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誠実に丁寧に、真心込めて復讐代行。【レオンの怨返し】―LEON SEEKS VENGEANCE―  作者: 桜良 壽ノ丞
【慈悲の町】

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慈悲の町-05



 町の人々はとても驚き、酷く怒ってもいた。レオンは何度も本当の事かと尋ねられ、その度にヤプが各町村の現状を伝えた。


 自分達の慈善活動の支援先が数か月から1年で別の町に移る事、支援した結果、発展したという話も聞かない事。

 それらに今更ながら気付いたと同時に、ヤプの話と辻褄も合う。


 疑う人がいない訳ではない。しかし丁寧に説明するうち、概ね受け入れられた。人々の中には慈善団体の代表もおり、騙されたと言って歯ぎしりの音がしそうな程顔を歪めている。


「本当だな、ツーピスの嘘じゃないんだな」


『人族ごときに狐人族と魔族を騙せる程の知恵があると思うか。あまり我らを見くびってくれるなよ』


「そ、そりゃあそうだ、獣人族は悪い奴の事を絶対に庇ったりしないよな」


 少々ヤプに失礼な発言だが、もしもこれがヤプだけだったなら、信じてもらえなかったかもしれない。ヤプはレオンに頭を下げ、これで各地がオレイの債務の罠から解放されると言って喜ぶ。


