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誠実に丁寧に、真心込めて復讐代行。【レオンの怨返し】―LEON SEEKS VENGEANCE―  作者: 桜良 壽ノ丞
【大事件の村】

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大事件の村-03



「ごめんください。誘拐ならず者、躾けよくしろ」


『暴れる事の出来ない体にしてやってもよいぞ』


「それだと売れなくなるからまだ待って」


 扉を蹴破って室内に入ると、そこにいたのは男が2人、女が1人。どちらも驚いて固まったままだ。ただ、その視線はレオンはなく、レオンの足元に向けられている。


『主犯はどこに行った』


「人族の女のひと、村から無理矢理連れて来られたひとか」


「え、あ、え、ほいでがす……おめ誰だいが」


「村の人に頼まれて助けに来たんだ。始末屋レオンと、ジェイソン」


『貴様を救い出せば、この愚者共をどうしても良いと言われたのでな。金のために働かせるか、人買いに臓物を売りさばくか……』


「村て、おいの村でがすぺ?」


「うん。牛と羊は見つけたし、あなたを連れて帰れば仕事は完了だ」


 レオンは安心させるためにニッコリと微笑む。ジェイソンは微笑む事が出来ないが、助けに来たことは伝わったはずだ。


 しかし、女はレオンへ礼を言いながらもチラチラと足元に視線を向ける。


「何かあった?」


「あ、いや、おめがあがってんの、結婚詐欺師だべ」


「え?」


 倒した扉の上から移動し、扉をはぐると、そこにはうつ伏せに倒れた男がいた。小柄な黒髪の男、ザックだ。ザックはうめき声を上げており、死んではいない。


「こいつがザック? お前らはならず者の手下だな」


「い、いや……」


「嘘ついたらどうなるか、ちょっと考えた方がいいね」


「……はい」


 獣人族を見た事はなくとも存在とその恐ろしさは知っている。2人は素直に頷き、そのまま項垂れた。


「おまえら、聞き分けのいいならず者だから楽だけど、ちょっと暴れてくれたらジェイソンが喜んだのになあ」


「へ?」


「山の上の村で、お前らならず者の始末は好きにしていいっち言われとる。抗うならず者は容赦しなくていいし、ジェイソンは生き物の内臓まで綺麗に食べる」


『牛や豚よりは不味いが、食えぬ程ではないのでな』


 誘拐犯の顔色が真っ白になり、次第に青ざめていく。


「お前らは労働力になりそうだ。次の大陸に連れて行って、紹介屋に売るね」


「ちょ、ちょっと待って……待ってけらいん! もうしねえ、こっだら事は二度としねえ!」


「一度もした事ない人族と、同じ処遇を受けられるわけないやん。お前らは罰を受けないけん。たかが二度とせんくらい、償いでもなんでもない。当たり前の事」


『心配せずとも良い、一生扱き使われるとは言っておらぬ。貴様らに付いた値の5倍も稼げば解放される』


 誘拐犯2人は膝から崩れ落ち、放心状態で床を見つめる。そのうちザックも気が付いたのか、身じろぎを始めた。


 扉の下から這い出た彼が最初に視界に入れたのは、ジェイソン。その後ろには憔悴しきった2人の仲間。


 状況が分からないのか、ザックはゆっくりと室内を見回した。


「起きたか、結婚詐欺ならず者。この人族の女の人を攫って、家畜も盗んで途中まで連れて来とったな」


「おま……え? おめ、耳……え?」


 声の主へと顔を向けると、そこにいたのは狐耳の男、レオン。ザックも狐人族を見た事がないのか、目を真ん丸に見開いている。


「始末屋レオンと、魔族ジェイソンだ。山の上の村から依頼を受け、お前らを始末しに来た」


「し、始末!? ちょ、どういう事……」


『どういう事かは貴様が良く分かっておるだろう』


「ひっ、猫が、しゃべって」


『吾輩を猫呼ばわりとは、いい度胸だ。肝の味はさぞ絶品だろう』


「ひっ……」


「獣人族は正しい者を救う。ならず者は許さない。知ってるよね」


 レオンが宝物の山形鋼で床をドンっと突くと、硬直していたザックの力が抜けた。それと同時に床が濡れ、ザックの股間に染みが広がっていく。


「しっこ、しかぶる前に便所行きたかったら言え」


『粗相とは随分と躾けの悪い奴だ。これでは肝など備わってないかもしれぬな』


 村で悪さを重ね、金の為に女を誘拐、結婚詐欺で得た祝儀で逃避行。そんな大胆な事を企てていた割には肝が小さい。

