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73 ですよねーーーーーーーー!!!!

誤字報告、ありがとうございます!

本当に助かります!

 ユランさんが体を取り戻した。


 三年ぶりの体に、うまく勘が取り戻せないのか、喜びを表しているのか、一歩一歩が跳ねている。


 「チ……聖女さんや、私は幸せ者だのぉ。」


 ユランさんは私の名前を呼ぼうとしたのか、少し考えて言い直したっぽい。誰が聞いているかわからないものね。本当は違うけれど、私の事は聖女と呼ぶ事にしたみたい。霊体化していた時は何も気にせずにいられたけれど、体がある今はそうはいかない。すぐに切り替えられたユランさんはすごいなぁ。


 「良かったです!おめでとうございます!」


 ユランさんの満面の笑みに私もつられて笑顔になる。

 本当に良かった。三年間動かせなかった体を、これから思いっきり動かして下さい!


 「みんなの元に戻ろうかの。」

 「はい。」


 早く体を取り戻せたことをみんなに教えないとね!


 そう思って、ユランさんと一緒に宝物庫の方へと向かっていると……。


 「ユ、ユランさまぁーー!」


 通路の分かれ道で、見えない壁に手をつくラピスちゃんがいた。恍惚の表情でこちらを凝視している。一瞬たりともユランさんの動く姿を見逃さないという強い意志を感じた。……怖い。


 ラピスちゃんはこのクーデターのいざこざに巻き込まれないように離れた場所にしか行けないようにしていたのだけれど……。

 ……もしかしたら、その限られた道の中でもユランさんが眠っている部屋に一番近い場所にずっといたのかもしれない……。


 もしそうだったとしたら……。


 「重いぞ、怖いぞ、重怖だぞー……。」

 「……。」


 純粋な気持ちなのかもしれないけれど、そこまで突っ切れる愛が凄い。


 ユランさんは何も言わず、ちらりとラピスちゃんの方を見て、また宝物庫に向けて歩き出した。


 「あぁ!どうかお声を!お声をお聞かせください!」


 ラピスちゃんは声が聞きたくて仕方ないようだ。うん、言ってたものね。聞きたいって。

 ユランさんはそんなラピスちゃんに聞こえないように小声で私にお願いしてきた。


 「聖女どの、彼女を私に近づけないように、宝物庫へと来られるように道を開いてくれるかのぉ?」

 「出来ますけど……。大丈夫です?」


 さっきの動きから、ユランさんはラピスちゃんを出来るだけ見たくないと思っているように感じたのだけれど……。


 「彼女には完璧に諦めてもらわないといけないからのぉ。」

 「はぁ。」


 宝物庫に連れていくと、完璧に諦めてもらえるってことなのかな?

 私はユランさんとの間隔を空けながら、ラピスちゃんが通れるように徐々にBL設定を変えていった。


 いきなり通れるようになった道に、驚く様子もなくラピスちゃんはユランさんの後を追っていく。その動きはわかめを連想させるような、ユラユラとしていた。……怖い。

 肝が据わっているのか……気付いてもいないのか……気付いていなさそうだなぁ。ユランさんしか見えてないって感じだもの。



 少しずつ進めるようにしながら宝物庫へと戻ってきた。

 元皇帝のタガロスさんは部屋に入って来たユランさんを見て、諦めたような顔をしていた。


 「はっ……。」


 口から吐き出されるため息には、全て終わったというような、そんな感情が入っていた気がした。



 「ユラン!!」


 そのため息をかき消すような嬉しそうな声。

 今までユランさんを呼び捨てにしていたのって、皇帝側の人間ばかりだったから驚いた。


 「ジュノ!」


 駆け寄ってくるジュノさんに、両手を広げて迎えるユランさん。


 二人は熱い抱擁を交わした。


 「良かった!……本当に良かった……。グスッ……。」

 「心配かけた……ジュノ。」


 ユランさんがジュノさんの髪を優しく撫で、顔を上げたジュノさんと甘いキスをする……。


 あぁー!そういう事ね!二人はそういう関係だったのね!!

 光を反射するような綺麗な白髪、鼻筋がシュッと通って整った顔のユランさんと、妖艶と言ってもいいくらい色気に溢れるジュノさん。お似合いだねぇ。

 二人が見つめ合うその雰囲気がもう甘々だよ!!あっまーーーーーー!




 ……はっ!寒気!


 後ろをふり返ると、棒立ちした美少女が……。


 「ラピスちゃん……。」


 目を見開き、口は閉じることを忘れてしまったかのように開き切っている。


 ……あれ?この顔、ちょっと前に見た気がするよ?


