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誠実に丁寧に、真心込めて復讐代行。【レオンの怨返し】―LEON SEEKS VENGEANCE―  作者: 桜良 壽ノ丞
【常識ある村】

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常識ある村-08



 * * * * * * * * *





「あのなあ、レオンさん。冗談はよしてくれ」


「いや、あの、乗れって」


「言葉通りに砲台に跨ってどうすんだ。のるってのは、俺達と一緒に戦うかいって事だよ。強者かと思えばとんだ物知らずだ」


「ご、ごめんなさい」


『乗れと言ったではないか。吾輩など生き勇んで飛び乗ってしまったというのに』


 レオンが砲台の上から恥ずかしそうに下りて頭を下げる。


「まずい、今度はおれが常識なかった」


『乗れと言われたのだから乗ったまで。何も間違ってはおらぬ、知らぬが悪いとなれば誰もがならず者であろう』


「まあ、そうなんだけど……ジェイソン優しい、有難う」


『フン、吾輩を愛でる立場でありたいなら今のうちだぞ』


「何を言っとるんだ、あんたらは」


 コスカは狐人族相手でも動じない。海賊を抜ける覚悟は、生半可では出来ないのだ。

 海賊というならず者に比べれば、善悪の基準がはっきりしているだけの獣人の方がまだいい。


「コスカさん、後を任せていいですか。私は村に戻って今後の事を考えないと」


「ああ、そうしとくれ。心配せんでもあんたらに掛けた迷惑も含め、俺達がカタつける」


 非常識から目が覚めた者のため、レオンを連れてきた村長は村へ帰っていく。再び訪れる事があれば、村は目覚ましい発展を遂げるだろう。


 その後、レオンはコスカから海の上での戦い方や、相手の戦力などを教わった。


 砲弾の飛距離や、飛び道具で狙われる可能性など、レオンにとっては新鮮なものばかり。目を輝かせて嬉しそうに聞くのがなんともレオンらしい。


「まあ、昨日今日得た知識と技術で勝てるほど、相手も甘くないさ。この村の様子を見ても分かるだろう」


『ふむ、あの見張り台、高い壁、それにこの大量の砲台と弓矢、銃や火器。これがまだ準備の段階というなら、相手は手強いのであろう』


「うーん、確かに野党の類は群れているだけで大したことないし、権力者は武器が金だから怖くないんだけどなあ」


「お前さん、どれほど強いのか、見せてもらえないか」


 コスカはレオンをじっと見つめ、実力を見せてくれという。と言っても、レオンはならず者に対して力を発揮するだけで、暴漢ではない。

 対象がいないのに、どうやって強さを見せるのか。


「何をしたらいいんですか」


「力については、何かを殴ったり投げたりできれば……そうだな。海賊と戦うために、木人を相手に稽古をしているんだ。そいつで試してくれ」


 コスカに連れられて歩くうち、見物人も増えていく。木人数体が並ぶ広場に着いた時には、その数も100人程に増えていた。


「普通は槍で付いたり剣で切りつけたりするもんだが、その山形鋼で殴るか」


「えっ、これは宝物だから駄目! 蹴ったり殴ったりならいいけど……」


「ならばどうするか。殴った所で壊せるわけでもあるまいし、実力を測るとすれば、その正確さや速さくらいか……」


 コスカが思案している間に、レオンは宝物である山形鋼を足元に置いて屈伸した後、軽い動きで木人を殴った。


「おいこら、素手で……」


 コスカが静止する間もなく、レオンの拳が木人にめり込んだ。木人はそのまま根元の土を抉りながら倒れてしまう。村人のどよめきと、同時に拍手が湧き、レオンはぺこりと頭を下げた。


