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誠実に丁寧に、真心込めて復讐代行。【レオンの怨返し】―LEON SEEKS VENGEANCE―  作者: 桜良 壽ノ丞
【さようならの時】

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さようならの時-05



 レオンは猫人族の男の顔をまじまじと見ている。30代くらいだろうか、努めて笑顔を作っているのは丸分かりでも、怖がらせまいとしていると思えなくもない。


 数秒が経ち、レオンは眉を顰めて不思議そうに首を傾げた。ジェイソンも目つきがきつい。


「なし、猫人族のかっこうしとるん」


「……えっ?」


「耳と尻尾、なんで付けとるん。猫人族の真似して遊びよると?」


 レオンの言葉に男の笑顔が引き攣った。


 耳も尻尾もよくできているし、パッと見では本物に見えなくもない。獣人族など滅多に見かけない世の中において、人族相手なら騙せる事もあるだろう。


 だがレオンから見れば、それがニセモノなのはすぐに分かる。


 黒い髪と異なる耳の質感、動かない耳と尻尾、何より瞳孔などは猫人族特有の縦長ではない。狐人族も若干縦長だが、男の目は完全に人族のものだ。


 人族の耳は髪で隠してあるとしても、牙も生えていない。獣人族の特徴を何1つ備えていない。

 一方、本物の獣人族に会った事がなかったのか、男は何故見破られたのかも分かっていなかった。


「ど、どうしてそんな事を言うんだい?」


「分かるけん、分かる。何で付けとるんっち、おれが聞いとる」


「か、カッコいいかなと思って」


 騙せると思った、などとは口が裂けても言わないつもりらしい。


「ううん、ほんとの耳と尻尾とぜんぜんちがうけん。おかしいけ、やめたがいいよ」


 物陰で変装したとはいえ、数ブロック歩くだけでも恥ずかしかったというのに、あっさりと見破られてはたまらない。


「……チッ」


 悲しそうに座っていたと思ったら、物怖じせず真顔で思った事を口にする。

 男はそんなレオンを騙す作戦を諦め、ため息をついて低い声で脅しをかけた。


「お前、1人だろ。優しくしてやってるうちに言う事を聞いた方がいいぞ」


「なんで」


「誰も獣人族なんか庇いはしねえ、酷い目に遭いたくなかったら金を……」


 男がそう言いかけた時、レオンがすくっと立ち上がった。足元に置いていた大切な宝物を握って男を見上げる。

 普通の子供ならちょっと凄むだけで震えあがり、泣き顔になる。だがレオンは全く恐れていない。


 ジェイソンも4匹、8匹と増えていき、男は異様な雰囲気を感じ取っていた。


「おまえ、物盗りならず者か」


 レオンの目つきが変わった。男はジェイソンに囲まれ、想定外の出来事に焦っていた。


 獣人族を恐れるのは、その身体能力の高さと容赦のなさ、何より仲間を傷つけられた際の報復があるから。

 男はレオンが子供であり、御者と別れずっと1人でいる事を確認している。だから見くびっていたのだ。


 役所の前ともなれば、行き交う人も少なくない。大人が子供を脅していると分かり、人だかりが出来始めていた。


「あいつ、子供相手に何やってんだ?」


「この辺で悪さしてるクズだな。しかしクズは何をしだすか分かんねえ、はやく警備隊を」


「誰も助けないの? ちょっと、相手は子供でしょ」


「お、お前が行けよ」


 どこの町でも、悪党に正々堂々対峙する勇気がある者などそうそういない。心配でも力になれない。そんな大人達はただ見守る事しかできずにいる。


 周囲には見物人。レオンは被害者という構図。

ここでレオンは作戦に出た。


「ふっ、ふぇぇ……あぁーん! お、おれの、おかね、とるぅー!」


 レオンが突然大声で泣きだし、男も周囲の見物人も驚いて目を丸くする。レオンは小さな手で目を擦り、涙を必死に抑えるしぐさを見せつけた。


「ふ、ふえぇ……こわいよ、あーん!」


「あんな小さな子を脅して、お金を巻き上げようとしてるの?」


「大人相手じゃ負けちまうからって、子供に手を出すとはな。クズの中でも最底辺だぞありゃ」


「あの耳としっぽ、獣人族の恰好のつもり? やだわ、子供のリボンじゃあるまいし。いい歳して猫ちゃんごっこって」


