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誠実に丁寧に、真心込めて復讐代行。【レオンの怨返し】―LEON SEEKS VENGEANCE―  作者: 桜良 壽ノ丞
【慈悲の町】

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慈悲の町-07



 告げられた真実に、誰もが首を傾げる。今の今まで、レオンは町長を批判する側にいた。役人が嘘をついた事を酷いと責め、刑の準備まで始まっている。


 それが一転、役人も町長も悪くないと言い出したのだから、混乱を招くのは当然だ。


「債務もそうだけど、俺達の寄付を売りさばいていたんだろう? それは君もツーピスの奴と一緒に証言していた!」


「うん、本当のことだよ。でも売ったらいけんっち、誰が決めたと?」


 突然の投げかけに、その場の皆が動揺する。


 無償で渡すとは誰も言っていない。町が寄付を募ったのではなく、困っている人のためにと勝手に役所に渡した物資や資金が大半を占めるのだ。


 マナーや常識は不文律。そういうものだと言ったところで、町長の「マナーが悪い」事を責めて罰する事が出来るかと言うと、誰もが口ごもってしまう。


 屁理屈だ! と言っても、じゃあ何が悪いのかは説明できない。


「みんな親切で慈悲深い者。慈悲浅い者はおらん。でも、外の町には慈悲浅い奴も慈悲無しならず者もおる」


 レオンは群衆の中にいるヤプへ隣に来るよう呼びかけ、無事に下りてきた町長とも一緒に並んだ。


「町長、ちゃんと言わんけこんな事になる」


 レオンにピシャリと言われ、町長はすっかりしょげていた。しかしそんな町長の様子にも、町の者は容赦がない。

 オレイの民は、悪人だと判断した相手にはとても当たりがきつい。


「町長! どういう事!」


「他の町に金を貸していた事も知らなかったんだが、どうなっているんだ!」


「返して貰っていないって話は本当なの!?」


「私達がみんなで幸せになろうと支援していたのに、いいように利用されていたっていう話は!?」


 町長はそれぞれの疑問に丁寧に答えていった。その点についてはさすがにオレイの精神が垣間見えた。

 そんな事まで言わなくてもと言いたくなるような細かな事務処理、当時の様子、どこのどの案件で返済がなされていないか。

 全てを話し終わると、町民はようやく納得した。


「この町の税金が上がったのは、そんな理由だったのか」


「勿論見返りをくれという話ではないわ。でも感謝は人として当然するべきよ。感謝出来ないなんて人じゃないわ」


「俺達は極悪人共に、せっせと物や金を与えていたのか」


 愕然としていた町民達は、すぐに町長や役人達に謝罪し、ここぞとばかりに身の回り品や破れた服の代金などを押し付ける。


 レオンは6年間の始末屋稼業で学んだ事を思い返していた。


 可哀想だから、泣いているから、暴力を振るわれているから、だから助ける。当初はそのような短絡的な仕事っぷりだった。


 ジェイソンがいたおかげで相手の真意に気付くことができ、罪なき者をコテンパンにする事はなかったが、どっちが悪いのか認識を誤っていた事もあった。


 中には悪い事をしている自覚がない者もいた。


『悪意なき悪人は始末が悪い』


 自分は可哀想だ、酷い事をされた! と主張していたが、実際には他人のものを勝手に使う、嫌がる事をするなど、迷惑極まりない事をしていた者も多かった。


 自分は正直だからと言っても、その正直な気持ちが正しいとは限らない。

 非情な事を言い放ち、争いの種をまき散らす手のつけようがない者もいた。


 施しを強請る乞食など、まだかわいい方だ。


「可哀想は正義じゃない」


「えっ?」


 レオンの呟きを手持ちのスピーカーが拾ってしまう。それに反応した町民達が、どういう事なのかと知りたがる。


「悪い事をしたせいで嫌われたり罰を受けている様子を見て、可哀想とは言わないよね」


『可哀想なフリをして相手の優しさに漬け込む愚か者もいる』


 レオンの話は、オレイの者達にとって衝撃だった。


 オレイには……少なくともオレイの住民には悪人がいない。どのような悪人が存在するのか具体例も分からなければ、本当の悪人に会った事さえない者が殆どなのだ。


