54 この数日で指に針を刺した回数ですか?……両手では数え切れないですね!
本編遅くなりました。
アールさんのいる村に戻る前に隣町の冒険者ギルドに寄って、マディラさん宛に手紙を書いた。
村に帰ったら、できるだけ早くエンジュ共和国に帰る予定だ。
私には出来ることしか出来ない。
ミーソを作っている村の可愛いお婆ちゃんに言われた言葉に、最初は焦りのようなものが胸の中で騒いでいたけれど、クレスさんに言われたり、数日移動しながら考えたら結論はこうなった。
出来る限りはする。でも、焦らない。
だから、羽根つきモモの問題も解決し、コッメとショーユとミーソを手に入れる事が出来るようになった今、早く帰ってお弁当屋を始めるための準備をしなければ、と思っている。
そんなわけでまずは帰る段取りだ。
「あのお方に会うにしてもそこまで長話はできないかもです……。」
「……そうだな。あちらがそれを了承してくれると良いな。」
カルセドニー渓谷にいる、青い美しい髪の女性を思い出しながら呟くと、クレスさんが苦々しい顔で返してくれた。何やら不穏な言い方じゃないですか?でも、選択権は確かに、あちらにある気がするなぁ……。
村に戻ってアールさんと話をつけた。ミーソの製造方法はしっかりとまとめて、いざと言うときの対策をする、と約束してくれた。とりあえず一安心。
でも、出来る事ならあの人たちが喜ぶ顔が見たい……なんて我儘な考えがよぎる。みんないなくなってからミーソの美味しさが見直されても、私としては喜び半減なんだよね……。
ミーソを作っている村の皆さん!是非とも長生きしていてくださいね!!
「おぉ、チカ君。久しく見ていないと思ったが、どこかに行っていたのかね?」
「コランさん、こんにちは。ちょっと違う村に行っていました。」
次の日、朝のご飯の片付けをしていると、両手を広げて感動の再会?と言わんばかりの表現でコランさんに挨拶された。相変わらず貼り付けた胡散臭い笑顔だ。髪がいつも以上にボンバーっている気がする。爆発に巻き込まれたのかな?
「そうだったのかね。いやぁ、もうエンジュ共和国に帰ってしまったのかと思っていたよ。私は研究に没頭するとつい周りが見えなくなってしまってね。気が付いたら、羽根つきモモキングが討伐された日から何日経っているのかもわからなかったのだよ!」
「……本当に没頭されていたんですね。」
根っからの研究者さんなのだろう……。髪のボンバー具合はそのせいなのかな?そういえば、お祭り騒ぎの後はコランさんの分のご飯、用意していなかったな……。誰かこの人にご飯あげていたんだろうか……?良く生きてたなぁ。
「ずっと羽根つきモモの体の構造の研究をしていたのだが、そろそろ終わるのだよ。君が言っていたスライムも気になるのでね、是非とも私もエンジュ共和国に行きたいのだよ!」
あぁ……とうとうこの時が来てしまったか……。エンジュ共和国に暮らすスライムさん達……すまぬ……。
乱獲されるスライムさんの未来を思い、心の中で合掌した。腰にくっついているスライム君はプルプルしていた。
「私は後数日したらこの村を出る予定です。」
「ほう。私は他の冒険者達と話をつけていてね、明日には発つのだよ。」
「そうなんですね。お互い気をつけましょうね。」
この先に待つスライムさん達に想いを馳せているのか、上機嫌な足取りで去っていくコランさん。いつも以上にボンバーな髪が左右にユラユラ揺れていた。
さて、マディラさんが帰ってきたら、出発だ。それまでに片付けや、ご挨拶をしておかないと!
クレスさんに報告して、みんなに挨拶をしていく事にした。
「あんれぇ、もう帰っちまうのかい?」
「はい、後数日で。お野菜を頂いたり、気を使って下さってありがとうございました。」
「えぇんだよぉ。あーだどもぉ、魚の捌き方はまだちゃんとおしえぎれてなかったなぁ。今日も夜よってきぃ?」
「はい!ありがとうございます!」
まだ完璧ではないお魚の捌き方をもう一度教えてくれるのはありがたい。遠慮無く伺わせてもらうことにした。
「えっ!?もう帰っちゃうの?」
「もっといろんな遊びおしえて欲しかったのにー!」
「ごめんね。来年また来ると思うから、その時また遊ぼうね。」
「うーん。来年かぁ……。じゃぁ、その時までに水切り強くなっておく!」
「僕もー!」
「私もーー!」
「うん。楽しみにしているね。」
子供達とはかなり明るいお別れになった。来年には水切りの回数、負けているかもなぁ。それはそれで楽しそうだ。子供の成長を感じられるからね。
あと挨拶していないのは……。
「おんやぁ、けぇるのけ?」
「はい。」
「じゃぁ最後に見でやっよぉ。」
「お願いします!」
暇があれば練習していた刺繍。
色々と刺繍について教えてくれた奥さんに、最終試験だとでも言うように刺繍の成果を見せた。
「……。こりゃぁ……。まぁ……がんばっだほうだなぁ?」
「はい……。頑張りました。これからも少しずつやっていきます。」
「そだなぁ。やめちまったらすぐに元に戻りそうだぁ!」
そう言って、奥さんはワハハと笑っていた。合格!とはならなかったけれど、落第ではないのだと思う。これからも精進します!ガタついた模様の刺繍。簡単なはずなんだけれど、なかなか綺麗にいかないんだよねぇ。
来年にまた来るから、その時に新しい図案を教えてもらう約束をした。
短い期間だったけれど、結構村の人と交流出来たのかな?