 レオンの泣き真似が功を奏し、周囲が次第に男を責め始める。

 居た堪れなくなったとしても、今更引き下がれないと思ったのか、男は猫耳としっぽをむしり取って仲間を呼んだ。


「お、おい……早く出てこい! さっさと金奪って連れて行くぞ」


 男の呼びかけで、周囲から4人の男が近づいてきた。レオンを取り囲み、1人がジェイソンを忌々しそうに蹴り上げる。


「なんだこの猫」


「あっ」


 ジェイソンが2匹、蹴り上げられて消えた。その不思議な感触に怯んだものの、仲間の男が再び別の個体を踏みつけようとする。


「何しよる! ジェイソン……」


「あっ、お前泣き真似だったな!? このガキ!」


 レオンは焦っていた。ジェイソンを心配する気持ちはあるが、この程度でジェイソンが傷つかない事くらい分かっている。


 傭兵が言った事をよく覚えていたレオンは、男達の説得を考えていた。

 反省して謝るなら、追い払うだけで済まそうと思っていた。


 だが、もうレオンが許してもジェイソンが許さない。


 まだ何も盗られず、手も出されていないというのに、目の前の男達は無事に帰れない事が確定してしまった。


「あー、ジェイソンが怒った。でも怒らした奴が悪いけん、おれは何もできん。おじさんのひと、ジェイソンの仇になった」


「お、おじ……ちがうわい!」


「えー、じゃあおばさん? おれにはおじさんに見える」


「そうじゃな……な、なんだ!?」


 レオンの呟きと同時に、まずは男の1人が無数のジェイソンに覆い尽くされた。


「うあっ!? うぐっ、ふぐうぅー!」


「なんだこいつ! うわっ、おいやめ……ぎゃあああ!」


 ジェイソンの群れが5人を包み込む。その中で行われている事など、知らない方が良いだろう。


 時折血が飛び散り、誰かのボロボロになった上着が地面に落ちる。口を塞がれたのか、それとも血か何かが口内にたまって声にならないのか、ぐぐもった呻きが何を伝えたいのかは分からない。


 周囲から悲鳴が上がるも、これはならず者とジェイソンの問題であり、レオンはどうしようもない。


「あの、みんなおるひと、ジェイソンはならずものしか相手にせんけ、大丈夫やけんね。ジェイソンのこと蹴ってしまったけん、もう仕方ないと」


 困り笑顔で説明されても、野次馬はそのおぞましい様子を呆然と見つめるしかない。

 何事かと役所の建物から出てきた職員が腰を抜かした時、1人の悪党がジェイソンの群れから這い出し、地面に倒れ込んだ。


「おじちゃんのひと、ジェイソンにごめんなさいゆった? 蹴って踏んづけるのダメなんばい」


「ぐ、ゴホッ、す、すみま、せん……でした」


 レオンが倒れた悪党の顔を覗き込む。息も絶え絶えに絞り出された謝罪に、他の者も必死の思いで続く。

 謝罪の声が全員分聞けたところで、ようやくジェイソンの攻撃が止まった。


「可哀想なジェイソンのために、なんか食べるものとかあげて許してもらい。まだジェイソン怒っとるよ」


「わ、分かった……」


「もう、悪い事しませんは?」


「も、もう、しません……」


 既にレオンから金を奪う事など考えてもいない。早くこの場から逃げたい一心で、1人がレオンに金を差し出す。


「こ、これで、肉でも、魚でも、か、買ってくれ」


「ジェイソン、許す?」


 ジェイソンが5人をじっとりと見まわした後、1匹だけに戻った。今回は許してやろう、という事だ。

 にしても、5人は血だるまで衣服はボロボロ。金を奪うどころか大損害だ。真っ当に働いた方が何倍も稼げる。


「許してくれるっち。良かったね」


 レオンは立ち上がり、腰を抜かした職員に「泊まるとこわかった?」と明るく尋ねる。そんな様子を見て、悪党の1人がボソリと呟いた。


「い……いったい、どんな育て方、されたら、あ……んな、ひでえガキ共に育つんだよ、どこの馬鹿だよ、ったく」


 呟いてしまった、と言った方が正しかった。

 レオンはくるりと向き直り、手に持った宝物をぎゅっと握りしめる。


「おれのご主人がそだててくれた。おれのご主人のこと、馬鹿にしたんか」


「ひっ!?」


「おれのご主人、おれのこと立派に育てた。ご主人のこと、ならず者みたいにゆったの、許さん」

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