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誠実に丁寧に、真心込めて復讐代行。【レオンの怨返し】―LEON SEEKS VENGEANCE―  作者: 桜良 壽ノ丞
【嘘つきの町にて】

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嘘つきの町にて-07



 乾いた破裂音が響き、その直後に甲高い音色が降り注いだ。衝撃で飛んだガラス片が白いカーテンを切り裂き、隙間から室内を見せつける。


「普通のガラスだった。防弾ガラスかと思ったのに」


『うむ、気持ちの良い割れようであった』


 レオンは厚い鉄板とゴムの靴底で粉々になったガラスを踏みつけ、室内へと侵入した。まもなく銃弾が撃ち込まれる、レオンはそう覚悟しほんの少し緊張していた。


 しかし、予想に反して何の反撃も受けることなくカーテンを潜ることが出来た。


「誰もいない」


 部屋の中央に立ったレオンは、真四角の部屋をぐるりと一周見回した。人の姿はない。


「え、中にいるのは確認したんだよな」


『ああ、確かに。女がそのカーテンの隙間から外を覗き見ておった』


「隠れているのか」


 レオンは家具を動かし、ソファーを持ち上げて放り投げ、全ての収納の扉を開け放った。だが人の気配はない。

 いち早くベランダや窓から逃げたとすれば、見張っているジェイソンの分身が気付く。部屋の中にいた者が忽然と姿を消す事までは、流石のジェイソンも想定してなかった。


『吾輩は……この怒りをどうしてくれよう』


「部屋の外には出てないはずだ。という事は、この部屋からどこかに行けるって事」


 レオンは壁を山形鋼で叩きつけ、本棚を壁から引きはがし、台所の床板まで叩き割った。ふかふかの絨毯もめくったが、それらしい隠し扉などはない。床に不審な軋みなどもない。


「……どこに隠れる? この部屋から、どこに行ける?」


『壁は通れぬ。この床も不審な点はない』


 レオンは室内を見回す。いずれにしても、建物から脱出しようとすればジェイソンの分身が気付かないはずはない。室内の破壊を続けて5分が経った時、レオンはまだ壊していない箇所を見つけた。


「天井……裏に隠れてないかな」


『可能性はある。穴を開けよ、吾輩が忍び込む』


 レオンはその場で飛び上がり、3メルテ程の天井めがけ山形鋼を振り回した。


「痛っ!」


 が、その脚力のせいで天井に頭が付き、レオンは後頭部で天井に頭突きを喰らわす羽目になってしまった。山形鋼が天井を打つ前に頭突きで穴が開いてしまい、レオンは着地後に蹲る。