 「そんな……私の……ユランさま……ユランさまぁ……。」


 力が抜けたように座り込み、二人の仲睦まじい様子を茫然と見つめる。



 ……完璧に諦めさせるって、こういうことかぁ。ショック療法?だね。

 あれだけ熱々なカッポゥの仲をどうこうなんて出来ないよねぇ。っていうかジュノさんと自分を比べちゃうよね……。あのべっぴんさんには敵わないって認めちゃうよ。あ、それが目的か。


 あ!思い出した!あのラピスちゃんの顔、タガロスさんとそっくりなんだ。絶望の仕方と顔がそっくり。

 親子だね……。



 少しして、コランさんが駆け込んできた。

 ユランさんの事を他のクーデターの人から聞いたのかな?

 ユランさんはジュノさんを離して、コランさんの方を向いた。


 「兄上!」

 「コラン!」


 次は兄弟の抱擁ですか。うんうん。

 コランさん、お兄ちゃんが無事で良かったね。


 兄弟が落ち着いたところで、クレスさんとマディラさんがユランさんの元へと近づいていった。

 二人揃って騎士のような仕草で膝をつく。元々ユランさんの兵だったんだものね。冒険者は仮の姿!って感じ?


 ……ん?仮の姿?

 仮の姿なら、いつか戻るって事?


 「クレス、マディラ。ありがとうのぉ。」

 「もう一度ユラン様のお姿を見ることができて本当に良かったです。」


 クレスさんがかしこまった言い方でユランさんと会話をする。


 クレスさんもマディラさんも……ユランさんがこの国の皇帝になったら、兵士に戻っちゃうのかな……。

 そうしたら、滅多に会えなくなっちゃうよね……?


 「クレス、彼女はまだ寝ているからの。場所は……。」

 「はい。失礼します。」

 「僕はもうちょい話したいことがあるから、後で行くねー。」

 

 ユランさんが場所を伝え、クレスさんは兵士っぽく敬礼をして踵を返した。マディラさんは何か用事があるみたい。クレスさんが後ろを向いたところで、ユランさんが私に向かってウィンクをした。

 相変わらず、変顔にしか見えない。





 金棒を背中にしまって駆け出すクレスさん。

 後ろ姿はこれから鬼退治に行くのかな?って感じだ。


 ……なんて冗談を考えていないと、頭が沸騰しそうだよ!

 やばいよ!やばいよ!クレスさんが私の寝ている部屋にめっちゃ駆け足で向かっているよ!


 いや、やばくないんだよ!もうすぐ体を取り戻せるんだし、むしろ助かるんだけれど、でも色々とやばいよ!


 うわぁーーーー!緊張するううぅぅぅーーー!



 やってきました。私が寝ている部屋です。

 ……あ、涎大丈夫?あれ?出てない。……もしかして、イケメン騎士のレオナルドさんがさりげなく拭いてくれた?

 うおぉぉぉ!グッジョブイケメン騎士!!


 クレスさんがベッドに横たわる私のすぐ横に立ってこちらを見ている。


 心なしか顔が赤い……?


 「チカ……。い、今起こすからな……。」

 「はいぃぃ……。」


 聞こえていないだろうけれど、返事をしてしまう。

 恥ずかしくて両手で顔を覆うけれど、気になって指の隙間から結局覗いちゃうーーー!


 クレスさんは、私の頭の下に左手を差し入れて、軽く頭を起こしてくれる。

 屈んで、顔が近づいていく……。


 二十センチ……十センチ……一センチ。



 そして、私は浮いている体が物凄い力で引っ張られる感覚に、目を閉じてしまった。



 ……ふに。


 柔らかい感触。

 

 ……うん。柔らかいんだよ。でもちょっと待って。




 なんで顔全面に柔らかい感触があるのかな。





 目を開けると、目の前は緑だった。私は顔に張り付いた緑の物体を両手で掴み、引き剥がした。


 「ぶへぇ!!」


 この緑のポヨヨンな感触は……。


 「スライム君!!」


 ……私のファーストキス、スライムだった件。


 待って、前にも顔に張り付かれたことあったよね?え?じゃぁ私、ファーストキスとっくに終わっていたの?っていうか、スライムとのキスでも目覚めちゃうの!?



 クレスさんの腰から出てきた不吉そうな人形さんとスライム君が、私の膝の上で戦隊モノのポーズをズビシ!と決めていた。



 返せ!!私のトキメキーーーーーーー!!ファーストキスがああああぁぁぁぁぁぁぁ!!


寝起き一発目の言葉が

「ぶへぇ!」な残念ヒロイン……。


千華さんは、スライム君に気を取られすぎて、ちょっと残念そうな顔をしているクレスさんには気付かなかったとさ……。


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