は恥ずかしくてクレスさんの顔を見る事が出来なかった。そのままお家に入っていくと、お姉さんが案内してくれたのは……。
「キッチン?」
「うむ。」
こじんまりとしたログハウスにしては、大きなキッチン。どこもかしこも新品のような輝きを放っている。
……うん。新築みたいな綺麗さだね。
「つくったのだ。」
「へぇ……。へ?」
「チカは一生懸命、料理なるものを学んでおるのだろう?我は料理を食べた事がない。一精霊がそなたの料理を食べられるというのに我が食べられないなど……おかしかろう?」
「ひっ!」
にっこりと微笑んだお姉さん……。なんでだろう、その笑顔……すんごく怖いんですけど……。
私の腰に付いている不吉そうな人形さんがガッタガタと鳴っている。隣にしがみついているスライム君が、振動でプッルプル言っている。
ショルダーバッグもブッルブルとバイブレーションしているところから、鞄の中の人形さんたちにも聞こえたのだろう……。めっちゃビビってます。
「いろいろな精霊から聞いておるのだ……人間の料理なる物はとても美味だった……と。自慢している精霊がいたとなぁ。」
あぁー。自慢しちゃったんですねぇ……。美味しかったというのは嬉しいけれど、自慢しまくってみんなに嫉妬されちゃったのね……。
「作ってくれるか?チカよ。」
「はい……精一杯作らせていただきます。」
神獣様は、それはそれは満足そうな笑顔を浮かべられました。はぁ……。