 ザックは失禁を恥ずかしいと感じる余裕もなく、その場に座り込んだまま動かない。


「おい女のひと。名前聞いてなかった。こいつらをどうする? どうしたい? 被害に遭った正しい者は、報復の権利がある」


「エレナでござりす。ハァ、このおだづやろっこ、ごしゃがれてむぐしてやんの。やぐでもねえ、ふたつけてもししゃねな、好きにしてけれ」


 独特の臭いが立ち込め、レオンは鼻を詰まんで外へ出る。ズボンと下着を脱げと命令した後、首根っこを掴んで引きずり、近くの川まで歩いていった。


 町の者達の手に負えなかった札付きの悪人が、下半身を丸出しにしたまま引きずられていく。騒がしさで何事かと遠巻きに見ていた村人は少なくない。


「わっはっは! 情けねえ」


「ががさま、なしてあのおっきいあんちゃんパンツ穿いでねえの?」


「ありゃ、お漏らしして分がらねえの」


 こんな醜態を晒してしまい、ザックはレオンに売り飛ばされなくともこの村で生きていく事は出来ないだろう。


 金を手に入れる事は出来なかったが、皮肉にも他所の土地で暮らすという夢は叶ったようだ。


 村の皆に見られている中、冷たい川の中でズボンと下着を洗わされる屈辱。エレナはそれを見て、もうお仕置きはこれくらいでいいとレオンに伝えた。


「じゃあ、おれはこいつらを貰っていくね。生意気な奴に八つ当たりするのが好きな金持ちもおるし、売りようはある」


 ヤンアの町が迷惑を掛けたという事で、エレナを送り届けるのはヤンアの町民が引き受けてくれた。馬も出してくれるという。

 レオンはエレナにお見舞い金として幾らかの金を渡した後、戦利品達を縄で縛った。


「レオンさん、まんずどうもね」


「うん、元気でね、ばいばい」


『吾輩を1匹付けてやろう。貴様を送り届けるまでが任務だ。もし何かあれば、吾輩がそいつを弄り殺してくれよう』


 ジェイソンが傍にいて悪さする者はいない。エレナはようやく柔らかな雰囲気を纏った笑みで「まんずどうもね」と伝えた。


 一方、柔らかな雰囲気どころか騒々しくなったのはザック達だ。


「か、勘弁してくれ! 金が必要だったんだ!」


「金が必要だったら人を攫っていい決まりがあるのか」


「ねえけど! この町は女が極端さ少ねあんだ。んだがら他所の女を連れでぎで結婚するとなれば、町のみんなが祝ってける!」


「女の間で流行り病があって、女がたぐさん死んですまった! この町にいても結婚はでぎねえんだっちゃ!」


「だども、町を出るには船代さ稼がねくてはならね。そっただ大金、まともに入らねえ」


「ならず者が結婚できないのは良い事だろ。ならず者の子育てには不安がある。それよりお前、まさか女に好かれるつもりでいるのか?」


「えっ……」


 レオンの問いかけに、ザック達の言い訳がピタリと止んだ。


「金があるだけの奴に群がるのは、金だけに興味がある奴だ」


『船代も稼げない甲斐性なしが、女がいる町に出たくらいで当たり前に求愛される程甘くはない。ましてや住む町を追われるように逃げ出た悪党だぞ』


「お前ら、好まれる奴なのか? 性格悪いくせに、1つくらい顔でも頭でも何か良いとこあるのか?」


『少々金がなくとも、とびきり誠実か、とびきり顔が良く性格が普通であれば女は認める。どれもないからこんな真似をしたのであろう』


「じゃあどこに行っても駄目だね。ご主人が昔、性格は見せないだけで隠せる。顔の化粧より隠しやすいのに、隠さないのはどうしようもなく性格がブスなんだよって言ってた」


 ザック達の心は粉々に砕け散っていた。レオンは山形鋼だけでなく、言葉で殴るのも容赦がない。


「お前ら畜生は畜生らしく、扱き使われて働け。港町に付いたら船に乗れるぞ、その船賃は出してやる。お前らの値段に上乗せするけど」


 エレナは無事、村の家畜も無事で、見舞金も手に入った。ヤンアの町も、悪党が一気に3人も減ってくれて万々歳だ。


「おれ、いいことした」


『いつも正しい事をしておる、吾輩が言うのだから間違いない』


 馬車に揺られ、ご機嫌のレオンと、この世の終わりのような顔をしたザック達。


 誘拐事件は解決となったが、エレナが村に持ち帰った見舞金の多さに村人達が大騒ぎとなる件は、また別の事件として村の歴史に刻まれる事だろう。

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