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誠実に丁寧に、真心込めて復讐代行。【レオンの怨返し】―LEON SEEKS VENGEANCE―  作者: 桜良 壽ノ丞
【常識ある村】

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常識ある村-09



 海賊との対決の日。朝もやが残る時間から、見張り台の鐘がけたたましく鳴り響いた。


 レオンは既に起きていて、宝物である山形鋼で素振りを500本、腕立て伏せを300回、腹筋とスクワットを200回ずつこなし、温泉に浸かる程の余裕っぷり。


 鐘が鳴った時は温泉に入っていたのだが、急いで出て着替え、今しがた港に着いたところだ。


「おはようございます」


「ああレオンさん、おは……どうしたそんな湯気を立てて。髪も濡れているが……まさか、こんな時に温泉に入っていたのか」


「はい!」


「なんと緊張感のない。それ、昨晩うちの若いもんが挑発しに行ったからな、追いかけてきておるわい」


 まだ海面に霧が漂う中、沖にいくつかの影が動いている。1隻は村の漁船、残りは海賊のものだろう。

 レオンは望遠鏡を借りて覗き見た。村の若者が乗った漁船は、ちょうど秘策を繰り出すところだった。


「……うわ、すごい速度で戻ってくる」


「船の強度を上げ、波の衝撃で船体がバラバラにならん程度に大きな動力を取り付けた。デカいだけで舐め腐った海賊の船なんかじゃ追いつけねえさ」


『して、挑発とは何をしたのだ』


「なーに、子供のいたずら程度のもんさ。先月新しくしたばかりの母船に、馬鹿だのまぬけだの落書きをさせて、ちょっと焦がしたのさ」


 いたずらをしたのが誰か分かるよう、コスカの名前を書かせている。海賊達はコスカが海賊を強引に抜けた後、このベリリュ村に住み着いた事を知っているのだ。


 当初はコスカ達も応戦に必死だったが、海賊達は何の利益も出ないというのに、コスカ達と銃や矢、大砲を打ち合う程、資金が有り余ってはいなかった。


 裕福な村がない海域でどれだけ搾取をしても、取れるものは限られている。大陸沖の岩がちな小さな無人島で長らく続いた海賊の拠点も、200年も経てばガタがくる。


 アジトの補修だけでなく、船の新調、きちんとメンテナンス出来るドック、安定した水や食料が確保できる土地が欲しくなる。


 大きな町を襲える程の人数も武器もないため、コツコツと中小規模の村々を脅し続け、ようやく新しい船が手に入った矢先に落書きや破損。


「これを機にぶっ潰してやる! そう思って追ってきたってとこですかね」


「ああ。あいつら、新しい船が出来るまで、小舟で漁船をちまちま襲っていたからな。俺がいた頃はもう少し見栄も張れていたように思う」


「何故、その時に襲ってアジトを潰さなかったのだ」


「アジトまで漁船で行っても、燃料が足りずに帰れない。油というものは無限ではない。更に精製技術を持った工場で石油から燃料となるものを分離させる手間もある。高くてそんなに出せねえのさ」


