嘘つきの町にて-04
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「す、すみませんでした!」
町の海浜公園は多くの人でごった返していた。
レオンの存在が知れ渡り、僅か半日でその日に騙された観光客や旅人の被害はおおむね回復された。
昨晩の居酒屋の惨状、今朝の宿屋での見せしめ、それらがかなり効いている。
レオンに成敗された者達は、殴られ、蹴られ、引っかかれ、場合によっては一生消えない傷を抱えたまま、せしめた金では到底割に合わない人生を送る事になる。
金貨紙幣1枚分を奪えたとしても、治療費や完治までの欠勤でどう考えても赤字だ。
それに気づいた者達が、復讐される前にとこぞって奪った金品の返却にやってきた。被害者はその日の滞在者だけで数百名。
流石に全員に立ち会う事は出来なかったため、当事者同士での和解を提案、許せるレベルの謝罪と賠償を引き出せなかった場合のみ、レオンが対応した。
「さ、昨日浜辺でいただいた、入場料です……さ、3倍にしてお返しします」
砂浜の立ち入り料を取っていた者達も、それぞれがレオンや他の者に返金していた。慰謝料をプラスした結果、この町の悪人は合計で何百金貨分の損害となったのかもう分からないくらいだ。
レオンも仲介料という名目で50金程手に入れている。
全額が自主的に返金、返却に来なかった者への復讐依頼をこなして手に入れたものだ。
「返せない人、いますか? まだ謝られてもいない人、いますか?」
『逃げ通せると思うなよ。吾輩をみくびるな』
レオンとジェイソンの睨みの効果は絶大だ。レオンがいなくなった後は分からないが、少なくとも滞在中に嘘をついて金品を強請る奴はいないだろう。
観光客や旅人は、これ以上騙されないという安心感と臨時収入で明るい。一方、町の者達は何も知らない者を騙して金を得る機会を失った。どんよりとして、まるで葬式中のようだ。
旅人や観光客の間で「ゴーツクの町では、ぼったくりに注意しろ」という話が広まっている。けれどどれ程酷いのかを聞いても半信半疑。
騙されると分かっていれば、騙されることはない……などと自信を持った者達も、バレているから何だと開き直られる事までは想定していない。
それらの悪名が積み重なり、ゴーツクは浜辺や食材など、観光地としての魅力が高いわりに観客が少ない。
知らずに寄ったか、噂を気にしていなかったか、中継地として寄らざるを得なかったか、その程度の集客しか出来なくなっていた。
「そろそろいいかな。では、またどこかでお会いできましたら。その際何かあれば復讐承ります」
今後は一時的に人が多く訪れるかもしれない。本当に人を騙さなくなったのかを確認しにくる物好きや、ボコボコにやられて騙せなくなった町の者を揶揄いにくる者などの需要が見込めるからだ。
「エーテル村は、この大陸にはないみたいだね」
『そのようだ。ドワイトのように他の大陸に移るべきではないか』
「そうしようか。この町にも長居したくないし」
そう会話をしながら公園を後にしようとした時、1人の男がレオンを引き留めた。
「おい、子供のスリが来ていないぞ。他の馬鹿共から金は返して貰えたけど、ガキ共から取られた分はまだ取り返せていない」
「小さい人までならず者なのか。何だこの町、滅びたらいいのに」
男の話を詳しく聞くと、この公園に集まった被害者の中にも、もっと言えば町の住人の中にも、子供に金や物を盗まれた者が複数名いるとの事。
「特徴などは分かりますか。子供と言えど、謝りもせず許される事はないですから」
「昨日は海辺で数人がたむろしていた」
「確かに小さい人は見かけたけど……親と一緒に来ていたように見えた」
容姿にこれといった特徴はないという。どこの町にもいるような浮浪児かと思いきや、情報提供してくれたのはまさかの町の住民だった。
