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誠実に丁寧に、真心込めて復讐代行。【レオンの怨返し】―LEON SEEKS VENGEANCE―  作者: 桜良 壽ノ丞
【嘘つきの町にて】

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嘘つきの町にて-09


 ボスは縋るように手下の男達へと目を向ける。しかしどうにもならない。なぜなら手下もレオンが引き受け、これから売りとばすか、もっと悲惨な目に遭うからだ。


「あ、あたしは人を殺したわけじゃない! どうしてこんな酷い目に遭わなきゃなんないの!」


「町の小さいひとは、何も悪い事してないのに酷い目に遭った。どうして?」


「……分かった、その分はきちんと弁償する! 償えば問題ないんでしょ?」


「償うのは当たり前の事だ。威張って言える事じゃない。償いと罰は別」


「……」


「お前が働いて稼いだ金で買ったもの以外は、全て返す必要がある。お前が盗ませて得たもので、既に使ったもの、使った金も全て返してもらう。返す相手がいない場合もお前の手元には残さない」


 レオンは転がって呻いている男達にも言い放つ。


「このメスの畜生だけじゃない。お前達も同じだ。良かったな、全部1匹で追い被るより、1匹あたりの償いは少なくなるぞ」


 レオンはならず者に容赦しない。とりわけヒトデナシだと認識する程の悪人の権利など尊重しない。ボスも手下も保管庫の盗品や手持ちの現金を思い浮かべ、どれ程足りないかを考え始める。


「小さいひとが盗んだもの、返って来てない人は?」


『案ずるな人族共。誤魔化して多くせしめようとすれば、吾輩が容赦せぬ』


 大きく開けたジェイソンの赤い口に、被害者達が息を飲む。金を取られたと主張する者から先に、レオンは手持ちから返金を始めた。


「正確にどれくらい盗られたかは……」


「だいたいでいいよ、嘘をつくつもりがなければ」


「き、金貨紙幣3枚だ」


「じゃあ金貨紙幣4枚を返す。こいつらからの慰謝料として」


 レオンは悪人達が償うべき金をおおよそで考え、その分を上乗せで返金していく。被害者は8人に増え、ジェイソン曰く、どの者も律義に最小限の額を思い浮かべていた。


 盗んだり騙し取った金は総額40金貨紙幣分。そこに慰謝料を付けたため、結局50金貨紙幣分になった。ボス1人、手下が9人。10人で割れば簡単に返済できる金だ。


 大したことなかったとホッとした悪党達は、口元の綻びを隠せずにいる。これからの治療費や返済に関しては負担でも、獣人族の制裁がこの程度なら噂などあてにならないと思ったくらいだ。


