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誠実に丁寧に、真心込めて復讐代行。【レオンの怨返し】―LEON SEEKS VENGEANCE―  作者: 桜良 壽ノ丞
【嘘つきの町にて】

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嘘つきの町にて-08



 獣人族が町の嘘つきを片っ端から懲らしめている話は、女の耳にも届いていた。

 屋敷内で大暴れしていた事も、手下から聞いて知っている。その手下が1人も戻ってこなかった事の意味も、分かっている。


 当然、なぜここにレオンがいるのかも分かっていた。


「お前、小さいひとに物盗ませたならず者だな」


「な、何の事よ、あたしはヤバい奴が侵入してきたから、危険だと判断して逃げただけ」


「お前が今何をしよるかを聞いたんやない。お前は町の人を怖がらせて物を盗ませたり、盗めんやった奴を殴ったりしたのか聞いとる」


『返答には気を付ける事だ。吾輩達を騙せぬ事はよく分かっておるだろう』


 ジェイソンが喋った事に驚き、女がボートの中で後ずさりする。小さなボートは大きく揺れ、はずみで女の服の下から何かが転がり落ちた。


「宝石と金貨紙幣、ね」


「な、何よ、持ってちゃ悪いわけ?」


「手に入れた手段次第では悪いね。で、お前は質問に答える気ないのか」


『その恰好ではさぞかし泳ぎづらいだろうな』


 女は何としてでも逃げ切りたいと考えていた。だが、レオンがタダで引き下がるわけがない事も分かっていた。


 少し言葉を選んだ後、女は恐る恐る口を開く。


「あ、あたしは悪い奴に捕えられて、ずっと部屋に閉じ込められていたんです! あなたが倒してくれたから、その隙に急いで逃げようと」


「ふうん。おれを危ない奴だと思ったくせに、奴らを倒してくれただって? まあいいや、じゃあ、行こうか」


 レオンは女の腕を掴んで船から引きずり上げ、そのまま引きずり始めた。オイルライター頼りの暗く細い通路、狭い階段。レオンのペースについていけず、女は何度も躓き、転ぶ。

 それでも自力で起き上がって歩かなければ、レオンはそのまま引きずろうとする。


「ちょ、ちょっと!」


 レオンは女の抵抗など全く意に介す事なく、無言で狭い通路を歩く。


「痛い、痛いってば! やめて!」


 レオンの力に敵うはずもない。女はレオンが掴んだ手首を捻り、レオンの指をはがそうとし、必死に抵抗を試みる。全く動じないレオンに痺れを切らし、女はレオンの指を噛もうとした。