老婆はやや曲がった腰を気持ち伸ばし、伏し目がちで居場所を告げる。
「知ってるよ、町の北東の地区に住んでる」
「……あなたが本当の事を言っているという証拠はありますか」
「今まで嘘ばかりついてきて、信用されない事は覚悟していたけどね。信用できないとハッキリ言われるとこんなに心を抉られるとは思ってなかった」
老婆はため息をつき、証拠はないと言い切った。
「行けば分かるよ。この町で、少なくともこの場の出来事を知っている奴で、あんたらを騙そうとする馬鹿は残っていないさ」
「狐人族相手でも金を余計にふんだくろうとする奴らだ、馬鹿じゃない方が少ないだろ」
「まあ、確かにね。信じてくれと頼むつもりはない、疑うなら自力で探せばいいさ」
老婆は「私なりに改心して本当の事を言ったんだよ」と言いながら去っていく。
この町で今更レオン達を騙そうという奴はいない。悪者は悪者であって、年齢や性別など全く関係ないという姿勢は十分伝わっている。
レオン達は老婆が嘘を付いていないだろうという前提で、町の北東へと向かう事にした。
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教えられた地区は、港から歩いて10分程の場所にあった。
町の建物はどこでも新旧や大小、豪華、簡素、それぞれ程度の差があるものだが、教えられた場所に限っては殆どが粗末な小屋ばかりだった。
「貧民街、か」
「触っただけで倒れそうだな。あの家、入り口の扉もねえぞ」
「窓ガラスのある家が1軒もない時点で、普通の暮らしぶりは期待できなさそうね」
レオンと共に向かった被害者数人も、子供がスリを行う理由を察していた。
貧しく苦しい生活の中、親に盗みを命じられていたか、もしくは親が子育てを放棄、盗みを働かなければ食べる物もないのか。
そうであれば少なくとも広場で返金させた輩のように、遊ぶ金欲しさや働かずして金を得たい者達とは少々理由が異なる。
「小さい人は、反省して生きる権利がある。謝れるかどうかを試されとる。その試練に打ち勝った子供は生きていく権利がある」
「試練ってのは大げさだが、まともな人として生きて行けるかどうか、決まるってのはその通りだな」
『レオンは甘い。吾輩なら幼き者でも手癖の悪い腕をもぎ、目玉を……グルルル、容赦はせ……グルルル、容赦グルルル』
「分かっとるよ、ジェイソン落ち着いて。おれはまだ盗られとらんから」
レオンがジェイソンの顎下をくすぐり、物騒な発言を制止する。物騒な発言を聞かれてしまえば警戒されるだけだ。
それよりも問題なのは、盗みを働いた子供がどこの家に住んでいるのか。
薄汚い通りの1軒ずつ全てを訪ねる訳にもいかず困っていると、レオンが通りの先の路地からこちらを見ている子供に気が付いた。
「ジェイソン、気付いたか」
『グルルルル……グルルン、見えておる。吾輩が背後から忍び寄り、八つ裂きに』
「捕まえるだけ」
『言い間違えただけだ。決して狩られる恐怖で醜く歪めた顔が見たい、とは思っておらぬ』
「ジェイソン」
『任せておけ、心得ておる。吾輩を褒め称え撫でまわす準備でもしておけ』
ジェイソンが数匹増え、屋根を伝って子供達の背後へと忍び寄る。レオン達は周囲に警戒しつつ、気付かぬふりをして歩き始めた。
「よくある手口で、ぶつかって悪態をつき相手を怒らせ、その隙に仲間が持ち物を持ち去る、ポケットから金品を抜き取るというやり方がある」
「それ、私がやられた手法だわ。ハァ、子供嫌いになりそう」
「俺は泣きながら近づかれ、しゃがんだ時に後ろのポケットから財布を抜かれた。気づいた瞬間、走り出されていてな。中身を抜かれた財布は投げ捨てられ、被害は現金だけで済んだけど」
子供達が覗き込んでいた路地まで、あと数十メルテ。いよいよ次の路地という所に来て、子供達の悲鳴が響いた。




