57 だぁーーーーーー!ですよ。
遅くなりました。
誤字報告、ありがとうございます!
……ぉー……。
……ぃ。
……何か聞こえる気がする。
おーぃ。
おーーい。聖女さんやーーい。
いや、聖女じゃないし。っていうか、やーいって……。
おーーい!聖女さんやー!きーこえーるかーーい?
うるさいなぁ……。
あーあー。ごほんっ。
元気ですねー?元気があるとー何とかできる!
行きますよー!
さーん!にー!いーち!
でやーーーっ!!
「所々ちっがーーーーう!」
「おぉ、出られたか。聖女さんや。」
「はっ!」
あまりにも間違えている掛け声に、思わず突っ込んでしまった。
その勢いで目が覚めたようだ。寝る前の事があまり思い出せないけれど、とりあえずここが自分の知っている場所ではない事は確かだろう。部屋がやけに豪華だ。
私に話しかけていた人物は誰だろうか、と視線を向ける。
「って……幽霊!?」
「私はまだ生きておるよー。」
「生き霊!?」
幽霊よりも生き霊の方がたちが悪い気がする。
「これはスキルでのぉ。『霊体化』っていうものなのだ。とても便利なのだよ。」
「自ら生き霊に……。」
「うんうん。この状態だと、同じように霊体となっている人か、あとは精霊としか話せないのだよ。」
ん?
「同じように……霊体?」
「うん。枕元を見てごらん?」
ゆっくりと振り返る……。
あぁ……。私がいるぅ……。めっちゃぐっすり眠ってるぅーーー。
「幽体離脱……。」
「『霊体化』なのだよ。まぁ何にしても、起きてくれてよかった。スキルを使っても拒否される可能性もあったからの。」
「なぜに拒否しなかった私っ!」
ぐっすり眠っている自分の顔が憎たらしい。ちょっとよだれ垂れてるし!ここはせめて清楚な雰囲気で眠っていておくれよ!
「まぁまぁ。落ち着いて。私としては話ができるからありがたいのだよ。」
話をするために霊体化させたって事だよね?そこまでして話したい事ってなんだろう。
もう一度、私を霊体化させて起こした相手を見る。
半透明になっていて、宙に浮く男性。ちょっと困ったような顔で笑んでいる。言葉遣いの割には若い見た目だ。
体は細身。白く真っ直ぐな長髪で、目は虹色。……あれ?この色……。
「……コランさん?」
「自己紹介と謝罪を。私はコランの兄、ユラン。弟がご迷惑をお掛けした。……申し訳ない。」
ユランと名乗った半透明の男性は、深く頭を下げた。
「……。ユランさんは、コランさんを止められる立場にいらっしゃったんですか?」
「いいや。私はこうして霊体化して城の中を漂うくらいしかできる事はないよ。しかし、私もコランも歴代皇帝の血筋の人間。だから、帝国が迷惑をかけたなら、謝罪をしなければならない立場なんだ。」
そう言うと、ユランさんはもう一度深く頭を下げた。……コランさんもユランさんも皇帝の血筋?
「わかりました……。とりあえず、ユランさんの謝罪は受け入れます。でも、コランさんには一発ぶちかまさせてください。」
「ありがとう……。弟に関しては一発と言わず何発でも、気が済むまで殴って構わないよ。悪い事をしたのだからね。」
何発でも良いのかぁ。なら人形さんとスライム君の分と私への迷惑料で三発は確定だね!あとは勢いで倍々に増えると思う!
私が拳を作って殴るモーションをしていると、ユランさんは改めて話し始めた。
「聖女さんや。私はあなたを逃すため、少しでも手助けをしようと思って来たのだ。」
「手助け……ですか。」
「うむ。このままだとあなたは皇帝の第三子、ルノールと結婚する事になるのだよ。」
そういえば……そんな話になってたなって、今思い出した。あんまり思い出したくなかったけれど……。
「噂をすれば……。来なすった。」
部屋のドアがノックもなく開けられ、入って来たのは私の顎を無理やり上げて来た男性。あの人がルノールさんね。
コツコツと靴音を鳴らしながら私が眠るベッドの前まで来て、じっくりと私を眺めている。
寝ている私の頬に手を当てて、口元がニヤリと歪んだ。
ぞわぞわーーー!