 拳にやや血が滲み、ジェイソンがすぐに舐め始める。呆気に取られていたコスカは咳払いした後、深く頷いた。


「力に関しては素晴らしい。接近戦はお任せしていいだろうか」


「もちろん。ジェイソンもいるので」


 ジェイソンは瞬時に増えて見せ、またもや村人の拍手喝采を集める。ジェイソンは誇らしげだ。


 砲台を構え、銃など射程の長い武器も揃えたが、接近戦は誰もが嫌がる。手練れが味方に付いてくれないかと考えていたところに現れたのがレオン達。


 この機を逃したくないベリリュの村人はレオンの協力を確実なものにするべく、出来るだけ良い宿泊場所を確保し、出来るだけ豪華な料理の手配をするべく動き始めた。


「レオンさん、ジェイソンさん! お疲れでしょうからどこか休める場所へ」


「お料理は何がよろしいです? 海沿いで漁村なもんで、魚に関しては何でもござれですよ」


 レオンの目が輝いた。水浴びはしたものの、長らく風呂に入れていない。非常食を食いつないでいたため、食事が出てくる環境も1週間ぶりだ。


「風呂! 風呂があるところに! あと、ギギル……ああ、魚であれば塩焼きに!」


「風呂……となると」


 住民が相談を始めた。ベリリュ村はただの漁港で観光地ではなく、貿易商人が寄港した日の夜に泊まる簡易的な宿泊所がある程度。


 商人も船乗りも贅沢をしに来るのではなく、金を稼ぐのが目的だ。村で豪華な部屋や豪勢な食事を楽しみ、滞在を満喫するつもりなど更々ない。


 もてなす事を想定した事がないため、村人はレオンの受け入れにてんやわんやだ。


「あんた風呂が好きなのかい」


「はい!」


「生憎、宿泊所には風呂がなくてな、かけ湯が出来るくらいなんだ。ただ、湯が勝手に湧く泉がある。村の者はそこから湯を引いてきて風呂代わりにしている」


「温泉! おれ、温泉があるならそれがいいです!」


「そうかい、では宿泊所に行く前に場所を教えよう」


 この村では村の公営の温泉が当たり前となっていた。小さな小川しか水源がなく、井戸の水を好きなだけ使えるわけでもない。

 

温泉水は冷ましても飲用には適しておらず、家庭に引く程の湯量でもない。水を風呂に貯めるような贅沢は出来ないのだ。


 レオンは小屋と大差のない宿泊所に荷物を置き、念のためにジェイソンが1匹だけ見張りとして残る。

 レオンは浮足立ったまま温泉へと直行した。


「男湯はこっち、女湯は外から見えないようになっているんだね」


『男湯も着替え小屋はあるが、湯舟は周囲から丸見えだ』


「何も問題ないよ、入ろう」


 村の端の崖下に作られた温泉は、女湯のみが小屋の中に作られ、男湯は屋根のない露天風呂になっていた。2,30人が同時に入れそうな岩風呂に、洗い場が6人分。

 洗い場こそ腰程度の高さまで木製の衝立があるものの、岩風呂は道から丸見えだ。


「いいよね、露天風呂って」


『ああ、窮屈ではないところがいい。服が嫌いなのは吾輩も一緒だ』


 かけ湯をし、石鹸とタオルで体を洗った後、レオンは特にどこを隠すでもなく岩風呂でくつろぐ。途中で村人が3人入って来たが、レオンはずいぶんと長湯を楽しんだ。


「やっぱり獣人族ってのはいい体してんだなあ、そりゃ木人も殴り倒すわけだ」


「細工なんかは人族の方が得意だし、獣人族は体を動かす方が得意ってだけだよ」


「いやいや、そんな立派な筋肉なら女が放っておかねえべ。女に困った事ねえだろ」


「俺の腹見てみろ、そんなきゅっと締まった腹の倍はあるぞ」


「なーにが倍で済むか馬鹿たれ。レオンさんの胸の筋肉なんかほら、俺のカアチャンが見たら泣いちまう」


「ペッタンコでも器量良しならいいべ、乳ありゃいいなら牛でも飼ってろ。うちのカアチャンなんか……」


 歳は若くとも、獣人族は成長が早く、青年期が長い。村人はレオンの容姿であれば女を選びたい放題、遊びたい放題なのにと羨み、ため息をつく。


 だが、レオンにとっての恋愛対象は人族ではない。勿論ティアの事は今も大好きで、幼かったとはいえ当時ティアに告白されていたなら喜んで受け入れただろう。


 しかしレオンにとって、ティア以外の人族は男も女も人族でしかない。まさか自分が恋愛対象になってる事など考えもしない。


 実際、レオンはこれまでに何度も人族の女性から好意を寄せられていた。しかし、それが恋愛感情だとは思いもしなかった。


 そのせいだろうか。レオンは少し考え込んだ後、頓珍漢な返事で男達を困らせた。


「いや、何度も困ったよ。例えばロシ町で退治した女なんだけどさ。男を騙してお金を奪ったら、相手に詐欺だとバレていないうちに逃げるんだ。化粧で顔を変えて、嘘なまえを使って、なかなか捕まえられなかった」


「……はい?」


「でも大丈夫、ちゃんと高く売れたから。お金には困ったことない」


「……ん? 何の話してんだ?」

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