60 残像だ!とか言いながらキャベツの千切りをやってみたいです。
後半にちょっとだけ怖い表現があります。ご注意ください。
ユランさんになんとか頭を上げてもらって、お城の散策を続ける事にした。
散策を続けながら、ユランさんはさっきの話の続き、これからのことを教えてくれた。
「このまま行けば帝国は戦争を起こすだろうの。ギベオン王国も聖女を手に入れたら南の国、グランディディ王国に攻めるつもりでいた……。聖女は争いを呼ぶ、などと歴史書には書いてあったが聖女よりも権力者が問題である気がするの……。」
聖女が争いを呼ぶ……。なら喚ばなきゃいいのに!って思うけれど、権力者がアレだから喚ばれちゃうんだろうね……。ユランさんはそういう事を言いたかったのかな?
「今、この国は聖女を我が手にしようと躍起になっている権力者達と、そんな権力者達に愛想を尽かした国民達がクーデターを起こそうとする動きがあってのぅ。だからこそ早くチカさんには逃げてもらいたいのだのぉ。」
き、きな臭い……!
さすがにクーデターに巻き込まれるのはいやだなぁ……。
「クーデターが起こる前に逃げられるよう、私も手伝うからのぉ。」
「……よろしくお願いします。」
ユランさんは、私がこれ以上巻き込まれないように逃してくれるつもりのようだ。
……聖女がいれば戦争が起こり、クーデターが起これば同じ国のなかで戦争のようなものが起こる……。
どっちにしても、人が死ぬんだろうな……。
なんか……すごく嫌だな……。
でも、私に出来ることなんてほとんどなさそう。私一般人だし……。聖女に間違えられているけれど。
聖女はいないから戦争はまだ起こらないとして、クーデターは起こりそうだよね。
……ユランさんはその時、どうなるんだろう。
「ユランさんは……。」
「あなたは私のことまで心配してくれるのかの。優しいのぉ……。」
にっこりと微笑まれて、ちょっと恥ずかしくなった。
ユランさんは皇帝の血筋だとしても、三年も寝たきりらしいし、私の事を助けてくれようとしているし、他の偉そうな人達とは違うのに。クーデターが起こったらユランさんは……。
「大丈夫。私はクーデターを起こそうとする人たちに情報を送る役目を担っていてのぉ。成功したら、生きていられるように計らってくれるとの事だのぉ。」
「そうなんですね。……良かった。」
ユランさんはクーデターが成功しても生きていられる。うん……起きられるわけじゃないんだ。
「あれ?この霊体化って、同じ霊体化した人と精霊さんくらいしかお話出来ないんじゃ?」
「うむ。実はの、そのクーデターの人員に精霊の言葉が大体わかる人がおってのぉ。精霊を介して情報を送っておるんじゃ。」
「おぉーすごい!あの言葉を理解できる人がいるなんて!」
私は聞き逃さなかったですよ!大体のところがちょっとゆっくりになってたよ!
大体なんだね。その情報ちゃんと伝わっているのかな……。伝言ゲームみたいになっていないと良いけれど……。
そんなわけで、現状を精霊さんに伝えてもらってくるからのぉ。って言って、ユランさんは一度自分が寝ている場所に戻っていった。
私はお城の表門から私が寝ているお部屋までの道を覚えつつ、さらにフラフラした。
フラフラと漂っていると、ガチャガチャと音が漏れている部屋の前に着いた。
なんの音かな?
「おら!さっさとしねぇとディナーに間に合わなねぇぞ!」
「わーってるよんなこたぁ!てめぇももっと早く手を動かせよ!」
「出来るわけねぇだろ!これ以上とか手が飛んでいっちまうよ!」
「手が飛んだらアタイが上手に血抜きしてスープの出汁にしてやるよ!」
「「こえええええーーーー!」」
「なんだい?手が止まっているよ!手、切り落として欲しいのかい?」
「「さーせんっしたーーーー!!!」」
物凄い高速で手を動かしながら、恐ろしい冗談を交わしているコックさん達。
冗談だよね?超怖いよ!おばちゃんなコックさんがこの中で一番強そうだ。
コックさん達はディナーの仕上げをしているみたい。そういえばもう夜なんだね。霊体化してから時間の感覚がちょっとおかしくなっているかも。
ディナーは豪華なフランス料理っぽい物。メインのお肉がテラテラと脂ぎっていて美味しそう……。いっぱいは食べられないけれど、思いっきり頬張りたくなるよね。こってり系って。
あ、ラーメン食べたい!こってり豚骨系!
うぅ……。お腹が空いた気がする……。
空いた気がするお腹をさすりながら、コックさんの動きを見て料理のお勉強をした。
高速すぎてあんまりはっきりとは見えなかったけどね!!
お城のコックさんってレベルも高そうだなぁ……。
でも、お肉の下味の付け方とか、見たことのない野菜の使い方とか、わかる部分もあった。フランス料理は作ったことないから、とてもためになる!
明日も見学しに来ようと決めた。
ディナーを時間内に作り終わって、賄いを作るコックさん達。ディナーで使ったスープの残りとかお肉の切れ端とかを食べている。
「そういやぁ、後継者が決まったってな。」
「ああ。なんでも聖女様を見つけなすったとか。」
「そうかい。じゃぁアタイらも通いに変更しないとね。」
「そうだなぁ……。明日には変更手続き出しておくか。」
帝国はあまり聖女に関する情報を隠したりしないのかな?コックさん達も知っているくらいだし……。
それにしても、通いに変更ってなんだろう。
「アタイのもよろしく頼むよ。」
「ああ。」
「それにしても、後継者争いで城を滅茶苦茶にするのも大概にして欲しいよな。夜中は特に殺人が起きまくるしよー。」
「そうさねぇ。おちおち寝ていられないからね。朝が早い料理人には勘弁して欲しいもんだよ。」
お世継ぎ問題怖っ!殺人とか怖っ!
そんなに恐ろしいお城なのに、通いにしてでもお仕事するんだね……。仕事熱心な人達なんだろうな……。あんなに凄腕っぽい人達なら、どこででも働けそうだけど……。
「流れ矢が当たったら敵わねぇからな。今日の夜は馬小屋にでも行くか。」
「そうさなぁ。」
馬小屋に避難するのね……。うーん。
お勉強代払っていないし、保険をかけさせてもらおうかな!明日一人減っていた、とか嫌だし!
コックさん達が馬小屋に避難していくのを見て、私はスキルを発動した。
「スキル『コンビニ経営』。馬小屋と周囲五メートルを店舗に指定する。」
簡易設定で警備は弱。
「これでよし!」
「ここにも結界を張っておるのかの?」
「あ、ユランさん。」
ユランさんにコックさん達がここに避難している事、お勉強させて貰ったから、そのお礼にバーリアーを張っておいた事を報告した。
「なるほどのぉ。複数張れるのかの?結界は。」
「はい。複数同時に使うのはこれが初めてですけれど、お金がある限り何個でも張れると思います。」
お店が順調にいけたら、グランディディ王国の国境付近に二号店出したいし……。あちこちに店舗を持つのなら、複数のバーリアーは必要だよね。
今は帝国のお金を頂戴しているので、遠慮無く張れるんだけれど、自分のポケットマネーから出すとしたらもっと稼いでからじゃないとなぁ……。
あ、勉強させて貰ったお礼にバーリアーを張ったのに、消費するお金は帝国のだった。
……ま、いっか!
聖女召喚の裏側?の話はこれで粗方終わりです!
後半はもういつものノリです。