『貴様、その穢れた歯で吾輩の傀……レオンを噛めば、どうなるか分かっているな』


 ジェイソンが増殖し、爪を立てて女の顔に押し付ける。ただの脅しではない事を理解し、女は抵抗を諦めた。


「い、痛いから放して欲しいだけよ」


『貴様や貴様の手下に殴られた者は、痛いと言えば許されたのか』


「……あたしは何もしてないって! 悪い奴らに捕まえられ……」


 女が嘘で切り抜けようとしていると、レオンが壁を蹴り始めた。壁に切れ込みがあり、そこに扉があると気付いたからだ。

 扉は蹴り破られ、その向こうに置かれていた本棚が倒れ、建物を揺らす程の衝撃を響かせた。


 その脚力に、女の顔は青ざめている。獣人族という存在がどれ程脅威なのか、女は噂程度にしか知らなかった。


『貴様、なぜ人族が獣人族や魔族を服従させられなかったのか、知らぬのか。人族など虫けらよ。我らが愚かな人族の蛮行を静観している事に感謝すべきだ』


 レオンは女の腕を掴んだまま玄関扉から外に出て、女を地面に転がした。


「痛いっ」


「こいつがボスか?」


 レオンはよく通る声で外で待っていた者達に尋ねた。そこはスラムの子供達や他の大人達が立っている。

 その足元にはレオンが倒した手下共も転がっていた。


 手下の見るも無残な姿に、女は立ち上がれないまま後ずさりする。血だらけだったり腕や足があらぬ方向に曲がっている者達を見れば、怖いのは当然だ。


 子供達が答えるかと思いきや、その後ろにいた町の者達が口々に声を上げ始めた。


「そいつがボスで間違いない!」


「その女が、この男達を手名付けて……」


 女をボスだと叫ぶ声は、次第に俺から取ったものも返せなどという抗議に変わる。レオンはそれらの声に対し嫌そうに顔をしかめ、また大きな声で告げた。


「お前ら嘘つきだから、本当の事かどうか聞いても無駄だった」


 レオンの予想外の言葉に、その場が静まり返った。「償ったからもういいだろう」そう思っていた町の者は、レオンから全く信用されていない事でショックを受けている。


「同じならず者を追う立場だからと言って、今だけ仲間のように思われても困る。小さいひと、コイツがボスか」


 子供達は不安そうにレオンの顔を見つめる。自分達も信用して貰えなかったらと考えると怖いのだ。


「小さいひとは、反省して内省してやり直すことができる」


 レオンがそう告げると、子供達は大きく頷いて女を指さした。


「そいつ。オレ達が何も盗めなかった時は、男にオレ達を殴らせてた」


「わ、わたし、蹴られるからいやなの、この人きらい……」


 子供達の証言を聞き、その横にいる老婆の真っすぐな目を見て、レオンも大きく頷いた。

 実を言うと、ジェイソンが女の正体を見抜いていたので、女がボスである事は分かっていた。レオンはあえて子供達に真実を言うチャンスを与えたのだ。


 ボスは地面にしりもちをついたような恰好で小刻みに首を横に振っている。恐怖の表情でレオンを見上げ、違うと何度も繰り返す。


「お前がボスなのは分かっとる」


「あ、あたしじゃない、あたしじゃない! あのガキが嘘をついてんの!」


「小さいひと、嘘ついてない。ほんとついた。お前はただしい者を悪く言ったな」


「言葉では何とでも言えるでしょ! あたしは……」


「1つ。この男達はあの部屋を守ろうとしてた。全員、あの部屋までの経路で、大半が前から襲い掛かってきた」


 レオンの冷静な分析が始まり、ボスの顔が一瞬固まった。強張っているのは最初からだが、明らかに動揺している。


「2つ。あの豪華絢爛な部屋には女の服や持ち物しかなかった」


『3つ。捕えられているだけの女が、あのような真っ暗で複雑な逃走経路を瞬時には見つけられん』


「あ、あたしはあの小舟であの洞窟から連れてこられたの! だから……」


「こんなところで捕まってたまるか、せっかく金も宝石も貯め込んだのに! でしたっけ」


 レオンはボスがボートを漕ぎながら呟いていた言葉を、しっかり聞き取っていた。

 どれだけ違うと言っても、レオンは確証を持ち、女がボスである事を分かっている。


『捕えられ逃げられなかったという割に、高価な宝石や大金を持っているようだな』


 レオンが山形鋼を地面に突き刺す。そのはずみで、ボスはとうとう恐怖から失禁してしまった。

 恐怖で引き攣った絶望の表情、腰が抜けて逃げられない、そして失禁。ジェイソンは満足そうだ。


「この子たちに盗ませたものを返して! 私の母の形見のペンダントよ、無いとは言わせない」


「これか?」


 レオンはボスに近づき、乱暴に掴んで鼻をつまみながら、その首にかけられたペンダントを見せた。楕円形のべっ甲の周りを金色の細工が囲んでいる。


「それよ!」


「証拠は」


「開けたら写真と、その中にジョマ・ライトって母の名前が彫られてる」


「……間違いないね」


 レオンが確認し、被害者の女がすぐに駆け寄ってきた。ボスの首からペンダントを取り返し、思い切り平手打ちを喰らわせる。


「最低な女!」


 子供達は大切な形見を奪っていたというショックで大泣きし、何度もごめんなさいと謝っている。

 レオンはボスに対し、「捕えられているだけの奴が、盗られたペンダントを首に付けてるはずないよな」と笑顔で言い放った。ボスは悔しそうに下を向き、地面を見つめたままだ。


「約束通り、この女と手下の男達はいただきます。関係ない町の人は帰って下さい。帰れますね」


 レオンの言葉に怯え、町の者達が一目散に逃げていく。スラムの者達と、老婆、子供達、そして被害者だけが残った。


「まず被害に遭った人は、何を幾らか教えて下さい。スラムの方々は生活を立て直す資金を渡します。勿論、悪事に手を染めた時は分かっていますね」


 ボスはレオンを恨めしそうに見上げ、女に手加減をしないなんてと悪態をつく。レオンがボスを見る視線は冷たかった。


「ならず者は人じゃない。お前はヒトデナシ畜生のメスだ、女扱いされるわけない」

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