表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誠実に丁寧に、真心込めて復讐代行。【レオンの怨返し】―LEON SEEKS VENGEANCE―  作者: 桜良 壽ノ丞
【さようならの時】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/95

さようならの時-04



「おじちゃんのひとのご主人のひと?」


「違う。俺が迷惑を掛けた相手だ。みんなきっと俺の事が憎いだろう。だけど、俺はその人達のおかげで今生きているんだ。いつか恩を返したかった」


 レオンにとって、傭兵の話は難しいものだった。


 物を盗む行為は紛れもなく悪い事だ。レオンは悪い事をする=ならず者と認識しているし、ドワイトからもそう教わった。

 しかし、悪事を働いた傭兵は過ちを悔いて、それを自ら償おうとしている。


 ならず者ではあるが、レオンの基準ではヒトデナシまで落ちていない。


「おれ、前ね、ハモテーを勝手に取ったことある。取ったらいけんっち知らんで、どうしようっち思った」


「ハモテー? 何か分からんが、悪いと知らずにやって反省する事なんて、誰にでもある事さ。余程の事でなければ、過ちを犯しても挽回できる」


 レオンは少しホッとしていた。

 サボテンを勝手に取った時の事をまだ気にしていたからだ。


「獣人族は極端ね。大事なのは、自分から進んで相手に償えるのかどうか。その償いを受け取ってもらえるかどうかよ」


「子供のうちは何が正しいかも分からねえだろ。反省して謝れるかどうか、子供はそれを試されている。だがな、2つだけ、子供でも絶対にやっちゃいけない事がある」


「なに?」


「1つは、人を殺す事だ」


 傭兵の目はしっかりとレオンを見据えている。レオンはその言葉に深く頷いた。

 ただ、レオンにとって、人とはすなわち善人の事だ。


 レオンの中で、ならず者はヒトデナシ。傭兵のように改心し償おうとしている者は除くとしても、そうでない者は人として認識しない。

 しっかり頷くレオンと、傭兵の想定する「人」とはズレがあった。


「2つ目は、裏切る事だ」


「あっ、おれ分かるばい! ふりんする奴はうらぎりならず者! 畜生といっしょ、交尾したいばっか」


「あっはっは! 容赦がねえな、でもその通りだ。いいかいぼうず、獣人族の正義を振りかざす時も、誰のためになるのかをよく考えるんだぞ」


「はぁーい」


 分かったのか分かっていないのか、こんな子供がもしも傭兵崩れの盗賊と対峙したらどうなってしまうのか。

 御者も客も傭兵も、次の町に着くまでの時間いっぱいをかけ、旅や生き抜くためのあらゆる助言を与えていた。





 * * * * * * * * *





「エーテル村? そった村は聞いだこどもねじゃ」


「え? こども?」


「なんちゃ? かちゃくちぇねえな、聞いだこどがねって語ってんべ」


「ふぇ……どしよ、ジェイソン。何ち言いよるんかいっちょん分からん。人族のことば、むずかしい」


「あー、さっきの奴は特別だ。あそこまで言葉が違う奴もそういねえよ、安心しな」


 3日後、レオン達はデボネオスクという町に着いた。大きな病院や都市機能がある町は、ここから更に3日掛かる。


 客と傭兵は乗り継ぎで目的地へと去っていったが、御者はレオンと一緒にエーテル村の場所を尋ね回ってくれた。


 町の住民は、皆名前も知らないという。やはりナヌメアやデボネオスクのある地域から遠く離れた所にあるのだろう。


 遠くからやって来たキャラバンなら、何か知っているかもしれない。

 そう言って御者が聞きまわってくれるも、レオンは遠い異国からやってきた商人達の訛りが聞き取れず口をぽかんと開けたまま。


 レオン自身にも訛りがあるものの、まだ分かりやすい方だ。レオンは会話すら難しい場合があると知り、御者に何度も感謝を告げた。


「ばしゃのおじちゃんのひと、おってくれてありがと。おれ、エーテル行けんのかな。おれまいご?」


「迷子っちゃあ、迷子かもしれねえが。何か手掛かりはねえのかい。ほら、例えば高い山が見えるとか、家の作りがこの辺りと似てるとか、どんな暮らしをしていたとか」