「成程、その分を武器と防壁作りに使ったんですね」


「その通りだ。おかげで海賊じゃなくてもこの村を好き好んで襲おうとはしないだろう」


 わざわざ岸壁沿いに塀を作っているのも、仰々しい見張り台も、簡単には攻め落とせない事を伝えるためだった。


 レオンの目は輝いている。きちんと考えられた戦力、相手の心理を逆手に取り、戦略をもって迎え撃つ姿勢。そしてそれが出来るだけの武器や防壁。

 レオンは堂々と戦うこのベリリュ村の事を気に入ってしまったようだ。


「そろそろ射程に入る。だが、相手の射程にも入るという事だ。見張り! でけえ声で知らせろよ!」


「あいさあー!」


 海沿いに細長く続く村に、見張り役の低く響く返事がこだまする。その間に、物凄い速度で戻ってきた漁船が接岸した。


「よくやった! あとは俺達が行く。レオンさん、ジェイソンさん、いいかい」


「うん」


 燃料の予備タンクを下し、素早く船に燃料を入れた後、漁船は再び全速力で海賊の船へと近づいていく。


 乗っているのは操舵の船長、漁師2名、コスカ、レオン、ジェイソン。コスカは船室からバリスタを引っ張り出し、漁師も銃を幾つも足元に置いている。


 村のからは僅か500メルテ程。命中率の悪い大砲も、数撃てば船に当たる距離だ。


「船の横に穴を開ける! そこから入れるか!」


「うん、分かった」


 小回りが利く漁船は、向かってくる船団と襲い掛かる矢の雨を潜り抜け、母船の後ろに回り込んだ。母船に隠れたおかげで、岸からの砲弾やバリスタは当たらない。


 海賊が船尾に回ってくる前に、漁師2人が一斉に手投げ弾を船へ投げつけた。そしてコスカが間髪入れずにバリスタを打ち込む。


 狙っていたのは船尾にある海中で回るプロペラとシャフトだった。母船は帆を張りつつ、動力で進むことも出来る。この海域では最新鋭の船だが、海中のプロペラが壊れてしまえば動力は意味をなさない。


「馬鹿な奴らだ。母船を守らず、我先に村に辿り着いて略奪をしようとしてらあ」


「他の賊と戦った事がないせいで、襲われた時にどうすればいいのか、知らないのさ!」


「コスカさん! おれ、このくらいならよじ登れる! 飛びつくから、襲い掛かる矢をなんとかして!」


「分かった! よし、レオンさんを母船に送り込めば勝ったも同然! 相討ち覚悟でいけ!」


 動かなくなった船に気付かず、周囲の船は全て先に行ってしまった。風の力だけでは速度の出ない母船だけが取り残され、乗っている海賊は漁船を狙う以外に何も出来る事がない。


 コスカも船長も猟師達も、ありったけの銃で撃ち込み、甲板へ手投げ弾を投げ込む。相手の銃は真下からの攻撃を恐れてか、明後日の方向へと向けられている。


 真後ろへとピッタリ付けているせいで、船尾からしっかり覗き込まなければ漁船が見えないのだ。


「レオンさん! 後は頼んだ!」


「はーい」


 レオンがよじ登ると同時に担いでいた山形鋼を振り回す。役に立たないと言われたが、レオンは銃よりもこの方が自分に合っていると感じていた。


 しかも、今回は山形鋼だけでなく、直径32ミリメルテ、長さ1.7メルテの丸鋼も持っての二刀流だ。


 それぞれ重さは10キロを超えるはずだが、レオンは軽々と振り回す。


「ぐべえっ」


「こいつ! 撃て! 撃ぐべえっ」


 レオンの身のこなしは軽く、鋼材はヒュンヒュンと空気を切り裂いて襲い掛かる。遠くから銃で狙おうものなら、何百体ものジェイソンが襲い掛かる。


 構えて撃つ前にレオンに殴られるか、ジェイソンに指を嚙み千切られるか。母船の甲板には何発かに1回砲弾も命中し、自慢の船はもう哀れな姿になりつつある。


「こいつら、弱いね! 殴りかかってこんし、銃も当てきらん」


『このような腑抜けが我が物顔で村々を脅していたとはな。威張り方ばかり上手くなり、喧嘩も満足にしておらぬのだろうよ』


「あ、相手は1人だぞ! 一斉に撃て!」


 甲板には既に5,6人がのびて転がっている。腕が折れた者、鼻の骨が折れた者に関わらず、動ける海賊達は一斉にレオンへと銃口を向けた。


 取り囲む海賊との距離は10メルテ程。打った瞬間に被弾する距離だ。全員が全員外す事もないだろう。


 逃げ場はない。ジェイソンも、さすがに15以上の銃を全て分身で受け止められるかは分からない。


『レオン、借りるぞ』


「うん」


『こやつらの命は補償せぬ』


「ならず者はヒトデナシ。害獣も害虫も駆除されるのが当然」


 ジェイソンとレオンの会話が終わった瞬間、海賊達が引き金を引いた。波で揺れるとはいえ至近距離。全弾命中も十分あり得る。


 だが、銃弾がレオンへ到達する瞬間、レオンの姿が消えた。対象が消えたなら、銃弾は当たらずに真っすぐ飛んでいく。


 そして、海賊達はレオンを取り囲むようにして一斉に撃ち込んだ。銃弾は……海賊の目の前、つまり対角にいる海賊へと飛んでいく。


「ぐぶっ!?」


「ぎゃああああ!」


 叫び声を上げられた者はまだいい方だ。顔面に銃弾を浴び即死した者、死にきれず痙攣している者、何が起こったのか分からず呆然とする者。


 その中心には、1匹の大きな黒猫……ジェイソンが鎮座していた。


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