71 え?胸ですか?……つつましやかなもんですよ。性格と一緒ですね!……え?違う?
少し遅くなりました……。
大きな音が聞こえた方に向かっている途中、さらにドゴン!ガンッ!と立て続けに聞こえて来た。
……戦闘の音なのかも?
音の発生源と思われる部屋。
ここは、謁見の間……だね。謁見の間に行けるお城の人は皇帝さんだけ。
皇帝タガロスさんと戦っている人がいるのかな?
別に誰に見つかるわけでもないのに、そっと謁見の間に入った。
こちらを背にして皇帝と対峙しているのは、私が良く知る人の背中。
いつもいざという時に来てくれて、その壁に安心する。クレスさんだ。
クレスさんは皇帝と打ち合っていた。手にはいつもの大剣じゃなくて何か同じくらいの大きさの黒い物を持っている。……なんだろう、あれ。動きが早くてよく見えないや……。
マディラさん程の早さではないんだけれど、うまく見えないのは、周りがとんでもなくチカチカするからだ。
魔法を打ち合っているっぽい。武器がぶつかるたびに周りで火と水がぶつかり合って小規模の爆発が起こっている。
たぶん、火はクレスさんの魔法だと思う。水は皇帝が出しているのだろう。相性的にはクレスさんが不利っぽいかな……。頑張れ!クレスさん!
今までで一番大きな音が鳴って、クレスさんが一旦離れた。後ろに飛んで、ズザッと音を立てて着地する。動きがいちいちカッコイイなー!
惚れぼれと見とれていると、ふと武器が目に入った。
……うん。それ、金棒だよね。トゲトゲ付いた金棒持ってる。クレスさん。
あの、童話に出てくる鬼がよく持ってる系のやつ。それ、殴られたら絶対流血するよね。刃物じゃなくても、そのトゲトゲは流血するよね?
心の中でツッコミを入れていたら、ちょっと冷静になれたわ。
「武器を捨てて投降しろ。間もなく城の中の制圧は完了するぞ。」
「……だからどうした。私はどうせ死ぬのだろう。だとしたら少しでも道連れを増やすのみだ。」
顔が悪役のそれですよ。
死を覚悟した人って怖いものがないものね……。クレスさんの事も道連れにしてやるって思っているのかな。もしいざとなったらここにお店出して手を出せないようにしてやるもんね!お金がある今、怖いものなしだもんね!
「命を取る事はしない。このクーデターは、命をぞんざいに扱われた者達が動いている。あなたと同じ事はしたくないと言っていた。」
「……この地位から落とされた時点で死んだも同然。生きる意味などないわ。」
「苦しめられた人達からすれば、意味はある。むしろそのために生きろ。罪を償え、皇帝。」
捕まるくらいならば命を断とうとする皇帝。今まで苦しめられた分を、生きて償って欲しいと思う民衆。
……すごく、真剣な話だってわかっているんだよ。うん。わかっているんだけれど……。
金棒が台なしにしてるよ!!雰囲気クラッシャーの称号をあげたいくらいだよ!金棒さん!
皇帝とクレスさんの打ち合いが再開されて、また見えなくなった。絶対戦う姿とかカッコイイはずなんだけれど、見えない……。私の目悪いのかな?レベルのせいなのか、それとも
どうなっているのかよくわからないままにクレスさんを応援していると、ユランさんが来た。
「ここはクレスが対応していたのかのぉ。皇帝の息子達はマディラがコテンパンにのして終わらせたから、後はここだけだのぉ。」
「そうなんですね。あれ、コランさんもそこにいたのでは?」
「コランはマディラに敵わないからのぉ。一瞬じゃったよ。」
息子達の、配下を使った戦いではコランさんは他の人に負ける事はないって感じだったのに、マディラさん相手だとまず敵わないって感じなのかー。
……それって、マディラさん強すぎじゃない?いつもあんなにヘラヘラしているのに……!