「じゃあ次は小さいひと、ばあちゃん、他にもこいつらに脅されたり殴られたり、盗みを強制された人」


「オレ、呼んでくる!」


「この貧民街にコイツらに逆らえる者はおらんよ。老若男女、病人も含め全員と言っていい」


「じゃあばあちゃん、全員一律同じ金額を渡していいかな」


「まあ、こいつらの搾取がなけりゃ、みんなもう少しマシな生き方が出来ただろうね。騙し合いは昔からだったが……誰が特に酷い扱いだったと言えば、子供達だね」


「じゃあ小さいひとは、1人につき金貨紙幣5枚、おとなは金貨紙幣3枚でどうかな」


「貰えりゃ嬉しいけれども。でも私らだって他人様から物を盗んだり騙したりしていたんだ、施しを受ける義理はないよ」


 老婆は寂しそうに笑い、こんな末路を迎えるだけの事はしてきたんだと呟く。


「全部じゃないけど返せる人には全部返して、自分で謝って、更に償いとしてこいつらの事を教えてくれた。正しい者は殴られた分の金を貰う権利があるね」


 レオンは老婆が改心したと信じている。ジェイソンが憎悪を向けないのが何よりの証拠だった。


 それに、老婆達が悪事を働いた事と、悪事をさせられ、更に虐げられていた事は別問題とも考えていた。


 前者はレオンにとって解決済み。レオンが知る限りの被害者とは和解し、罰の代わりに罪滅ぼしで善い行いをしている。

 となれば、後者であった事への救済はこれからだ。


『小僧の親はどこにいる』


「この子達は親無しだね。あと10人ちょっといるはずだけど、親が病弱だったり、酒に溺れてまともじゃなくなって死んだり、まあ似たようなもんだ」


『老婆よ、貴様が代表して受け取れ。そして全員に渡せ』


「……その必要はなさそうだがね」


 老婆はそう言って貧民街の方へと目を向けた。そこには100人超の貧民達が集まっていた。子供が呼びに行った事で家から出てきた者達だ。


「ちょ、ちょっと待ってよ、そいつらにまで金を渡すわけ? 冗談でしょ」


「酷い扱いをしておいて、慰謝料不要だなんて言った覚えはない」


「だからって、全員にそんな……」


「ハァ」


 レオンはボスの発言に心底落胆していた。そこに地下の貯蔵庫から大きな袋を持ってきたジェイソンの分身が並ぶ。


『金になりそうなものを集めてきた』


「有難う。現金が足りなくなったら、換金しやすいものを慰謝料の代わりに」


「だから、そんなにばら撒かれたら……ひっ」


 レオンに睨まれ、ボスの喉から掠れた悲鳴が漏れた。


「お前は謝りもしない、償うのも嫌。今まで遭遇したならず者の中でもとびきりのならず者だな」


 レオンから言われ、ボスも手下も初めて気が付いた。1度として被害者に謝っていないのだ。


「おとなが123人、小さいひとが16人。全部で……えっと400……いいか、500金貨紙幣あれば、この地区をもう少し綺麗に出来るね」


「だ、大丈夫なのかい? そんな大金……」


 町の物価で考えたなら、500金貨で一般的な戸建てが3軒建つ。3金貨だって、貧民の半年分の稼ぎより多いくらいだ。

 レオンはジェイソンが屋敷内でかき集めた金貨紙幣350枚と、自身が持っていた紙幣を合わせ、それを老婆に託した。


「一列に並んで受け取って。我先に並ばなくても全員分ある。正しい者はきちんと並べる。それもできずに今後まともな人族にはなれない」


『今後この町で悪事を働いてみろ、今度地面に転がるのは貴様らだ』


 貧民達は、自分達が試されていると理解し、おとなしく列を作った。卑しい生活しか知らなかった彼らが、初めて規律正しく振舞う瞬間でもあった。


 いつもなら我先に僅かな金や食べ物に飛びつき、他人の目も気にせず髪を振り乱し、服の乱れさえも気にしない。それが当然となっていた。

 自分達は貧民であり、まっとうな生活など目指す暇も、必要もないと思っていた。


 しかし、そんな自分を誇らしいと思った事はなかった。

 この期に及んでなお変われなければ、一生貧しいどころかレオンの標的は自分になる。


 本音では誰もがこんな生活から抜け出したかった。その抜け出し方が分からなかったのだ。


「その傲慢な女に取り入って、オレ達を支配する側に寝返った男達みたいにはなりたくねえ。変わるさ、ここまで他人にお膳立てされても変われなけりゃ、情けねえ」


「私達はすでに情けないのよ。それを分かっていてなお、生きるためと言って他人から物を盗む理由を正当化していた。いつかこんな生活を抜け出したかった」


「ああ。それはまさに今、この時だ」


「見よう見まねでも、まともな奴のやる事を学んでやっていくしかない」


 ボスがいなくても元々貧しい生活で、町中で盗みや騙し合いが繰り広げられていた。まともな人族になるのは簡単ではない。

 もし出来なければそれまでだったという事。レオンでなくても別の獣人族が今度こそ町ごと始末するだろう。


「さて。弁償に使った50金貨紙幣、貧民に渡した慰謝料350金貨、おれが立て替えた150金貨。550金貨紙幣分を補填してもらおう」


「は? 400金貨紙幣はあたし達が出してるでしょ! 何とぼけてんのよ」


 ボスは開き直り、男達もレオンが計算できないのではと非難と侮蔑の声を上げる。レオンはそんな10人に対し、乾いた笑い声を上げた。


「それは盗った金だろう? お前らの懐から出した金じゃない。お前らはお前らの自腹を切って支払うんだよ。他人のものじゃない金がないなら、働いて貰わないとね」


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