72 ユラユラ振るからユランさん?などと思ってはいませんよ!ええ、決して!
誤字報告ありがとうございます!
無事に皇帝を捕まえて、これから事後処理らしい。
素晴らしい女性の魅力あふれるジュノさんが皇帝に近づき、腕を組んで上から見下ろした。
……カッコイイ!姐さん!って思わず呼んじゃいそうだわ。
「皇帝……いや、もう皇帝じゃなくなるんだ。タガロス、あんたには今まで犯した罪、キッチリ償ってもらうよ。」
「……ふん。」
「これから、死ぬよりもきつい仕事が待っている。せいぜい今までの圧政を反省するんだね。」
みんな苦しんで来たのだろう。ジュノさんに付いて一緒に入ってきた男性たちが頷いている。
「それでも人としては扱う。それが私たちの総意だ。」
皇帝だったタガロスさんと決して同じにはならないという意思を感じた。頑張って罪を償って下さい!あ、後継者問題で聖女を巻き込んだのは反省して下さい!しかも聖女じゃないのに巻き込まれた私には本当に迷惑でしたよ!
「ユラン様を眠らせた魔法の鍵はなんだ?」
「……言うとでも思ったか?はっ!せいぜい悩む事だな。」
クレスさんが質問した事に鼻で笑ってあしらったタガロスさん。むかっ!
私は隣で一緒に聞いていたユランさんに告げ口をする事にした。
「ユランさん!私は聞いちゃったんですけれどもね!タガロスさんは自分が一番信用して疑わないものを鍵にしているって言ってたんですよ!」
「ほぅ。」
なぁーにぃー?言っちまったな!っていう返しは別に望んでなんかいませんよ。ええ。
ユランさんはすぐにその事を精霊さん伝いにジュノさんに教える。
ジュノさんは精霊さんが話すのをしっかりと聞いて、タガロスさんの方を向いてドヤって顔をしていた。ドヤ顔も素敵です!姐さん!
「タガロスが信じて疑わないもの……ねぇ。」
「……。」
全然顔色とか変わらないけれど、一瞬眉毛がピクってしましたよ!これは完全に動揺してますな!
タガロスさんの視線が一瞬、ここではない場所へと向けられたのを見た。これはあれですね!隠し事をした時にその場所をつい見てしまうと言う心理的なやつですね!
私はタガロスさんが一瞬視線を向けた方角に突き進んでみた。こういう時、霊体化って便利よねー。
真っ直ぐ突き進むとヒントらしい場所へとたどり着く。
「宝物庫だ。」
「宝物庫だのぉ。」
いつのまにか、ユランさんも一緒に来ていた。自分の事だものね、気になるよね。
宝物庫と言えば、タガロスさんここでお茶するのを楽しんでいたよね。
ユランさんが追加でジュノさんに報告をするのを待って、一緒に宝物庫に入る事にした。
きっと、タガロスさんはジュノさんに宝物庫って言われて、また動揺するんだろうなぁ。ちょっと見たかったな。
「そういえば、私がスキルを使ってから一度も見ていませんでしたね。お金どのくらい減っているかなぁ。」
「すごい数の結界を張っていたからのぉ……。すっからかんになっておるかものぉ。」
ユランさんがちょっと悪い顔で笑っている。
兵士さん達がバーリアーを殴ったりしていたし、減ってはいるだろうけれど、流石にすっからかんには出来ないんじゃないかなぁ……。
中に入って一番奥、金貨が山になっている場所に行ってみる。
「おぉ……。」
「だいぶ減っているのぉ。」
その金貨の山は、前に見た時とは随分と変わってしまっていた。
たぶん半分くらい……無くなっている。
数百近い店舗だしたもんね……。
……タガロスさんが好きそうなものって金?お金?だとしたら……。
「減らしちゃって良かったんでしょうか?お金が魔法の鍵に関わっていたのだとしたら、まずいのでは……。」
「ふむ……。まぁなんとかなるんじゃないかのぉ。」
お金が行く場所知らないけれど、無くなった分はもう取り返しがつかないんだよね……。ユランさんはのんびりと構えているけれど、まずいんじゃないかなぁって冷や汗が……。あ、冷や汗とか霊体化しているのに……はっ!考えるな!私!
