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63 よく間違えて「どよんでいる」って言っていました。意味は通じていたと思うんです。

 ユランさんが情報を送っている先から、返事が来たとの事でどこかに行ってしまった。


 私はさっきのラピスちゃんがちょっと気になったので、ラピスちゃんを追いかけることにした。


 「確かこっちに向かっていたよね……。あ、いた。」


 トコトコと音が聞こえてきそうな可愛らしい歩き方で、お城の端の方へと歩いている。

 八番目の子供ともなると、お部屋も端っこの方にされてしまうのかな?


 ラピスちゃんは一つの扉の前に立つと、キョロキョロと辺りを見回してゆっくりと扉を開けて入って行った。入る前にキョロキョロするのは癖なのかな?この部屋ってラピスちゃんの部屋じゃないのかな?


 私も壁をすり抜けて一緒に入ると、そこは暗い部屋だった。


 ラピスちゃんはポシェットから棒状の物を取り出すと、先端に手をかざした。ゆっくりと灯りがついて周囲が明るくなる。松明みたいな物なのかな。煙とか出ていないから魔道具の一つなのかも。洞窟探検に便利そう。


 窓は一つもなく、空気は淀んでいる気がする。


 ラピスちゃんは迷いなく部屋の中を進む。灯りでラピスちゃんの周りしか見えていないし、私もラピスちゃんのすぐ後ろをついて行った。


 部屋の奥には段差が一つあった。ラピスちゃんはその段差を上がってさらに奥の扉……ではなく、その手前にある床にしゃがんだ。


 カチャリ、と音がして床が開く。


 「扉じゃないんだね……。というかここはラピスちゃんの部屋でもないのかな。」


 地下に続く階段をラピスちゃんは迷いなく進んでいった。まるでいつも通っているかのような……。


 たどり着いたのは小さな広間。真ん中に四角くて大きな石のような物が鎮座している。


 四角い物にラピスちゃんは近づき、膝をついて中を覗いているようだった。

 一緒になって私も覗いてみる。


 四角い石のような物は上の部分がガラスになっていて、中を見る事ができた。



 眠る人。



 安らかな顔。胸の前で手を組み、服には乱れが一切ない。

 最近よくお話している、ユランさんだった。


 「ユランさんはこんな地下に隠されるように置かれているんだ……。」

 「あぁ……ユランさまぁ……。」

 「え……?」


 隣を見ると、恍惚の表情の美少女。少ない明かりでも頬が紅潮しているのがわかる。心なしか息遣いが荒い……っていうか普通にハァハァ言ってる。


 「あぁ……絹のような髪、整ったお顔、細く綺麗な指……。腕は男らしくチラリと覗く鎖骨が……たまりませんわぁ……。待っていてくださいませ……必ず私がユラン様を目覚めさせて見せます。そうしたら……ユラン様のお声を聞く事が出来るのですものね……。一体どんなステキなお声なのかしら。あぁ……楽しみだわ!」


 わーぉ……。

 若いのにおませさんだなぁ……。ちょっとその愛が重くて怖い気がするけれど。


 「それにはあの女……聖女だったかしら?あの女にかかっている同じ魔法で試したかったのに……。あの結界をなんとかしないとダメね……。うーん……どうしたらいいのかしら。」


 あの女呼ばわりされました!

 十歳の美少女に!あの女呼ばわりですよ!


 なんだかちょっとショック……。


 「なんとか兄様達にあの結界を解かせて、そのあと私が横からかっさらうのが一番楽よね……。そのためにはどの兄様に付くのが良いかしら……。」


 すごいこの子策士だよ!横から掻っ攫う気満々だよ!

 美少女に掻っ攫われるなんて多分そうそう出来ない体験だ。栄誉だろう。でもその先を思うと全然嬉しくないよ!実験台にされるんだもんね!


 「あぁ……ユランさまぁ。また来ますわ。きっともうすぐお会い出来ます。私が絶対起こしてさしあげますわ……。」


 ラピスちゃんはもう一度恍惚の表情で、寝ているユランさんに挨拶をすると踵を返した。


 ……ユランさんの将来が若干心配になった。寝たままも不憫だし……起きても重い愛が待っている……。



 ラピスちゃんがいなくなると真っ暗になってしまうので、私も一緒に部屋から出ることにした。

 地下から出て部屋を閉め、廊下に出て少し歩いたところで男性の声が聞こえてきた。


 「ラピス様!どちらに行かれていたのですか?護衛を置いて行かないでください。」

 「……ごめんなさい。聖女様を見てみたかったから……。」


 控えめに喋る様子は、さっきユランさんに向かって話していた時と雰囲気が違う。本性はあっちなんだろうなぁ……。あと、地下に行っていた事は話さない感じかな。


 それにしても……この護衛の兵士さんは、どこかで見たことある気がするんだよね……。声も聞いたことある気がする。この国には来たばかりだし、兵士さんに知り合いなんていないんだけどなぁ。


