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68 鏡に向かってウインクしてみたことがあるんです。あれは人に見せてはいけないと思いました。

ユランさんの過去の話が長いです。でも、出来たら読んでやって欲しいです。


 よしのちゃんのノートにはたくさんのレシピが書かれていた。


 コックさん達の動きが早すぎて理解しきれていなかった物についても書いてあったりして、とても助かる。


 このノートを持っていきたいけれど、重くて運べないし、誰かに見られたら大変だし……。


 仕方がないのでアールさんに書いてもらおう!

 私はブラインドタッチでひたすらレシピを打ち込んで、アールさんに送った。


 『ひぃーーーー!また来たアルーーーーー!?』


 なんだか悲鳴が聞こえた気がする……。気のせいかな?



 よしのちゃんのノートには東の国、つまりこの帝国だね、帝国の陰謀で召喚されたと書いてあった。


 私がユランさんと会えなかったら教えてもらえていない事だと思うし、このノートは本当にありがたいと思う。信長様への愛についての部分がめっちゃ長かったけれど……。


 今後召喚されてしまった日本人のためにも、このノートは元に戻しておこう。



 ……でも、拉致された日本人がこの宝物庫に入ることができる確率って……どうなのかな?

 もしかしたら最初は宝物庫じゃない場所にあったのかもなぁ……。真っ平らにしたって書いてあったし。


 ……お城、作り直した物だったんだね。まぁ召喚したり拉致したり、脅したりしていたみたいだし、同情はしないけれど!



 重すぎてすごく時間がかかってしまったが、なんとか落とした本の中によしのののーと!をしまった。


 「……これを本棚に戻す……。」


 無理でしょ。


 「このまま置いておいても誰も気が付かないような気もする……ダメかな?放置して行っちゃダメかな?」

 「私も手伝うかのぉ?」


 落とした本の前で絶望しながら逃げようとしていると、ユランさんがやってきた。

 お主、見ていたな?


 「二人がかりで戻せるでしょうか?」

 「やってみようかのぉ。」


 そう言って本を掴むユランさん。私も反対側から本を掴んで、タイミングを合わせて持ち上げた。


 おぉ!意外と上がる!!


 「すごいです!私一人だったら絶対こんな風にあがらなかったです!」

 「ふぉっふぉっふぉ。」


 ユランさんとの共同作業を経て、無事に本棚に戻すことができた。よかったー!





 「クーデターは今夜、起こす事になったそうでの。」

 「……そうですか。」


 中庭の庭園でお花を見ながらユランさんとお話しているときに、唐突に言われた。

 そっか……。今夜か。


 一応お城の中はしっかり見たし、計画もちゃんと伝えてあるし……大丈夫だろう。


 クーデターが始まってしまったら聞けないかもしれない事は、今のうちに聞いておこう。

 私は、気になっていた事を聞いてみた。


 「ユランさん。私が眠りから起きる鍵って、口付けって言っていましたよね。あれって、ルノールじゃなくても良いのでしょうか?誰の、とは言われなかったので。」

 「ふむ。確かにそうだのぅ。ルノールが自分の口付けだけ、とは言っておらんかった。その認識で大丈夫だと思うのぉ。」

 「そうですか!よかったぁー!」


 ホッとした。ルノールの唇が近づいてくるのを考えるだけで、鳥肌立っていたからね!拒否れるのはありがたい!


 そして出来たらファーストキスはクレスさんに捧げたい!

