49 切り替えは早い方が、体にも心にも良いんですよ!
少しの間待っていると、マディラさんが二人を連れて来てくれた。
私の雰囲気が暗いせいか、駆けつけてくれた二人も真剣な顔をしている。
そのまま、アールさんの家に移動して、私はコランさんが言っていた仮説と合わせて二人に説明した。
マディラさんは外で待っていてくれている。その心遣いがありがたい……。
説明が終わると、クレスさんがまとめてくれた。
「つまり、コッメの炊ける匂いが羽付きモモを興奮させ、風に乗って遠くにいた羽付きモモも引き寄せてしまった、と。」
「はい。私がコッメの食べ方を変えちゃったから、罠に使ったから……子供達が危険な目に……。」
「ふむ……。わかったアル。村長と村の人と話してくるアル。」
「え、あの……。」
私が俯きながら話すと、アールさんはさっさと立ち上がって村の人がいる場所へと行ってしまった。
この先どうするのか決めるのだろうか?コッメの美味しい食べ方は私が教えたけれど、みんなに広めるときにアールさんが発見した、という事にしてしまった。責められるとしたらアールさんだ。大丈夫なのだろうか……。
私が呆然とアールさんを見送っていると、クレスさんが頭をポンポンと撫でてくれた。
「少しここで待っていよう。すぐに戻ってくるだろう。」
「……はい。」
しばらくの間、どちらも話すことはなく、ただ静かに待っていた。
「戻ったアルヨー。」
だいぶ陽気な雰囲気で戻ってきたアールさん。
イスに座ることもせず、入ってきたドアの前で結果を話してくれた。
「コッメはこのまま、摺揉み、精米をして食べることになったアル。」
「え……でも、危ないのでは?」
「羽付きモモ達は、罠に一直線だったアル。この罠はとても有用アル。むしろ、罠があれば前よりも安全に羽付きモモ達を狩れるアルヨ。それに、コッメの美味しさを知ってしまった今、戻れない!と、みんな言っていたアルヨ。」
「え、えぇ……。」
確かに、籾殻付いたまま食べていたのだとしたら、だいぶ美味しくなったとは思うけれど……大丈夫なのかな……。
「羽付きモモキングが出たときは、今回のように冒険者を雇うことにしたアル。更に、今回は罠を用意するのがギリギリになってしまったアルが、次はもっと早くから村に設置することになったアル。」
「大丈夫なんでしょうか……。」
「それよりも、みんな外に出るアル。みんなもう始めているアルヨ。」
「始めている?」
アールさんに促されて外へ出ると、村の人も冒険者さんもなんだかみんなでワイワイしていた。
「何を……?」
「あー!チカちゃんお話、終わったー?早く行かないと無くなっちゃうかもよー?」
さっきまでめっちゃお兄さんだったマディラさんは、いつもの感じに戻っていた。ソワソワとして、みんなが集まっている場所に早く行きたそうだ。
何があるのだろうか?マディラさんに手を取られて、引っ張られる。途中でマディラさんがクレスさんにどつかれていた。何故だろう?
「おぉー、きなずったぁよぉ!」
「こっちだぁ。」
「もう出来るだよぉ。」
着けば、良い匂いが鼻をかすめた。
アールさんの家から、ずっとこの匂いがしていたのだろうか。私は匂いを感じる余裕も無かったのかな。マディラさんは匂いの元を辿るようにフラフラと中心部へと向かって行ってしまった。
「ほれぇ、くいねぇ。うんまいべよぉ。」
目の前に差し出された小さいお肉。表面がこんがりと焼けて、湯気が立ち上っている。見た目はサイコロステーキのようだ。ずいずいと押されて、一つ摘ませてもらった。
「あむ。……美味しい。」
表面はカリッとして、中は瑞々しいもっちりとした食感。口の中ですぐに解ける口溶け……。油はしつこくないのに、飲み込んだ後のこの食べた感……なにこれ!