 上から見下ろしていたので、降りてラピスちゃんと同じ視点から見てみる。

 金髪はサラッサラで、目元は涼しげな青。……うん。このイケメンっぷりは覚えがあるぞー。


 「ルードヴィッヒさんだ……。」


 ギベオン王国の騎士様が、何故にデュモルツ帝国皇帝の娘さんの護衛をしているんだろうね……。


 「聖女様を……。次はちゃんと私も連れて行ってくださいね。……それで、見ることができたのですか?」

 「……はい。まぁまぁ綺麗な方でした……。」


 まぁまぁってわざわざつける必要あったかなー?なんだろう、ラピスちゃんから若干トゲトゲしたものを感じるぞー。そんなに実験台に出来なかったことを根に持っているのかな……。


 「そうですか……。」


 ルードヴィッヒさんは何やら思案顔。っていうかなんでいるんだろうね?ギベオン王国でのお仕事クビになっちゃったのかな?


 というのは冗談で。

 きっと聖女の関係で来ているのではないかと推測。偵察?それにしてもよくラピスちゃんの護衛になれたね。


 「さぁ。お部屋に戻りましょう。そろそろ勉強のお時間ですよ。」

 「……はい……。」


 ラピスちゃんとルードヴィッヒさんは二人で歩き始めた。一応ラピスちゃんの部屋がどこなのか確認してから私は離れることにした。



 ピコン!


 「あ。」


 折りコンに連絡が来たようだ。どこからともなく音でお知らせしてくれるんだよね。ありがたいわー。どこから鳴っているのかわからないんだけれど。こいつ、私の頭の中に直接……!?的な感じかもしれない。


 自分が寝ている部屋に戻って、折りコンを開く。


 『チカ。無事で良かった。俺は今帝都に来たところだ。』


 クレスさんからだ。今帝都って……。私が帝国にいるってメッセージを送ったときには、もう帝国に向かって出発していたのかな?すごいクレスさん!探偵か!


 「えっと……。『私はスキルを使ったので、しばらく身の危険は無さそうです。ユランさんという人が私に霊体化のスキルを使ってくれたので、今はお城の中を自由に見て回っています。』っと。」


 返事をすると、少し時間を空けてから更にメッセージが来た。


 『そうか。スキルを使っているという事は、あまりチカにとって良くない状況なのだと思うが。』


 そこで一度途切れる。

 慣れない折コンに、一生懸命メッセージを書いてくれているんだろうな……と思うとちょっと微笑ましい気がする。


 『もし、チカが望むなら帝国で生きる事も出来る。』


 ……。


 『チカがどうしたいか、教えてほしい。』


 クレスさんは私の状況をはっきりとは知らない。誘拐のような形で帝国に来たけれど、もしかしたら楽しく過ごせるかもしれないって、小さな可能性まで全部考えてくれているんだ。

 だから、私がどうしたいか、ちゃんと聞いてくれている。


 私が初めて魔道具を使って、周辺を焼け野原にした時も。状況をしっかりと判断しながらも、私のことを心配していても、まずは私がどうしたいかをちゃんと聞いてくれた。


 今、私がどうしたいか……。


 そんなの決まっている。


 ちゃんと言うよ!


 『私は、エンジュ共和国に帰りたいです。帰って、お店をやるんです。またクレスと一緒にご飯を食べたいし、学校のみんなと楽しくお勉強したり、戦えないけれど冒険者としてのお仕事もしたい。そして、今までと同じように、エンジュ共和国の優しい人たちがいる場所で暮らしたい。』

 『わかった。』


 すぐに返事が来た。

 

 『必ず助ける。後少しだけ待っていてくれ。』

 『はい。待っています。』


 クレスさんが来てくれる……。すごく嬉しい。


 クレスさんが来てくれるなら、きっともう大丈夫だ。

 エンジュ共和国に帰ることが出来る。そう確信する。


 思いの外、安堵している自分がいた。結構緊張していたのかな……。


 あ、そういえば……。

 私の理想の人。クレスさんが一番近いかも……。


 ……ぐふぅぁぁぁ!

自分で自分にダメージを与えちゃう千華さん。


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