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誠実に丁寧に、真心込めて復讐代行。【レオンの怨返し】―LEON SEEKS VENGEANCE―  作者: 桜良 壽ノ丞
【大事件の村】

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大事件の村-02



 いくら道が曲がりくねっていても、勾配がきつくても、麓の町までは徒歩で1日半あれば着く。しかし牛や羊が一緒だとそうはいかない。


 草食動物は1日の大半を食べる事に費やし、慣れない者が誘導したところで、気分が乗らなければ動いてはくれないからだ。


 村が荒らされ、家畜や女が攫われてから3日。しかし牛のフンが乾ききっていない所を見ると、まだそう遠くへは行っていない。犯人達は思った以上に苦戦しているようだ。


「土の舗装もちゃんとしとるし、この道をずっと走って下ろう」


 レオンとジェイソンは坂道を駆け下りていく。1時間走ったところで犯人までもうすぐかと思いきや、なんと牛が2頭、その先で羊が3頭道を塞いでいた。


 道端の草を食べながら、特に周囲を警戒している様子もない。犯人達は家畜を連れながらの移動は無理だと判断し、その場に置き去りにしたと思われる。


「耳に印が付けられとる」


『野良の畜生ではないようだな』


「村の牛で間違いないね」


 レオンは鞄から写真機を取り出し、牛と羊を写した。写真機から2枚の写真が出て来て、数分後にはくっきりとしてきた。


「ジェイソン、村の者にこれ持って行ってくれる?」


『分かった。吾輩の分身を行かせよう』


 体に写真を巻き付けたジェイソンが、2匹村へと戻っていく。レオンはジェイソンの本体と共に走り出し、立ち止まる事なく麓の町まで辿り着いてしまった。


 数時間、それも坂道を下り続けたなら、人族は足が動かなくなってもおかしくない。そんな道を人族の全速力よりも速く駆け下りたレオンは、「あー疲れた」と言いながらぴょんぴょんと跳ねる。