「あんだがぁ、いいもんつぐっでぐれたでなぁ。ぎょうさんとれただでぇ。」
「いいもん作った?」
「あぁ。あれだぁ。」
村の人が指差したのは、罠の板。今はもう役目を終えて、横たえられている。
「でも、あれのせいで……。」
「あれのおかげでなぁ、ことしゃぁ大漁じゃってなぁ!」
「おーぅ。ほんとだでぇー。」
そしてもう一度お肉を目の前にズイズイされた。
あ、このお肉……あぁ、そういうことかぁ。
「羽付きモモ……。」
「んだぁ。」
とうとう、モモンガのお肉を食してしまった……。モモンガって言っても魔物だけど……。とっても美味しいのが、なんだか不服。食べた事はないけれど、A5ランクとか言われるお肉ってこんな感じだったのかなぁ。
私にお肉を勧めてくれていた村人さんの隣にもう一人、お爺さんが来た。
「わしたつぁ、感謝してんだぁ。おんまえさんが気に病むことなんか何ひとつねぇ。こぉんなにかんだんに羽づきモモたづを狩れたんはぁ、あの罠のおかげだぁ。」
そう言って、ワハハと笑いながら離れていった。
「誰も気にしていないな。」
「クレス……。」
「肉、貰っておいたぞ。食べるだろう?」
「……はい。ありがとうございます。」
お祭り騒ぎの中心地から少し離れた場所で、クレスさんと二人でお肉を食べる。
だいぶ気持ちも落ち着いてきた。お肉が美味しすぎて、これを心あらずな状態で食べるのは勿体無い!というのもある。うん。
「村の人が言っていたがな、コッメの罠を作れたことで危険は減るだろう、と。不安な顔などどこにも無い。そこまで自分を責める必要はないと思うぞ。」
「……はい。」
「実際に被害は出なかったんだ。今度はもっと早くから罠を張って、迎撃すると豪語していた。」
「それなら、大丈夫ですかね?」
「ああ。それに……。」
「それに?」
「もし、心配なら、また来年来ればいい。行く時は俺も付き合おう。」
「……はい!ありがとうございます!」
わからない未来を心配したって、どうにもならないものね。心配なら、また来ればいいんだ。そうだね、うん!
「やっと笑ったな。」
「……えへへ。」
クレスさんが穏やかな笑顔で頭を撫でてくれる。大きくて温かい手が、頭を撫でるたびに、胸が温かくなる気がする。
その後は、眠って起きなかったお母さん達が起きてきたって話や、羽付きモモのお肉は何の料理にしたら美味しいだろうかって話をして、お祭り騒ぎを楽しんだ。
朝になったばかりだというのに村の人はお酒を飲み始めたみたいで、冒険者さん達にもほろ酔いの人が出ていた。今日の仕事は全部お休みになるんだろうな。
アールさんのところは、大人たちで輪を作って、羽付きモモのお肉を街に卸す話で盛り上がっていた。
「今まで以上に羽付きモモの肉を大量に手に入れられるアル!これは大きな商売の匂いアル!絶対に逃さないアルーーーーー!」
「罠様様だべなぁーー!」
捕まえておけるから、落ち着いて一匹ずつ処理が出来るため、今までより質の良いお肉を手に入れられる!と大変感謝された。
……陽気な人たちだなぁ。
真昼間なのにキャンプファイヤーを始めた村の人。冒険者さん達もノリノリだ。楽器が得意な人たちが寄って音楽を奏で始め、火を囲んでみんな踊り始める。
離れた場所から子供達が手を振って駆けてくる。
「チカーーー!おどろーーー!」
「人気者だな、チカ。」
「あはは。でも私、踊りはほとんどした事なくって。」
「じゃぁ……。」
視界に大きな手のひらが入ってきた。
手の主の方を見ると、ちょっと照れたような困り眉。目尻は下がり気味で、ほんの少し……ほんの少しだけ頬が赤い気がする。
「俺と一曲踊ってみないか?手ほどきくらいは出来るぞ。」
「……はい!お願いします!」
「ちぇー!冒険者のにーちゃんに先をこされちったー。次はおいらと踊ってよーーー!」
子供達にブーブー言われながら、クレスさんとキャンプファイヤーの中心に向かった。
クレスさんと比べ物にならないくらい私の顔は赤いだろうな。火のせいに……出来るかなー。
シリアスはこれにて終了!シリアスだったのかどうか……わからないですが……。
この後の二章は、まったりのんびりが続く予定です。