「有志で食料や衣料品を持って行こうと計画したり、医者の無料回診を申し出た事もあるんだ。でも、それは役人の仕事だからと言われるから全て任せていた」


「言われてみれば、道路は綺麗になっていたけど、街並みはあまり変わっていなかったかも」


「食べ物をあげるだけでは駄目なんだな。作れるように、自分達で生きて行けるように支えないといけなかったのね」


「港の建設には俺も携わったんだ! この町のみんなでネイシアの為にと休みも返上で仕上げたんだよ。てっきりその金はオレイが出していると思っていたのに」


「まさか、貸付だったなんて……」


 オレイの人々は、今までツーピスなど他所の大陸の発展した町に対抗しようとしてきた。しかし、オレイの発展は、他の貧しい村々の犠牲で成り立っていた。


 他人に優しく親切である事こそが美徳であり、そうあらなければならない。その精神を利用されていたのだから、オレイの人々が怒るのは当然だった。


「みんなを利用した奴が悪い。正しい者は許される」


「ねえ、ネイシアは港が出来上がったのよね。他の村は?」


「南のゲルルは? ゴイクルは?」


「コロールの大規模農場は? うちの両親の苗を無償で分けたはずなの!」


 ヤプと共に話していくうち、正義感の強い町民達の顔つきが変わった。それぞれがその場を去っていき、残されたのは、レオンとヤプとジェイソンだけ。


「何? みんな帰っちゃったけど」


「……まずいかもしれない」


「何が?」


「この町の人達は、本当に優しんだ。いや、優しいというのは語弊があるね。礼儀正しくて慈悲深く、正しい事を何よりも好む」


 言葉の裏に隠れた真意を汲み取ることが出来ず、レオンもジェイソンも首を傾げる。レオンはこの町の者の事を優しく親切だと思っていたからだ。


「なぜ、オレイのお偉い役人は町民に黙っていたのか。それは、オレイのみんなが絶対に許さないからなんだよ」


「そりゃあ、許さないよね。だって支援とは名ばかりの略奪なんだし」


『支援と称して金を貸りる羽目になり、身の丈に合わず特に安くもない港を買わされた。慈悲深さとは真逆だからな』


「……これだから他の大都市はオレイに強く出れなかったんだ。まあレオンさんとジェイソンさんは、このオレイの方針をきっと気に入ると思うけどね」


 ヤプが説明してくれている間に、今度は町の者が続々と家から出てきた。何事かと不思議に思っていたものも、事情を尋ねると皆と共にどこかへ歩いていく。


「この町にとって、悪事はあってはならないんだ」


「何があるの? あってはならないって?」」


「彼らは役場に行くんだよ。あってはならないというのは、そのままの意味さ。存在してはいけないんだよ」


 レオン達もその群衆に紛れ、役場へと向かった。

 広さは他の町に比べ小さい方だが、僅か可住面積8k㎥の範囲に5万人もの人が住むのは、この世界で上位5本の指に入る程の大都会だ。


 その大都会の人々が仕事も家事も何もかも手を止め、役場のある地区に集まってくる。その人の多さに、レオンは少々吐き気を催していた。


「ツーピスはもっと広くて人口も倍程いるけれど、こんなに建物は密集していないんだ。狭い町だからこそ、たった1時間でここまで人が集まったんだね」


「はあ……」


『なんだこの人の多さは。人族はいくらか数を減らした方が良いのではないか』


「町長! 議員!」


「私たちは寄付をしたのよ! それを売りつけたお金はどうしたの!」


「俺達は今まで他の村を借金漬けにして暮らしていたという事か!」


 町の者の抗議の声は、コンクリート製の5階建ての立派な庁舎によく届いているはずだ。町には警察もあり、役場には警備員もいる。しかし彼らもまた、真実を知って役場を責める側についていた。


「出て来ないな」


「中へ行きましょう! 誰か、コッソリ逃げないように見張れないかしら!」


「あー、おれがしましょうか」


 人混みに酔っていたレオンは、すかさず手を上げて近くの塀の上に飛び乗り、役場の壁を伝う排水管をよじ登って屋上へ向かった。

 屋上の貯水タンクの上から見下ろし、怪しい動きの者を見張るのだ。


「しまった、おれ町長の顔も議員の顔も知らんかった」


『あの顔写真は違うのか』


 ジェイソンの視線の先には、「温かく優しさ溢れる街づくりを! 町長キンゼ・キンぺ」と書かれた顔写真付きポスターが掲げられている。


「自己主張がつよいならず者、見つけやすいから助かる」


『いつでもどこでも、馬鹿の自己主張ほど声が大きいものだ』


「じゃあ今抗議している人の声は? 煩いけど」


『身勝手で常識なしで思い込みの激しい悪人とは別の種類だな。長年騙されていて気づきもしないのだから、どうせ馬鹿に変わりはない』


「そっか……」


 レオンは密かに「ジェイソンが喋らないと思い込んでいた自分も馬鹿だったんだ」としょんぼりしたが、そうもしていられない。

 頼まれたからに立派な仕事だ。町長が裏口から、窓から、脱出しないかを見張ると申し出たのはレオンであり、任務の失敗は許されない。


 ジェイソンは30匹ほどに増え、屋上の縁から下を覗く。これで目視での監視で見逃す事はない。


「これで町長達がごめんなさいしたら、みんな許すのかな」


『仮にオレイの人族共が許そうと、オレイの罠にはめられた他の町や村の者は許さぬだろうな』


『許さなかったらいいなあ、この町に着いていっぱいお金使ったけん、そうしたらちょっとでも回収できる』


『吾輩はそろそろ肌を裂き、肉を掻き分け、臓物を引きずり出して噛み千切ってやりたいのだが』


「じゃあ後でお願いしてみよっか」


『なんと! 吾輩のために請うてくれるか! レオンもこの町の者と変わらぬくらい慈悲深い』


「まあね」


 町の者達の抗議は続く。そんな中、とうとう玄関から数名の男女が出てきた。役場の職員だ。


「な、何事ですか、落ち着いて下さい」


「お前ら役場の奴らも俺達を騙していたのか! 俺達が世のために送り出した寄付は何に使った!」


「見返りにとんでもない契約を取って、借金漬けにして港や道を作っていたって本当!?」


「お、落ち着いて下さい! 町長はここにはいません!」


「じゃあどこにいるっていうんだ!」


「狐人族の若者とツーピスの若者が教えてくれたんだぞ! あんた、狐人族の前でもう一度町長はいないとハッキリ言えるんだな? 嘘じゃないんだな?」


「わ、私は……」


 職員が口ごもる。その態度は町長はここにいますと言っているようなものだ。


「あんたも同罪だ! 狐人族には嘘をつかないけど、俺達にはつくって事だな!」


「権力の犬! 最低よ! 嘘をつくなんてあってはならないわ!」


「そうだ! あってはならない!」


 そう言うと、町者達が役人達へと駆け寄った。その腕をしっかり握り、ある者は抱え上げ、群衆の中へと引きずり込む。


「ごめんなさい! 許して! 許してぇぇぇ!」


「いる! 町長も議員も中にいる! 本当だ、嘘は……ああああやめてくれ!」

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