ユランさんは、もっとタガロスさんを動揺させるために、ここに連れてくるようにジュノさんに伝える事にしたようだ。
確かに、めっちゃ動揺しそうだよね。これだけ減っていたら、動揺しすぎて思わず鍵を言っちゃうかもしれないよね!
そうして連れてこられたタガロスさんは、減っている金貨の山を見て、絶望していた。
いや、もう皇帝じゃないんだから、すでにこのお金はタガロスさんのものじゃないと思うのだけれども……そんな事は頭からスッポリ抜けているんだろうなぁ。
目を見開き、口は閉めるのを忘れているんじゃないかと思うほど開ききって、金貨の山を見つめている。
効果は絶大だ!
「お、俺の……か、金……!」
タガロスさん、地が出ちゃっているのかな?俺って言っている。そのくらいショッキングだったんだね。
その後、崩れるように地面にへたり込んで泣き始めてしまった。何か叫んでいるが、言葉になっていない。
「これじゃぁ鍵も聞けないね……。」
「落ち着くまで待つしかないねー。」
ジュノさんが呆れて、マディラさんが呑気に答えていた。
それにしても、半分くらい減ってこれだけショックを受けるなら、全部無くなっちゃっていたら、どうなってしまったのだろう……。
泣きまくる元皇帝のタガロスさんを見ていたら、チャリーンって音が聞こえてさらに金貨が減っていった。
一定時間が経って、スキルによるお金の徴収があったようだ。
半分くらいだった金貨は、最初見た時の半分以下になった。
「お?」
「ん?」
金貨の山が半分以下になった瞬間、隣で声がした。
隣といえば、ユランさんだ。
そちらを見ると、何やら体が斜めになっている。
「強風に煽られる真似ですか?」
「ぬぅ……!そんなふざけている感じじゃないのぉ……。何やら物凄い勢いで引っ張られておってのぉ。うおおおぉぉぉ!」
のんびりとした口調のユランさんが、うおおおぉぉぉ!って珍しいなぁ……って、そうじゃなくて!引っ張られてる?
私は何故引っ張られているのかもわからないまま、ユランさんを掴んで一緒に耐える事にした。
「うぐぐぐ!」
「うおおおぉぉぉぉ!」
一向に引っ張られる力は弱まらない。むしろ、段々と強くなっている気がする……。
しばらく耐えていたのだけれど、強くなる力に抗いきれず、私の手からユランさんの服がすり抜けた。
スポンッ!
「「あ。」」
綺麗にかぶった声と共に、ユランさんは凄い勢いで壁をすり抜けて何処かへと消えていった。
遠くに聞こえる、あーーーれーーー……の声。
私は声を頼りにユランさんを追いかけた。
追いかけたけれど、途中で見失ってしまった……。
たぶん真っ直ぐに引っ張られたと思うから、こっちかな?
直線コースでぶつかる部屋を順番に確認しながら進んでいくと、進行方向から声が聞こえてきた。
「チカさんやーい。」
やーい、って……前にも思ったなぁ。この声はユランさんだ。無事だったんだね、良かったー。
それにしても今回の声、今まで聞いていた声よりも、肉声っぽいような……。
やーい、と言いながら小走りでかけてくるユランさん。
片手を頭の上でユラユラと振りながら、緊張感のない笑顔で駆けてくる。
足は重力に従うように床に向かう。それを楽しむように跳ねるように動いている。
ユランさんは、三年ぶりに体を取り戻せたようだ。
嬉しそうなユランさんの顔を見たら、私も嬉しくなった。
鍵の予想は何となくついたけれど、後ではっきりと聞かないとね!
……お金だよねー!