「何か言いよったっけ。名前しか分からん……あっ、海! 海があるっち言いよった! すっごい大きなね、池よりいっぱい大きいっち言いよった!」


「え、海だって? 湖じゃなくてかい」


「みず? 海、みずいっぱいあるよ」


「あー、湖っつうのは池の大きい奴だよ。そうか、湖って言葉を知らねえって事は、ご主人さんは確かに海って言ったんだな」


「海、なんか青色しとるんって。おれ、エーテルの海、見せちゃらないけん。でもよく考えたら、海っちどんなんかあんま知らんかった……」


 御者はレオンが何も知らない事以上に、海というキーワードに困惑していた。

 今レオンがいるのは、ゲアンパという最も大きな大陸の南西部。

 海に出たいのなら、最短ルートで休まず馬車を進ませても、数か月は掛かる。


 それはあくまでも一番近い海辺であって、そこがエーテル村であるという意味ではないし、町や村があるという意味でもない。


 海沿いに船で移動しながら探すとしたら、大きな港がある町に行く必要がある。もしそうなれば、もう数か月は掛かってしまう。


「お前のご主人さんがどこから来たのか知らねえが、ナヌメアまでわざわざ一緒に来たって事は、西の港に用があったんだろう。役所で地図を見せてもらうといい」


「地図はね、ドワイトのひとが見よったけん、おれも見きる! やくしょ、どこ?」


「この通りの真正面だ。あの大きな建物の中に入って、地図を見せて下さいって言ってみろ」


「分かった!」


 キャラバンのギルドで尋ねても分からず、詳しい地図も周辺1000キルテの範囲まで。もちろん海には掠りもしない。かといって世界地図まで広げると、大雑把過ぎて主要都市ですら記載がない。


 結局手掛かりはなく、御者も時間切れとなった。悪者に目を付けられやすい獣人の子を1人放り出すわけにもいかず、御者は役所へ行くよう促した。


 役所なら子供を保護してくれる。面倒を見きれない分、安全を確保してあげようという心遣いだった。


「おじちゃんのひと、ありがと。あのね、助けてくれた人には、ちゃんと恩返しする」


「恩返し? いいよいいよ、俺が好きで手伝ったんだ。子供の面倒を見るのは大人の義務ってもんさ」


「……でも、おれは恩返ししたい」


 レオンが何か手伝おうと申し出るも、御者は大丈夫だと言って応じない。困ったレオンはあっとひらめき、財布から金貨を1枚取り出した。


「おじちゃんのひと、おれちゃんとお礼せんといけん。お礼せんと、おれならず者。狐人族はそういうのちゃんとする決まりやけ」


「き、金貨なんて町中で見せるもんじゃない。金貨は自分のためにとっておけ」


「じゃあ、銀貨何枚かある。はい」


 レオンは銀貨を5枚取り出し、御者の手に強引に握らせて走り出す。


「おじちゃんのひと! ばいばい!」


「えっ、えっ!? お、おう……元気でな」


 石畳に小さく軽い足音が響き、やがて長い山形鋼の影も見えなくなった。


「ったく……あんな心の綺麗な子が、親も恩人も失って1人で復讐旅ねえ。情けねえや、人族ってもんは」





 * * * * * * * * *





「ジェイソン、どうしよ。分からんっち、みんなエーテル村知らんかった」


「……」


「おれ、まいご。どしよ……」


 夕暮れ時となり、大通りを行き交う人々も足早になる。


 役所で見せてもらったのは、各大陸毎の地図だった。ただ、エーテル村が小規模な村なのか、それらしい村が見当たらない。


 局地的な地図なら各地方の町や村に置いてある。しかし、世界のすべての村を網羅するような地図は出回っていないのだ。


 レオンは何1つ手掛かりを得ることが出来ず、途方に暮れていた。


「……ご主人、会いたいな。おれ、1人さびしい」


 レオン役所の外壁に背を預け、ジェイソンをぎゅっと抱きしめる。役所の職員が宿を探してくれているのを待っているのだ。


 そんなレオンの前に大きな影が出来た。


「君、1人かい」


「……うん。あっ」


 そこにいたのは、猫の耳に猫のしっぽを持った猫人族の男だった。種族は違えど、獣人族となればレオンの警戒も解ける。


「困っているなら聞いてあげよう。おいで、仲間もいるんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