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42 命を頂くという事。わかっているつもりでも、実際に目にすると……。

 アールさんに、ノートに書いてある木摺臼の仕組みを伝え、その他の精米方法、育成方法や炊き方の事もメモをしてもらう。

 アールさんが発見した食べ方であると村の人たちが信じてくれるように、アールさんにはコッメについて細かく理解してもらった方が良いからね。


 メモし終わったアールさんは、ちょっと放心状態っぽかった。頑張って覚えてね……。


 ちなみに、キャンペスノートは元の位置に戻してもらう事にした。他の本に挟んで隠し、もう一度村長の家の倉庫に……。もし今後、召喚されてしまった人がいたら、よしのちゃんのノートは役に立つと思うから。召喚されない事が一番なんだけれどね!



 帰り道。星が綺麗だなー、この世界にも星座とかあるのかな?と、空を見上げながら歩いていると、クレスさんが質問してきた。

 クレスさんの方を向くと、クレスさんの片方の腕が私の背中に回されているのに気付いた。ただし、決して触れないように。……きっと私がこけそうになったら支えるため、だよね。紳士だわ……。


 「チカ。あの本の中になんの手掛かりもなかったら、どうするつもりだったんだ?」

 「えっと……少し考えていたんですが、もし何も見つからなかったら、木摺臼の仕組みを開発出来るまでスライム君に精米してもらうつもりでした。一年間分くらいをいっぺんに。そして、来年また来て、一年分をスライム君に……スライム君?」


 ちょっと引き気味のクレスさんの顔と、腰に引っ付いたままブルブルと震えるスライム君。不吉そうな人形さんがスライム君の体に手を置いてポンポンしている。はて、何か変なことでも言ったかな?


 「村人全員の一年分のコッメって、どのくらいの量なんだ?」

 「多分ですが……アールさんの家いっぱいにコッメを詰め込んだとして、アールさんの家四、五軒分……でしょうか?最初は多めに精米して、量は確認しないといけませんね。」

 「そうか……。」

 「他の方法としては、エンジュ共和国までコッメを持ってきてもらって、精米したコッメをまた持っていってもらう方法ですね。とっても大変そうですけれど。」

 「そうだな。カルセドニー渓谷は大きな馬車は通れない。効率は良くなさそうだな。」


 せっかく友達になったスライム君を置いていくという選択肢は無いし、私がこの国に移住するという選択肢も今のところは無い。二号店を出すときはどうなるかわからないけれど……。そうすると、方法はこのくらいしか思い浮かばなかった。結局、籾摺り、精米の方法は分かったから安心だ。




 次の日、いつもより早くに目が覚めて、朝ごはんの支度でもしようかなーと着替えて外へ出ると、マディラさんがいた。


 「おや、チカちゃんー。おはよー。」

 「おはようございます、マディラさん。なんだか久しぶりな気がしますね。」

 「そうでしょう、そうでしょう?最近までずっと一緒にいたから、急に居なくなって寂しかったー?」

 「いえ、忘れてたくらいですので。」

 「相変わらず辛辣だなー。僕は悲しいよー。」


 おいおいと泣き真似するマディラさん。呆れた目で見ていたようで、こちらをチラッと覗いて、さらに悲しそうな顔をしていた。


 「僕が何していたか知りたいー?」

 「いえ、別に。」

 「冷たい!冷たいよ!さすがに少しは気にしてよー!」

 「はぁ……。では、何をしていらしたんですか?」

 「ふっふっふー。実はねー。」

 「そろそろ朝食を作らないと。」

 「まってーーー!お願い聞いてーーー!引き伸ばしてごめんなさいーーー!」


 マディラさんは村に着いて早々、魔物の偵察に行っていたのだそうだ。邪険に扱ってごめんね、マディラさん。


 魔物はまだ増殖する事に専念しているそうで、まだ数日中は動かないとの事。その間に対策を考えてねー!とお願いされた。まだみんなも起きていない朝早くから、みんなが寝てしまう夜遅くまで……。マディラさんは普段おちゃらけているけれども、実は仕事熱心だったんだなぁ。


 マディラさんがそんなに真剣に動いてくれているなんて知らなかった。ちょっと見直してしまったよ。私もしっかり対策を考えないと……。


 「それでねー、これお土産ー!」

 「ひぃ!!」


 暇な時に仕留めたと言って、目の前に袋を出された。……袋に入っているけれど、足が一本、羽がちょろっと見えてるよ!!何匹いるんだろう……見る勇気は出ないよ……?


 「群れから離れたところにいた奴だよー。キングにはバレていないから、安心してね。羽付きモモって食べられるんだってー。解体は村の人にお願いしてねー。じゃーねー。」


 そう言い終わると、マディラさんはさっさと村を出てしまった。あ、ごはんとか大丈夫かな?明日からはお弁当作って渡そう。もちろんおにぎりで。



 朝ごはんを冒険者のみんな分作り、片付けまで終える。


 羽付きモモのお肉は、冒険者の皆さんから大好評でした。

 村の人が綺麗に解体してくれたよ……。頂くものだし、手を合わせながら、なんとか最後まで作業を見た。でも、私にはまだ解体は出来なさそう……。最後まで見た結果、食べられなかったし……。次は食べるよ!うん。

 一匹一匹が小さいから、手間がかかるお肉だね。



 気持ちを切り替えて、手が空いたから羽付きモモの対策を考えないと!


 まずは、普段村の人たちがどうやって退治しているか聞いてみよう。


 「んー?そうだなぁ。いづもは、ごれでみんなしとめとっとよー。」

 「みんなでぇ、コッメに群がるやづらを一匹ずつなぁ?」

 「んだんだー。」


 ……みんなでチマチマ狩っていくのか……。見せてくれたのは小さなナイフ。みんなでナイフを持ってコッメに群がる羽付きモモを各個撃破していくらしい。


 いつもはそれで大丈夫なのだろうけれど……キングがいる場合、群れの大きさが変わるって書いてあったし、このままの作戦ではダメだろう。


 やっぱり網が良いだろうなぁ。でも、網って何で出来てるんだろう?日本のは絶対なんか特殊な素材だよね……。そんなの、この村で用意出来るわけないし……。植物で作っても、食べられちゃうだろうし……。鉄?金属?……そんな技術あるのかな?


 うんうん唸っていると、貼り付けたような笑みの人がひょっこり顔を覗かせて来た。


 「何を悩んでいるのかね?」

 「コランさん。羽付きモモの対策を考えていました。いつもは一匹ずつ、ナイフで仕留めるそうなのですが、今回はそれで間に合うのか分からないので……別の方法がないかな、と。」

 「ふむふむ……。そうだねぇ、羽付きモモ達の習性が、虫のように光に集まる、とかならまた違うのだろうけれどね。こう広い畑の草にあちこち行くとなると……ね。」

 「習性……。そうですね。」


 そういえば、羽付きモモの習性はコッメが大好きなだけじゃなくて、一度飛んだら方向転換出来ないっていうのもあったよね。


 とりあえず、飛んでくるのを一つの方向だけに絞る。それだけで少しは楽になるかも。でも、羽付きモモの飛び上がる高さにもよるだろうから、今夜マディラさんに会えたら、飛ぶ高さを教えてもらおう。最後に、羽付きモモ達がどの方向から来るのかが分かれば、少しは役に立つかも。


 前回は冒険者さんが足りなくて、今回は大工さんがいないんだよなぁ……。まぁ、何とかなるかな!

 スライム「もう少しで超ブラックな労働をさせられるところだった……。」

 身代わり人形「どんまい……。」

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