 口付けの件は伝えていないけれど……。どうしようね……。


 あと聞いておきたい事は……。


 「ユランさんの事……。」

 「私の話、か。そういえば話すと約束していたのぉ。……少し長くなるかもしれんが聞いてくれるかの?」

 「是非。」


 ユランさんはゆっくり頷くと、自分のことを話してくれた。




 ユランさんのお爺さんは先代の皇帝の弟だった。


 お爺さんは小さな領地を貰って、家臣として降った。基本的にお城に行く事はなく、痩せた小さな領地で開拓をする日々だったそうだ。

 皇帝は今の人に代替わりし、ユランさんのお父さんも代替わりで領主になった。開拓はある程度進み、作物は安定して取れるようになっていた。大豆とかの比較的強い作物をたくさん育てる事でなんとかなったんだって。

 安定してきたので、その他のことにも手を回し、山の調査などをしてみた。すると、そこから鉄や銀が大量に出てしまった。

 鉱石ではなく、山の恵みを探そうとしていただけなのに、山の中腹にあった洞窟で見つけてしまったのだそう。


 出てしまった、と父が嘆く姿を今でも覚えている。とユランさんは悲しそうに言っていた。


 そんなお金になる物を現在の皇帝が放っておくわけがない。


 お父さんはその後すぐに体調を崩し、亡くなられた。体調の崩れ方は少し不自然だったそうだ。


 そして、ユランさんが治めることになった領地へ、皇帝は兵を差し向けた。領地を返還せよという命令書を持って。


 逆らうことなんてしようとは思わなかった。でも兵は血気盛んな者ばかりを集めた集団だったそうで、手を出す気がありありと伝わるような進軍だった。途中の他の領地などの様子から……。


 そこでユランさんは領地に住む人を全員逃した。

 ただの村人もユランさんを守る兵も全員逃すことに全力であたったそうだ。出たい者は国から出られるように行商のフリをさせ、他領に行く者はみんな馬車を使って移動させ……。


 皇帝が差し向けた兵が領地についた頃には、人っ子一人いない、蓄えも底を尽きた寂れた領地になっていた。

 あるのはただ、出てしまった大量の鉱石だけ。

 兵の暴力を未然に防ぐことが出来た。と、ユランさんは得意げな顔をして話していた。それも小さな領地だから出来た事だけれど。と、すぐに苦笑していた。


 ユランさんとコランさんは領主としての責任があるため、領地に残って兵を迎えた。何も無い状態の領地を見て、進軍してきた兵たちは怒っていたそうだ。


 そうして、皇帝の元へ連れて行かれた二人。ユランさんは眠らされ、コランさんは契約魔法で縛られた。




 「そして三年が経った。私が逃した兵の中に忠誠心の強い者がおってのぉ。その者が今回のクーデターの頭での。私を解放しようと思ってくれておるようだ。」


 困ったような笑顔のユランさん。嬉しくもあるし、心配もしているんだろうな。


 それにしても……ユランさんは大変な人生を送っていた。この若さで領主様にもなって……。期間はとっても短かっただろうけれど、最後には領地の人全員を守っている。すごいなぁ。


 「それでのぉ。クレス……アイドクレスとマディラも私の領地にいた兵士だったのだ。最後まで一緒に残ると言ってくれた、良い部下だったのぉ。今回はその縁もあって、クーデターに参加してくれることになったのだのぉ。」

 「えっ……。」

 「チカさんだけでは無い。私のせいでもあるのだの。」


 何が、とは言わなくてもわかる。

 私が、クレスさんを巻き込んでしまったと思っていた事についてだろう。だからなのか、とても心配していた。人形さんにお願いするくらい。


 クーデターに参加した事と、もし、怪我をしたら私のせいだと……。


 そう思っていた事に、ユランさんは気付いていたんだ……。


 「だがのぉ、あの二人は強いぞぉ?弟のコランよりも断然のぉ。だから大丈夫。チカは安心して待っていれば良い。」

 「……はい。」


 ウインクをして格好良く言おうとしてくれたんだと思うけれど、ウインク出来ていなかった。

 なんだか変顔みたいになっていて、ちょっと笑ってしまった。



 長く話していたからか、夕日は沈んで月が端っこから昇り始めていた。

次は閑話で、その次くらいから動きが出ると思います。

……たぶん。

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