46 猫除けのぶら下げるやつを思い出しました。光を当てると目の部分のビー玉がキラーン!って光るんですよ。
続!シリアス!……だと思います。
誤字報告ありがとうございます!助かります!
風は未だ強く、時折草木が風に煽られて鳴いている。ザワザワと聞こえるたびに、羽付きモモの群れなのではないかと、勝手に体が緊張してしまう。
ひたすらコッメノリを作りながら、早く夜が明けてくれないかな……と空を見上げる。
山の遠くが、薄らと明るくなっているようにも見える。もう少し……。
期待した直後に、クレスさん達がいるはずの前線予定地が騒がしくなった。男達の叫ぶ声が、こちらにも小さく聞こえる。
来たぞーー!
罠!用意しろ!
そっか。来たんだ……。あと少しで明るくなるのに……タイミングの悪いヤツらめー!
コッメノリを作っているのは後方。避難している子供達より少し前線寄り、というくらいの場所で、安全に作れるように配置されている。子供達は一番後ろで、数人のお母さん達と一緒に静かにしている。
作ったノリは、ここからどんどん消費されるはず。私は、アールさんと一緒に、出来ているコッメノリを抱えて、前線に届ける役を担う。
「アールさん、行きますよー!」
「わかったアル!先陣は任せたアル!」
「えええぇ……。」
こんな時でもユーモアを忘れないアールさんに苦笑する。……え?本気?……まじっすか。
前線まで、と言っても、そんな危険は無いし良いんだけど……。
ノリを持って前線に着くと、すぐに罠用意の人員に渡して下がる。あ、コランさんはコッメノリを板に塗る係なんだね……。いつもと変わらぬ貼り付けた笑顔で手を振られた。振り返すべきか迷って、軽くお辞儀するに留めた。
コッメノリ製造場に戻ろうと足を進めて少し、轟音が聞こえた。
グギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
「ひえぇ!」
「来たアル……。羽付きモモキングネ。」
轟音は鳴き声だったのか……。そっとふり返ると、クレスさんが火の魔法で辺りを照らしたようで、ハッキリと見ることができた。遠くにいるのに大きく見える、不思議な生物を。
人の二倍の高さまであるモモンガ。背中にはトンボの翅の様な羽が付き、ギョロリとした目が忙しなくあちこちを見ている。
歯をむき出しにして、食いつくぞー!という意気込みが聞こえてきそうだ。鼻息も荒いのか、顔周辺に水蒸気が立ち昇っている。
キョロキョロとしていた顔を一点に定め、目をすぼめる羽付きモモキング。その視線の先には……。
「コッメノリ……?」
視線を追って、今持ってきたコッメノリの器を見るのと、羽付きモモキングがもう一度吠えたのは同時だった。
羽付きモモキングの周りが、ざわつく。砂が舞い上がっているように見えるのは、全部羽付きモモなのか……。
火の光に照らされて、小さな羽付きモモ達の目が一瞬きらりと光ったように見えた。
「今!!あげろーーーーーーー!」
飛ぶ羽付きモモ達の異様な光景に固まってしまった体は、クレスさんの大声でビクリと跳ねて、動けるようになった。
クレスさんの前にいた男達が、足元の木の棒に足を引っ掛け、体重をかけて押す。すると、テコの原理で板が持ち上がる。
私が考えた罠だ。ちゃんと持ち上がって良かった……。罠の板が持ち上がることで、羽付きモモ達が見えなくなる。けれど、音はハッキリと聞こえてきた。
大粒の雨が車の天板に落ちるような、鈍い音の連続。その音が弱まった一瞬で、発動させた罠を横に下げて、次の罠を立てる。
若干の捕まえ漏れは仕方ない、という話になっていた。罠の交換の合間に畑に行かれるだろうとは思っていたから。
……そう思っていたのに。
「なんじゃこりゃ……。」
私よりも前で見ていた男の人の誰かが呟いていた。
私も言いたい。
何これ……。