心配になることもあったけれど、楽しかった。
その地の文化に触れ、人に触れ、その世界に少しだけ染まる。
こうして私はまた一歩、この世界の人間になっていくのだろう。
夜。もう一度お魚の捌き方を教えてもらって、やっぱりちょっとボロッとしてしまった切り身。
「この前よりはマシに出来たと思うんだよね!帰ったらゆっくり焼いて、ショーユをかけて食べようね。もちろん、二人の分もあるからね。」
私の腰に付いている人形さんと、スライム君は嬉しそうに腰でウゴウゴ動いていた。
二人とも喋れないけれど、私の言葉に反応してくれる。
そうやって喋りながら、一人と一匹と一体でテントに向かって歩いていると、真っ白い頭のボンバーヘッドがフラフラとこっちへ向かってくるのが見えた。あれは喜びの表現歩きなのか。嬉しそうに歩いているのかもしれないが、フラフラ過ぎて心配になる。栄養失調になってない?
「コランさん?」
「ああ、チカ君。ちょっと来てくれないかい?見せたいものがあるのだよ!」
返事を待たずに歩き出すコランさん。鼻歌交じりにフラフラと行ってしまう。
お魚の切り身が傷まない程度の時間だと良いなぁと思いながら後について行く。
朝、挨拶は済ませたから、もうこちらで会うことは無いと勝手に思っていた。研究の成果を見せたかったのかなぁ。などと考えながらついて行くと、着いたのは誰も住んでいないと思われる家。
の裏手。
そこに置いてある小さな箱を指差すコランさん。
何故こんな人目につかない場所に箱を置いたのか。この人の思考がよくわからない。
「あけてごらん。」
「はぁ。」
頭の中で疑問が浮かんでいるけれど、言われた通りに開けようと、しゃがんで箱に手を伸ばす。
箱に触れると同時に、私の腰に縛り付けてあった不吉な人形さんが、私から離れた。
「え?」
人形さんは私の背後にまわる。思わず目で追った。
私に背をむけて両手を広げた人形さんは、顔だけをこちらに向けると、ニコリと笑った。
そして、一瞬で砕け散った。
「ふむ。この人形を作ったのは、名のある魔道具師なのだろうね。随分と精巧に出来ているのだよ。」
「え?」
何が起きたのか、わからなかった。目には見えない速さだったのだと思う。喋るコランさんの姿勢は、空手の正拳突きのよう。ゆっくりと姿勢を戻すところだった。
「何を……?」
「今の人形は攻撃を代わりに受けてくれるものなのだろうか。なかなか良いものを見せてもらったのだよ。あの商人、私にはくれなかったからな。」
頭が上手く回らない。なんで人形さんが砕け散ったのか、なんでコランさんはまた構えているのか。砕ける直前の人形さんの笑顔が、頭から離れない。
腰にしがみついていたもう一人の存在が、腰から離れて行くのに気付くのも遅れてしまうほど、驚きで動けなかった。
「随分探したのだよ。しかし、なかなか紛れ込むものなのだ、ねっ!」
「スライム君!」
コランさんに飛びかかったスライム君も、コランさんの拳に吹き飛ばされてた。
まるで水たまりのように地面に伸びる姿は、生きているのかわからない。
「なんで……。」
「スライムなどに興味はないんだよ。最初から、ね。」
あんなにスライム君に興味津々だったのも、嘘だった?口調もなんだか変わってしまっている。
目の前に立つコランさんは、一切笑っていなかった。開かれた目の色は……。
「虹色……。」
「我が国の主人があなたを御所望なんですよ。なので、来ていただきますよ。」
お腹に衝撃を感じて、力が抜ける。頭から地面に倒れ、目に映るのは遠くにいる水たまりのようになったスライム君。
それも段々と暗くなっていって、何も見えなくなった。
遠くで、コランさんが言葉を続けるのが聞こえた気がする。
「聖女様。」
これで二章は終わりです。色々と二章には仕込んでいる部分があるのですが、気づいて下さったでしょうか?自分の中では仕込んでいるつもりでも、第三者の視点からだと全然仕込みになっていない!と言うこともあると思うので、不自然になっていないと良いのですが……。
三章は休憩期間を入れずに、いつものペースで更新していきます。
よろしかったら三章も見てください。
たくさんのブックマーク、高評価、本当にありがとうございます!