 夕方になり、草原が茜色から濃紺へと変わっていく。


「草原の町ヤンア……だって」


『住民がおるぞ』


「聞いてみよう」


 坂から見下ろした時点では、こじんまりとした町に見えた。小川沿いに石畳の道が敷かれ、家々は石やコンクリート造りで街並みも綺麗だ。


 レオンは道沿いのベンチで小鳥に餌をやっている老人に声を掛けた。


「あの、ごめんください」


「ん? こりゃあ驚いだ。狐人族は初めでだや」


「山の上の村から、女の人が連れて来られませんでしたか」


「いや、見がげでね」


 山の上よりは聞き取りやすく、ジェイソンの通訳も不要だ。

 レオンは何人かに聞きまわったものの、人目に付かない間に町を通り過ぎたか、どこかに潜んでいるようだ。


 ジェイソンの能力をもってしても、目撃者がいなければ探りようがない。


「どうしよ。人族はこの町を通過して休息を取れるほど体力ないと思うんだよね」


『食べ物くらいは調達するであろうな。小綺麗にしていなければ、汚れと臭いで注目を浴びる。この町で休むのは妥当だ』


 犯人が村を出て丸3日。レオンは近道をし、走り続けて70キロメルテを進んだ。仮に犯人が順調に歩いていたとしても、2日は掛かる距離だ。

 下りは勢いがついて楽に進めそうに思っても、足への負担が大きい。


 それに、馬車は下り坂には弱い。馬に対し、荷物の重みがのしかかってしまうからだ。止まりたくても止まれず、馬が疲れたなら荷車に押しつぶされてしまう。

 鶏と女を乗せた状態で、人が支えながらつづら折りの急勾配を2日で下りるのは不可能に思える。


「もしかしたら、途中で落ちたかも」


『落ちても下の道に転がっておるだろう』


「あ、そっか。牛や羊がいたから、追い抜いてはいないと思うんだよね」


『ならば見かけた者を探すか、先へ進むしかないだろう。……まて、我が分身が村に写真を届けたぞ』


 ジェイソンの写真を受け取った村人は、写真とレオンが記したメモを見てすぐに支度を始めた。やはり村の牛で間違いなかった。


「ジェイソンが聞き出してくれたから、この町の男なのは間違いないし、他の犯人もこの町のならず者で間違いない」


『ああ。問題は犯人らがこの町を通り過ぎ、北の港町から他所の大陸に出ようと考えていないか』


「村の牢に行って、男から聞き出せない?」


『話して来てやろう』


 ジェイソンの分身が村で捕えられた男の許へと向かい、拷問……質問を投げかける。しかし、男は別れた後の行動までは把握していなかった。


 金を握らされ、見張りをさせられていただけ。村で何をしていたのか、犯行の全容を知っているだけだった。


『主犯の男はザックと言っておったはずだ。ザックという名の黒髪に日焼けした小柄な人族を探し出せ』


「分かった」


 レオンは深呼吸をし、最後に大きく息を吸い込む。そして自慢の肺活量で大声を張り上げた。


「ごめんくださあああああい! ザックというならず者を知りませんか!」


 夕飯時の村の家壁がレオンの声量を増幅させる。どこまで響いたのか、少なくとも見える範囲、曲がった道の先まで、全ての家々から住人が顔を出す。


「ザックって、あのたがらものか」


「あんな馬鹿、知らねえぁ奴いねでや」


 住民が一斉にレオンから見て左を指さす。その方角に住んでいるらしい。


「今日は見かけましたか?」


「さあ、いづも何してるのが分がらね」


 レオンは行儀よく頭を下げ、先ほどと同じ声量で「大きな声で大変失礼しました」と言って町の西へ向かった。





 * * * * * * * * *





 レオンが歩き始めて10分。どこがザックの家かは聞いていないが、時々人に尋ねているうち、とうとう西の端まで来てしまった。


 そこには粗末な小屋が立っていて、窓からは明かりが漏れている。

 庭先には小さな柵の囲いがあり、鶏が5羽うろうろしていた。


「この先の小屋……って、これだよね」


『そのようだ、間違いない』


「うん、さて、どうしたものか」


 レオンもジェイソンも、小屋の中に犯人がいるのは確信していた。攫われた女も一緒だ。なぜ分かるのか。


 それは小屋の中の会話がダダ漏れだったからだ。


「はだるな!」


「頼む、悪いようにはしねからよ」


「おんめらあんこたんねえんだな? そいなごとして何なるべ! まだそったないんぴんばりかだってんのすかや」


「お、落ち着いでけろ、ちょいとフリして金さ貰えばいいんだっちゃ」


「だがらってよ、このおだづやろっこと見合いすんのけ? すかねごだや。あーあ」


「……なんでこんな気の強え女さ連れてきちまっただか」


「おめぇがあの家に決めたんだべ? おいはその先の家が……」


「しずねぇってばさ! すぐ人さかつけでいげすかねごど」


 女だけ訛りがきつく、その他の者はこの町でよく聞く程度だ。女だけが余所者であり、ザックと一緒。この状況なら村から連れてきた女に間違いない。


「ジェイソン、会話の内容分かる? おれ、ならず者が喋っとるのしか分からん」


『会話から察するに、結婚すると言って金を巻き上げ、そして祝いを貰ったらその金の半分をやるから、島を出て好きに生きたらいい、と言っておるな』


「結婚詐欺か。女は?」


『そんな事は望んでおらぬ、協力はせぬから早く解放しろと言っておる』


 レオンは事件の真相が分かり、脱力していた。不謹慎だが女が虐げられていたなら、殴り込んで縛り上げ、堂々と「人材」として手に入れる事が出来る。


 しかし、どうやら女は気が強く、男達の方が負けそうになっている。頼み込んでいるのは、暴行や脅しで従わせても絶対に協力しないと分かっているからだ。


「別の奴ど交換すっぺにも、顔は知られでるしなあ」


「アイツが計画喋ったがもしれねしよ」


「仕方ねえべ、帰らすわげにはいかね。始末すで、別の計画を……」


 途端に小屋の空気が変わった。女が協力しないため、口封じの為に殺そうというのだ。


「始末? まさか、お、おいの事ふだつけて……殺すつもりじゃねえべな?」


「計画を知られた以上、協力もしねえっつんなら生かしておげねえべさ」


 急に小屋の中でドタバタと音がし始めた。


「だえがぁぁ!」


 女の叫び声が聞こえ、状況は一変した。レオンはすぐさま小屋の扉を蹴破り、中へと押し入った。


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