「……へぶしっ。」
近くでくしゃみをする音が聞こえた気がする。こんな近くでドガンバガン言っているのに、くしゃみが聞こえるわけないよね。うん。
「誰かに噂された気がするー。」
マディラさんが来た。くしゃみは気のせいではなかったみたい。
「アイちゃんー。他の場所は全部終わったよー。後は皇帝を伸しちゃえば終わりだから、頑張ってー。」
「……ああ。」
マディラさんの間延びした応援を受けて、打ち合いはさらに激化してきた。
マディラさんとクレスさんって、同じくらい強いんだよね?パーティ組んでいたくらいだし。って事は、この皇帝さんってめっちゃ強いおじさんだったんだね……。
激しい打ち合いの末、魔法の衝撃と同時に打ち上げたクレスさんの攻撃で皇帝タガロスさんの武器が飛んで行った。
「終わりだ。」
「……ふん。捕まるくらいならば!」
クレスさんが金棒を皇帝に突きつけ、動かないように注意した瞬間に、皇帝は懐から何かを出した。
キラリと一瞬光ったそれを、自分の喉に向けて勢い良く突き刺した。
あ、何か、良くない。
そう思ったけれど、早すぎて自分にはどうにも出来ないとも思った。目を背ける事も出来ない一瞬。
「……ダメだよ、皇帝。それは許されない。」
離れた位置から応援をしていたマディラさんが、いつの間にか皇帝のすぐ横にいた。
本当にどれだけ早く移動したの?
マディラさんは、皇帝が喉元に突き刺そうとした小さなナイフをすんでのところで止めた。
「アイちゃん。皇帝の拘束よろしくー。」
「ああ。マディラ、助かった。」
「どういたしましてー。」
マディラさんが皇帝の動きを警戒して、その間にクレスさんが縛っていった。縛る紐を見ているとなんだか一つだけ色が違う。
「あの色違いの紐は何ですか?」
「あれは魔封じの紐だのぉ。あれで縛ると魔力を外に出せなくなる。魔法を行使出来なくする魔道具だの。」
「そんな魔道具もあるんですねぇ。」
魔法を使えなくする魔道具……ちょっと物騒な物だと思った。
魔法を使える世界では必要な物なんだろうなぁ。
「これでクーデターは完了ですかね?」
「そうだのぉ。動き自体はこれで終わりだのぉ。後は、事後処理だの。」
私がユランさんに確認していると、謁見の間の扉が開く音がした。
「終わったかい?」
「ああ。」
部屋に入って一番に声をかけてきた人に、クレスさんが答える。私はユランさんへの質問を終わらせて、そっちを見た。
めっちゃべっぴんさんだ!
しかもなんか服装がすんごいエロい!クーデターにその格好は絶対違うでしょ!でもそこに痺れる憧れるぅって思っちゃう!魅力的なオーラが目に見えそうな程のべっぴんさんが来た!
「ユランさん!誰ですかあのべっぴんさんは!」
「なんで今日一でテンションが高そうなんだかのぉ……。あれは今回のクーデターのリーダー、ジュノだのぉ。」
「ジュノさん!めっちゃべっぴんですね!すごい!」
隣で呆れた顔をされている気がするけれど、そんなの関係ない!あんなべっぴんさんはなかなか見れない!私は食い入るようにジュノさんを見つめた。
見えそうで見えない!すごい服だわ……。いや、服が凄いのか、ジュノさんの着方が凄いのかわからない。とにかく見えそうで見えない絶妙な加減だ。
露出の激しいチャイナドレスみたいな服で、胸の肌色部分がとにかく多い。全体的にタイトな服のせいで胸の大きさが強調されている……。黒と紫という色合いがすでに大人な女性って感じだ。そして太ももがちらりと見える深いスリット。
完璧だわ。この人わかっているわ……。自分の見せるべき場所を理解なさっているわ。でも、見せすぎない。安売りはしない。うん。カッコイイ……。
「美しい人だわぁ……。」
「おーい。チカさんやー。そろそろ帰ってきておくれー。」
ユランさんに言われて、渋々現実に戻ってきましたよ……。
これから事後処理かぁ。ユランさんの起こす鍵はわかるのかな……。
そして……どうなる私のファーストキス!
真面目な雰囲気をぶち壊す!
金棒先生の今後にご期待下さい。(嘘)
後半、千華さんは完全におっさんと化しています。女の子だって魅力的な女性の前ではおっさん化しちゃうんですよ。……たぶん。