霊体化しても鳥肌って立つんだね。きーーもーーいーー!私に触るなーー!
「もうすぐ……もうすぐだ……フフフ……フハハハ……。」
しかもなんか変なスイッチ入っているし……。見た目はイケメンなのに、中身残念すぎるでしょ……。眠る私の口元に垂れるよだれには気付かないのかな?浸りすぎて見えていないのかな?
「あれが好きなら、このままでもいいと思うがの……。」
「無理っす。絶対無理っす……。」
変な言葉遣いになっちゃったけれど、無理です。嫌です。お断りです!
男性はしばらく私の顔を見つめると、満足したのか靴音を鳴らしながら出ていった。
「今あなたが眠っているのは魔法によるもの……目覚めるには魔法をかけた術者の決めた合図が必要なのだよ。」
「合図ですか……。」
「私はその場で聞いていたのだが……。その合図が……。」
「合図が……?」
「口付けだと言っていた。」
「……。」
起きなきゃ……。起こされる前に起きなきゃ!変にロマンティーックにしないでよ!キモいーーー!
「ルノールに起こされる前に、起きた方がいいと思ってのぅ。」
「ありがとうございます!是非、ご協力くださいませ!」
今度は私が頭を下げる番になった。勢いは、体育会系のおねがいしゃーーす!だ。
「霊体化していてもスキルは使える。普通の人には見えないがね。聖女さんや、あなたのスキルで何か使えるものはないかの?」
「うーん……。」
そもそも、私は聖女じゃない。それを言ってもいいものか……。
ユランさんは謝罪してくれたし、帝国の思惑と違う動きをしようとしている事はわかる。
それでも、安心かっていうとわからない。今は優しくしてくれているけれど、実は何か企んでいるかもしれない……。
「何か秘密にしたい事があるのなら、契約するかのぅ?」
「でも、契約書が無いと……。」
「大丈夫。私たちは今精霊と会話できる状態なのだ。それに、君の周りに一人いてくれている。その子に契約を見届けて貰えばいい。」
「いてくれている?」
「うむ。この城に来る時からずっとそばにおるよ。」
私は、私が寝ているベッドのそばをぐるりと見回した。
「あ。」
ドア側からは見えない位置に、ちょこんと座っている女の子。
背丈は五歳にも満たない子供のようで、顔もあどけない。髪は黒く長い。前髪がパッツンになっている。そして、笑顔でこちらを見ている。
その笑顔は見た事がある。あの時と同じ笑顔。
「人形さん?」
「_€^$!〆>!」
「私たちと言葉が違うからのぅ。何を言っているのかはわからないよ。」
「会話できる状態ってさっき言ったじゃないですか……。」
「私たちの言葉を理解はしてくれているんだよ。向こうからの言葉がわからないだけで……。」
「えぇ……。」
「でも、今さっき彼女は肯定していたように見えるよ。」
「そうですか……。」
人形さんは精霊さんだったんだ。人形さん、砕け散ってたけれど、精霊さんとして生きていたんだ。
「良かった……!」
「€£&<=!」
手を伸ばすと、人形さんだった精霊さんはしっかりと握ってくれた。そのまま、ギューっと抱きしめた。
「あの時はありがとう!おかげで助かったよ!」
もう一度、笑顔を見られた。それがとても嬉しかった。あの時見た笑顔よりも、今の笑顔の方が輝いているような気がした。
「知り合いだったのかの?それならより好都合だ。契約内容は君が決めて良い。精霊が聞いてくれているからね。口約束でも契約になるよ。」
「じゃぁ……。」
私とユランさんは契約を交わした。私のスキル、職業のことは誰にも言わない事。破ったら……。
「破りようがないのだけどのぉ。」
「念のため、ですね。でもこれで安心です。」
精霊さんが頷いているので、契約は完了したのだろう。ずっと見守ってくれるのかな?そうだったら嬉しいな。
これで、スキルを使う事ができる。スキルを見れば聖女じゃないって気がつくと思うけれど、逃げるために手伝ってくれるって言っていたし、思いっきり助けてもらいましょうか!
まずは連絡をしなくちゃ!
ユランさんは若いけど言葉遣いがおじいちゃん。
なのだよ。っていうコランさんと少し違いが出ているといいのですが……。