「痛い……でも、なんか穴開いたね」


『吾輩を高く持ち上げよ。中に潜入する』


 レオンはジェイソンを持ち上げ、ジェイソンはそこからぽっかりと開いた穴へと飛び込んでいった。真っ暗闇などジェイソンが恐れるものでもない。


 時折バタバタと動き回る音が聞こえてくるのは、きっと天井裏のネズミがジェイソンから逃げているのだろう。


「ジェイソン、何かあった? おれも入れそう?」


『人が入れる空間がある。底が抜けぬよう、梁の上を歩くが良い』


「うん」


 レオンは倒した本棚を元に戻し、その上に飛び乗って別の穴を開けた。室内から微かに入る光を頼りに梁の上を進むと、ジェイソンが傍まで戻ってきた。


「なんか臭い」


『梁の上を伝い、何かが移動したようだ』


「もしかして、この香水の匂い?」


『ああ。向こうに続いておる』


 埃だらけで蜘蛛の巣も張られた天井裏を注意深く進むと、行き止まりとなってしまった。しかし甘い香水の香りはその付近から移動していない。


「もしかして」


 レオンは暗闇の中を手探りで引っかかりを見つけ、その部分を横にずらしてみた。するとその先からうっすらと光が漏れてきたのだ。


「隠し通路だった、って事だね」


『吾輩が先に行く。レオンはついてこい』


「ジェイソンが数匹に増殖しながら先へと進んでいく。そのうちジェイソンが壁際で止まり、ふと視界から消えた。


「ジェイソン?」


 レオンが中腰で急ぐと、そこには細い階段があった。階段を降りると、外壁と内壁の隙間には柱1本分ほどの通路が伸びている。その先を進んでいくと、再び階段が現れた。


「もう1階に降りてるはずだから、この下は……地下って事か」


 地下への隠し通路は真っ暗で、レオンもジェイソンも道なりに進むことしかできない。レオンは鞄からオイルライターを取り出し、金具を回して小さな炎を生み出した。


「少しは見えるね」


『まだ続いておる。左に扉があるぞ、吾輩が何匹か中を探ろう。先に行け』


「分かった」


 ジェイソンの分身が部屋の中を捜索している間に、残りのジェイソンとレオンは先へと進んでいく。


『金や宝石が隠してあった。あれはこの町で盗み、手に入れたものだろう」


「ならず者はどうして貯めこむために盗むんだろう。どんぐりをどこに埋めたか分からなくなる冬眠前のリスみたいに、貯め込んでいる事を忘れてるのかな」


『実に人族らしき間抜けよ』


 レオンが持つ山形鋼が壁をひっかく。その音が途切れることなく続いた後、行き止まりに扉が見えてきた。

 その扉の先は湿った通路になっていて、奥には水の流れがある。その淵はまるで船着き場のように広くなっていた。


「これ、海の臭いだ」


「地下にこのような洞穴があったか。海まで続いておるぞ」


「向こうが明るい……杭とロープ……もしかして、船を係留してあって、ここから逃げた?」


 レオンが目を凝らす。海水が洞窟の壁に寄せては返す音に、僅かな軋む音が混じっている。


「……何か、いるぞ」


 明るい方へと目を凝らすと、その手前に何かの影が見える。それが小さな手漕ぎボートだと分かった瞬間、レオンは荷物をそっとその場に置いて服を脱ぎ、水着1枚になって水中に飛び込んだ。


 ジェイソンは水を恐れないが、ベタベタする海水は苦手だ。レオンだけでボートへと忍び寄り、そっと近づいてボートに手を掛ける。


 潮の流れに逆らって必死に漕ぐその人物を見上げると、それは1人の女だった。逃げる事を優先したのか、下着にバスローブを羽織ったような恰好で、荷物も持っていない。


 長い髪を振り乱し、時折建物からの出口を振り返る。独り言で「まだ大丈夫」と繰り返すあたり、ボートの影に隠れているレオンには気づいていない。


「こんな、ところで……捕まって、たまる、か! クッソ、せっかく、せっかく……! 金も宝石も貯め込んだの……に!」


 女は進みの遅いボートを漕ぎながら恨み節を吐く。レオンはそんな女を確認しつつ、ジェイソンの願いも忘れていなかった。


 レオンは船の影に隠れ、ボートの下に潜り込んだ。そして前へと回り込むと、女が休憩を取った隙にボートを押し戻し始めた。


 水面は黒く、周囲も殆ど真っ暗だ。洞窟の出口まではあと50メルテもない。逃げ切れると思って気を抜いた女は、ボートが押し流されている事に気づき、再びオールで漕ぎ始める。


「ちょっと、何でこんなに押し戻されてんの……よ!」


 ボートの後方に座っている女からは、ボートの前方に隠れているレオンが見えない。水中で自慢の脚力を使って泳ぐレオンと、元からの満ち潮の流れには逆らえず、ボートはあっという間に元の位置まで戻ってしまった。


「なんで! なんでよ! 進めこのバカボート!」


 女がそう叫んだ瞬間だった。ボートに軽い着地音がした。


「な、何よ」


 女は震えあがり、周囲を見回す。すると船着き場に見慣れない荷物が置かれている事に気付いた。


「……まさか」


 そこにあった鋼材を見つけた瞬間、女は息をするのも忘れて固まる。恐る恐る前へと視線を戻し、ボートの前方を確認した時、そこに2つの小さな目があるのが分かった。


「いや、いやあああ!」


 それはジェイソンの瞳だった。女は動転したはずみでオールを手放してしまい、もうボートで逃げる事も叶わない。


 レオンはもういいかと船着き場に這い上がり、ボートを縄で杭につなぎとめた。突如水中から現れたレオンに、女はパニックだ。


「今回のならず者は、往生際が悪くてジェイソン好みだった。たまにはこういうのもいいかもね」


「あ、あんた……」


「どうも、ならず者。始末屋レオンです」

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