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61 霊体化していれば、私だってバク転出出来るし!羨ましくないし……!

 夜中になった。


 霊体化してから、ちっとも眠くならない。三人のコックさん達が寝入ってから気が付いた。


 「霊体化って眠くならないんですね。」

 「そうだのぉ。実際の体は眠っておるからのぉ。」


 体が眠っているのだから、眠くならないのか。脳が信号を出すのだから当然といえば当然なのかな?あれ……じゃぁ今どうやって動いているの?ん?あれ?

 ……考えるのをやめよう!だって考える脳は今……体に……うん。何も考えない!


 これからどこを見に行こうかなぁと思ったところで、見覚えのあるボンバーが建物の角から飛び出てきた。


 「あれ、コランさんじゃないですか?」

 「……そうだのぉ。」


 指を指してユランさんに教えると、ユランさんはほんの僅かに眉を下げた。


 ボンバーな白い頭は建物の角から飛び出し、バク転をしてすぐに構えた。

 バク転をした地面には、何か銀色の物が刺さっている。あれを避けたのかな?


 「さっそく、ルノールを害そうとした者がいるみたいだのぉ。」

 「えっ。」


 そうか、コランさんは皇帝の三男、ルノールに付いているんだっけ。ルノールが次の皇帝になる事をよく思わない他の兄弟達がちょっかいをかけているんだね。


 建物で見えなかったコランさんの相手は二人。兵士っぽい格好の人たちだった。とっても体が大きくて筋骨隆々ってこういう人の事を言うんだなって思えるザ・筋肉メンと、小柄で細身の人。対比がすごいコンビだな。


 筋肉メンが大きなハンマーで攻撃して、避けようと動いた相手に細身の人が何かを投げつけている感じだ。


 コランさんはひたすら避けている。機会を窺っているって感じなのかなー。


 何せ戦闘はわからないからね……。なぜそっちに避けたのか、なぜ飛んで避けるのにバク転をするのか……わからん!


 「相手は、なかなか良いコンビだのぉ。」

 「そうなんですか?」

 「うむ。お互いの動線を邪魔しないようにしっかりと連携が出来ておる。だからコランは攻撃に移れんのだのぉ。」

 「へぇー……。」


 ユランさんはのんびりと解説してくれる。そう言われると確かに、兵士の二人の動きは滑らかでお互いが邪魔しないように気を使っているようにも見える。

 見えるだけだけれど!


 それにしても、コランさん危ないんじゃないかなぁ?ニ対一だし、連携されているし……大丈夫なのかな?

 べ、別に心配しているわけじゃないし!ユランさんの弟さんだし?ユランさんが心配っていうか!


 「コランさん、大丈夫ですかね?」

 「ホッホ。大丈夫だろうの。あんな細身じゃが、なかなか腕の立つ弟でのぉ。」

 「そうなんですか……。」

 「ま、ここから離れるかのぉ。」


 え、見なくて良いの?心配はしていないっぽいけれど、良いのかな?


 ユランさんがフワフワと行ってしまうので、私もついて行った。チラチラと後ろを見ていると、ちょっとだけコランさんが反撃に出ているっぽいのが見えた。


 ……あ、そうか。


 コックさん達は死人が出るって言ってた。コランさんが……あの人達を倒すんだとしたら……。

 ユランさんは私に見せないようにと気を使ってくれたんだ……。ありがとうございます。そして帝国怖い……。



 しばらくフワフワして辿り着いたのは中庭。

 全面が建物に囲われていて、お城の外の景色は見えないけれど、綺麗な噴水と大きなお花畑が広がっている。所々にベンチと屋根がついたテーブルセットがあったりして、昼間ここに来たらとても気持ちが良いだろうと思われる。


 月の光と建物から漏れてくる明かりで薄ぼんやりと見える花々は静かに、ここにいる、と主張をしているように見える。色の分かりづらい今の時間は、まるで水墨画のように滲んで儚げだった。

