12 イケメンきどりには破滅のカウントダウンが始まる
彩音は聞きほれてしまうくらいいい声だし、リズム感が抜群。
やがて猫型ロボットの国民的アニメが流れる。
これならいけるかも。
「でも音痴だよ」
正直恥ずかしい。彩音がうますぎるからな。
「気にしなくていいよ」
彩音が歌い始めたので、僕もマイクのスイッチを入れる。
思い切って声を重ねてみる。僕の声もスピーカーから聞こえた。
一番が終わったところで、彩音が
「うまいじゃん、虎児郎」
と言ってくれる。お世辞でも嬉しい。
「二番は歌詞知らない」
「一番とメロディー同じだから適当に歌えば」
彩音は大らかで助かる。
僕は適当に歌ってみたが、所々明らかに彩音の音程とズレていた。
恥ずかしさでいっぱいだが、ともかく僕の人生初カラオケを達成した。
すごくやり遂げた感があった。
彩音は微笑ましく僕を見守っていた。
ぎこちない僕をバカにした感じは全く受けない。
彩音って本当はやさしい子なんだな。
教室で僕をバカにしてたのは、空気のせいだったんだ……忌々しき同調圧力め。
その後も、食べ物、飲み物を追加注文したり、僕が知っている曲を時々歌ったりで思いのほか楽しく過ごした。
カラオケに来て、2時間近く経つ。
締めのケーキを食べながら、僕はちょっと気になっていることを彩音に確認する。
「なあ、翔とは本当に何でもないんだよな」
彩音のケーキを運ぶスプーンがぴくりとした。
「え、何でもないよ」
そう言ってからスプーンを咥える。
「虎児郎こそ、美沙ちゃんとはどうなのよ」
彩音はケーキを味わってから、口を開いた。
翔のことを聞かれたくなくて、話を逸らした気がした。
やっぱり何か言いたくない、セクハラの一つや二つを翔からされてたのかな。
「……美沙は幼なじみだよ。知っていると思うけど、僕たちは児童養護施設で育ったんだ」
「で、つきあっているの?」
彩音が身を乗り出してくる。
女子は恋バナが好きだな。
「つきあってない」
「好きなんでしょ、虎児郎は」
「違うよ」
表向きは否定しておく。
「うっそー 美沙ちゃんみたいな可愛くて、おっぱいの大きな子が身近にいて、好きにならないわけないでしょー 初恋の子だったりして」
うりうりと肘でつついてくる。
「……あのなあ、可愛いから好きとかいう浮ついた関係じゃないんだよ。僕と美沙はな、兄妹みたいなもんなんだよ」
僕は頭を掻く。
美沙がイジメられないよう、表向き妹のように思っているということにしておく。
そうさ、初恋は美沙だよ。
小学5年生の時。人よりは遅い初恋。
あれ、美沙ってこんな可愛かったっけ……という瞬間があった。
茫然と美沙を見つめている僕を、美沙が怪訝そうにしていたものだ。
恥ずかしいから美沙以外、誰にも一生言うつもりはない。
「へえ、深いのね」
彩音は感心している。
実際、美沙との関係は、好きとか嫌いとか単純に言い尽くせるものではないことは確かだ。
でも彩音はジト目を向けている。
美沙が初恋の女の子だと見抜かれた気がする。
「少なくとも僕にとっては美沙は特別な存在だ。公園で遊んでたら、他の子に、孤児院の奴は公園で遊ぶなとか意地悪されたこともある。二人で泣きべそで帰ったよ」
苦しまぎれだが付け加えておく。
「ひど」
「僕一人だったらヤケになって暴れてたな。結局、大勢の子にタコ殴りにされて痛い目を見ていたと思う。美沙と一緒だったから、慰めあって我慢することができた」
僕からしたら、イケメンだから好きとかいう普通の高校生の恋愛事情は浅すぎて、鼻で笑ってしまう。
イケメンの正体が、バカで、嘘つきで、鬼畜かもしれないのに、見た目だけで選ぶとは愚の骨頂。
相手の本性を見極めてから好きになるべきだと思う。僕は、イジメられてばかりで人間不信に陥っているからかもしれないけど。
「てことはさぁ、一番身近な美沙ちゃんが、一番かわゆくて、巨乳なんだから最高よね。虎児郎ってめっちゃ恵まれてるー」
彩音の言うとおりである。
美沙は心が通い合う数少ない女性だから、ブサイクでもつきあいたいくらいだ。
なのに美沙は、可愛くて、巨乳。つきあいたい相手として最高の条件をそろえている。
僕は早く美沙とつきあいたいんだけど、なかなかつきあっている感じにならない。
「……美沙が誰とつきあうかは美沙が決めることだ。話を戻すぞ、彩音と翔は本当に何ともないんだな?」
美沙が僕以外の男とくっつこうものなら、僕は暗黒面に堕ちること間違いなしだが、今はクールなふりをしておく。
「ないってゆってるでしょ」
彩音はイラっとして否定する。
「じゃあ、翔を破滅させてもいいな」
僕は冷ややかに言う。
彩音は息を呑んだ。
僕は冗談を言っているわけではないと伝わったようだ。
超絶金持ちの僕なら、あらゆる手段で翔に仕返しすることが可能。
「いいね、やっちゃってよ、虎児郎」
次の瞬間、彩音はニヤリとした。
翔に嫌な目に遭わされたなら、そうこなくちゃ。
「フフ、彩音が翔について知っている限りのことを教えてくれ」
僕は、翔の情報を集めて、翔が最も苦しむ方法を考えてやる。
翔本人だけじゃなく、家族もろともだ。
「何から話せばいいかな」
彩音は邪悪な笑みを浮かべたままだ。楽しくなってきたようだ。
そうそう、一緒にムカつくイケメンきどりを潰そうぜ。
「あいつの家は会社をやっているんだろ。何の会社?」
「それは知ってる。無駄金システム株式会社ってゆうんだ」
彩音が話し始める。
僕はスマホでメモしながら聞き取った。
いよいよ翔を破滅させるプランが具体化していくな。ククク……
カウントダウンが始まったぞ。
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