羽付きモモ達は、みんな板に塗ったコッメノリへと群がっている。自分からくっつきに行って、身動きが取れなくなっていた。
罠の交換のために出来た隙間に滑り込んできた羽付きモモ達も、ノリを塗って順番を待っていた罠用の板に自ら突っ込んでいく……。
そして、一生懸命自分の顔の周りのコッメノリを食べていた。
「畑には一匹も行かないぞ……?」
「みんなこの罠に群がってきやがる……。」
みんなも動揺しているが、私もとっても動揺している。なんで自ら罠に突っ込んでいくんだ……。
罠に張り付いた羽付きモモ達は、顔の周りのコッメノリを食べたあと、身動きが取れずにキィキィ鳴いていた。そりゃそうだよね……。
「罠にかかってくれているなら好都合だ!そのまま仕留めていけ!次の罠をすぐに準備するんだ!……マディラ!マータ!ビータ!作戦通り、キングを頼む!」
「りょうかーい!」
「ええ。任せて!じっくりいたぶってあげる!」
「わかったわ!さぁて……手応えあるかしらー?」
クレスさんが指示で、マディラさん、マータさん、ビータさんが飛び出していった。
……三人とも顔がキラキラしていたように見えた。あれだね、絶対楽しんでいるよね。三人は戦闘狂いなのかもしれないね……。
クレスさんは、そのまま指揮を執るみたいで、前線であちこちに指示を出していた。
もう順番に罠の板を並べる必要も無くなって、とりあえず完成している罠は順次立てかけていっている。そこに羽付きモモ達は迷いなく突っ込んでいく。
少し下がった位置では、罠に嵌っている羽付きモモ達を仕留めて、解体を始めていた。その動きは、流れ作業のようにスムーズだった。
隣で、少し弾んだ声がした。
「大丈夫そうアルネ。ワタシ達も次のノリを持ってくるネ!」
「……そうですね!」
とにかく、田んぼが無事で、罠が順調なのだ。良いことじゃない!うん!
アールさんもこの調子なら今年の被害は最小限で済む、と喜んでいた。
コッメノリを運んで五回目くらい。周りを見ると、冒険者さんや、村の人の表情に余裕が出てきているように見えた。
もう少しで終わるのだろうか……?
ほとんどの羽付きモモは罠の板に張り付いていたので、コッメの田んぼは無傷と言ってもいいくらいだ。
「もうこの罠も、大丈夫そうなのだよ。」
「わかりました!では、後ろの女性陣に作成ストップをかけてきますね!」
ノリを塗る作業をしていたコランさんに言われ、私はノリの作成を止めるために女性達の元へと戻った。
「アールさん、さっき村の人が呼んでいたのだよ。」
「わかったアル!」
アールさんは私と分かれて呼んでいた村の人の元に向かった。
羽付きモモ達との戦いは順調だった。怪我人はなく、田んぼも守れた。
これは完璧なお仕事が出来たんじゃないかなー!
そうちょっと浮かれながら女性達がいる場所に走っていると、また風が吹いた。
背中を押されるような、強い風。
浮かれていた頭が少し落ち着く。走りながら、不思議に思った事を少し考えてみた。
羽付きモモ達は、コッメの葉よりも、ノリにしたコッメを目標にしていた。キングも、葉っぱには目もくれずに、コッメノリを探しているようだった。
そういえば、冒険者ギルドの本にもコッメが大好物って書いてあったっけ。葉っぱよりも、実の方が好きだったんだね。
うんうんと一人で納得している間に、女性達がノリを作っている場所に着いた。
また背中を押すような風が吹く。ごぅ、と音を立てて。
羽付きモモキングを初めて見た時から時間も経ち、日も登ってきていた。そのおかげで見えた。
子供達が避難している家の向こう、木が生茂る場所から。
日の光を浴びてキラキラと反射するいくつもの目が。
サブタイトルがやけに長くなってしまいました。
猫の形したぶら下げるやつです。目の部分がビー玉になってて……。
お婆ちゃん家では猫除けにしていたんですが、もしかしてあれって……カラス除け?