 昼間に見たらきっと、生き生きして見えるんだろうな……。


 「綺麗な場所ですね。」

 「うむ。ここは一年中花を愛でられるように、庭師が花を植え替えていてのぉ。大変だとは思うが、その分綺麗での。」

 「庭師さんが一生懸命やってくれるから見られる景色なんですね。」


 明日、昼間にもう一度見に来よう。夜の静かな景色も素敵だけれど、昼間の力強さも見たいと思った。


 ベンチに座って花を見ながら、ユランさんはポツリポツリと喋る。


 「この時間は殆どの人が寝てしまうからの、誰かがお話しているのを聞いたり、誰かが仕事している様子を見たり、そういう観察も出来なくてのぉ。しかも眠くもない……。暇で暇で仕方のない時間でのぉ……。」


 一人で三年も、何も出来ず、見るものもない夜の時間を過ごしていたんだね。


 「誰かとこんなに話をするのも、長い夜に誰かがいるのも、久しぶりでの、とても嬉しくなってしまった。」


 ユランさんはニッコリと微笑んだ。その顔は、まるで満足しているよう。


 「クーデターが成功したら……ユランさんは起きられるんじゃないんですか?」

 「……チカさんが起きる鍵は口付けだったのぉ。」

 「うへぇ……はい。」

 「その時私が見ていたからのぉ。鍵がわかった。しかし、私は……起きるための鍵がわからんでのぉ。」


 起きるための鍵。何をしたらあの魔法が解けるのか……ユランさんの方はわからないのか……。


 クーデターが成功しても、鍵が分からないのでは起きることができない。


 「ユランさんに魔法をかけたのは誰なんですか?」

 「皇帝、タガロス。今のところ帝国一番の魔法使いでの。剣の腕もなかなかの物だの。」

 「つ、強そう……。」


 タガロスさんかぁ。ユランさんの魔法を解く鍵の事、ぽろっと口を滑らせないかなぁ。後でタガロスさんのお部屋覗いてみようっと。


 「それにしても、久々にこんなに話したのぉ……。」


 ユランさんはとても楽しそうに笑顔で夜空を見上げた。三年も一人で、会話が成立しない精霊さん達しかいなかったのだとしたら……。寂しいだろうな……。私だったら、耐えられただろうか。

 ……私の体が寝ている間はいっぱいユランさんとお話しよう!そして、ユランさんが起きられるように手伝えることは手伝いたいと思った。



 あ、そういえば……。今は浮けるんだよね。


 「ユランさん!この霊体化ってどのくらい体から離れて良いんですか?」

 「そうだのぅ……。この城二つ分くらいは離れられるかのぉ。」

 「上にいきましょうよ!」

 「上?」

 「はい!せっかくだから、星を見に行きたいです!」


 一度はやってみたかったんだよね!星をのんびり見るの!


 ユランさんの手を引いて、空に上がって行く。

 お城二つ分だから、そこまで距離は上がれないけれど、空中に横になって星空を眺めた。


 寒さも感じないし、首も痛くならない!建物の明かりに邪魔されることもなく、快適に満点の星を見ることができる。


 「すごい数の星ですねぇ。あ、流れ星!」

 「星が流れるとは……良くない知らせかのぉ……。」

 「流れ星が消える前までに願い事を三回唱えられれば願いが叶うんです!だから、いい物ですよ!」


 迷信だけれども!私は信じている。だって、あんなに早く消えてしまう間に三回唱えられるって、それはもう奇跡に近いと思う。奇跡が起きたんだとしたら、願い事も叶いそうじゃない?


 「チカさんのところではそのように考えられているのかのぉ。……なかなか素敵な物だのぉ。」

 「はい!」


 ユランさんはこちらを向いて笑った。笑った顔はコランさんととっても似ているのに、あの貼り付けたような感じとは違う。自然な笑顔だった。

 コランさんも自然に笑ったら、きっとそっくりなんだろうな。



 ユランさんはそのまま流れ星を探すとの事だったので別れて、私は皇帝タガロスさんのお部屋に行ってみた。


 なんだかナイスなボディの女性と、見ちゃいけません!な雰囲気を醸し出していたので、慌てて部屋から出て行きました!


 びっくりしたーー!結構なお年に見えたのに元気だなぁタガロスさん……。

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