 そして、清く正しく親切な者ばかりが集まっている弊害は他にもあった。それはヤプが話していた「正しい事を何よりも好む」事、「絶対に許さない」事にも現れている。


「自分達が怠け、楽して何でも手に入れるために、他人の親切を利用するなんて!」


「そんな極悪な奴らが存在してはいけない! そんな奴らが存在していれば、いずれ我々以外にも優しい誰かが被害者になるんだ」


「そうね! 私達はこの世界の平和を願ってきた! 極悪人共を全員排除すれば、この世界の悪はなくなるのよ!」


 皆の正義感が一気に盛り上がる。その様子は始末屋であるレオンさえもたじろぐ程だった。


『こやつら、何をしようと……ほう、これは面白い』


「誰か何かやってんの? 面白いって、笑えるやつ?」


『興味深いという意味だ。こやつら、今からネイシアや近隣の返済を拒否している集落へ復讐に行くつもりのようだ』


「ああ、僕が一番恐れていた事が」


 横に立っていたヤプがため息をつく。町長や役人達は、正しい事をしようと盛り上がる者達に感動して泣いている始末。


「何? おれ怖いものないよ。おばけは見た事ないし」


「いや、違うんだ。僕達ツーピスなどの発展した町が、オレイのやり方を一斉非難出来なかった理由がこれだよ」


「これ? 復讐のことか」


「復讐という言葉じゃ弱過ぎるかもね。悪は絶対に許さない、あってはならない。だから全て消去するのがオレイの罰し方だ」


 オレイに存在する刑罰は1つしかない。死刑だ。


 慈悲深いおかげで過失には寛容だが、故意の悪事はまず許されない。

 どんな小さな悪事であっても、どんな大きな悪事であっても、全て財産を没収したうえでの死刑と決まっている。


 売り飛ばす、慰謝料を無理にでも払わせる、という選択肢を持ち合わせているレオンなど、彼らに比べたなら甘すぎるくらいだ。


「だからツーピスは対立を避けるため、物や金を与えるのではなく、彼らの自立を促す方向で支援をしたんだ。でも物や金を受け取る方が分かりやすく、即効性があるから」


「確実でも遠回りな技術支援は響かなかったんだね。あれ? でも債務の罠って言ってたよね。悪い事をしてるって、思ってたんだよね?」


「ああ。オレイが親切心だけで動いているという確証はなかった。やっている事は傍から見れば支援に依存させた上で、借金漬けにして港を奪い取る行為だし」


「好敵手だと思っていたから、そう思うのも無理はないかも」


「返済出来なくなればオレイがどう出るか……港を渡さないだけで済むのか。それをみんな心配していたんだ。オレイが純粋に支援していたと知って、僕はそこまで慈悲を貫くのかと正直驚いているよ」


 ツーピスの刑罰が1つしかなく、悪事を一切許さないという事は広く知られていた。

 そして、その刑罰が未だかつて、1度たりとも執行されていない事も広く知られていた。悪人がいないからだ。


 大きな町は、各地の歴史などを学んでいる。しかし貧しく小規模な町や村は、昨今のオレイしか知らない。

 大雑把に「親切で金持ちな町」として認識し、その過分なおせっかいに味を占めてしまった。


 悪い事をすれば死刑一択である事も知らずに。


 ヤプのようにオレイを甘く見るなと忠告する者はいた。

 しかしこんなにも至れり尽くせりで金利も安い町で、今まで死刑になった者がいないとなれば、ナメてかかる町村も現れる。


『吾輩は魔族よりも厳しい存在を初めて見たぞ』


「おれも。おれ、やっぱりこの町大好きだ」


『ああ、慈悲など無用! 素晴らしい町だ』


「やっぱり、ジェイソンさんもレオンさんも、このオレイを気に入ると思いましたよ」


 ヤプがため息をつく。


 オレイの支援の手が入る前に、自力で発展できる環境を作れたら。そう一生懸命になって各地を回っていたが、とうとうオレイは気づいてしまった。


 そして、気付くきっかけを作ってしまったのはヤプとレオン達だ。


「……僕が招いたと考えると、とても責任が取れない」


 そう嘆くヤプに、勇み足のオレイ町民が駆け寄る。


「あなたのおかげです! 是非お礼をさせて下さい!」


「あなたもレオンさんも、私達を悪から解放してくれた! これこそ正義! 世界に慈悲を! 世界平和のために! さあ一緒に死刑執行へ向かいましょう!」


「……えっと、無慈悲って慈悲がないんだよね。慈悲がマイナスの人って、何て言えばいいの?」

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