11 金髪の理由
カラオケの店内に入るなり、カウンターで彩音はスマホアプリを店員に見せた。
予約をしてあったらしくスムーズに案内された。
彩音がドアを開けて部屋に入る。
僕はカラオケに来るのが初めてだ。
「狭くて暗いな」
率直な感想。
彩音と並んでソファーに座る。
向かってテレビがある。
これがカラオケか。これに向かって歌うのか……
未知のものを目にして、ダンジョンを探検しているような気分になる。
「じゃあ遠慮なく」
彩音は呟きながら、テーブルのタブレット端末を取る。
何をするんだろうと見ていると、端末の画面には食べ物の写真が表示される。
彩音は指でタッチして、ウーロン茶とフライドポテトにパフェを注文した。
「慣れてるな」
僕は彩音に感心する。
「別に……普通でしょ」
そう言われるとちょっと悲しい。僕は普通の高校生の体験が欠落しているからな。
「友達とカラオケによく来るのか」
「まあ時々」
彩音の話しぶりからすると、彩音はサラリーマン家庭の子っぽい。
それに彩音の名前は、あやねと読める。天使をえんじぇる、桃をぴいちと呼ぶDQNネームとは明らかに違う。
娘を金髪にさせておくのはどうかと思うが。
この年頃の女の子は扱いが難しそうだからな。
お父さんもお母さんも何も言えないんだろう。
彩音がタブレット端末を渡すので、僕はオレンジジュースと焼そばを注文する。
すると彩音が手を伸ばしてきて、お手拭きや割り箸の数も設定してから、送信ボタンを押した。
ふむふむ、こうやってやるのか。彩音にやってもらったおかげで、次は自分でやれそうだ。
「あのさー 彩音はなんで金髪にしてるんだ?」
脈絡なく、僕は尋ねる。
最近、気になることにはつっこむことにしている。空気なんか読まない。
「マジむかつく。人の外見にケチつけるなんて」
彩音が露骨に不快そうにする。
「い、いや、彩音は金髪じゃなくて、黒髪のままで、可愛いんじゃないかと思う」
とっさに、めちゃくちゃなことを口にしてしまう。可愛いなんて言っちゃったよ。
彩音は、かあああと顔を赤くする。
「ふ、ふん、虎児郎に褒められても、うれしくなんかないんだからね」
ぷいっと横を向いてツンデレっぽいセリフの彩音。
「まあ、ケチつけているように聞こえたよな。わりい」
「あのねー 金髪は男に舐められないためよ。あたしが弱そうに見えたら、カス高だと男に襲われそうだから」
彩音は前髪をつまんで話す。
「そうだったのか!?」
僕はひっくり返りそうなくらい衝撃を受けた。
僕は彩音が金髪なのはチャラい性格だからだと思っていた。
だが真相は、身を守る術だった!?
カス高は地獄のような底辺校だから、彩音は粗暴な男子にレイプされないように必死!?
僕の知識で彩音を理解しようとするなら……草食恐竜のトリケラトプスが巨大な襟飾と角でティラノサウルスを威嚇しているようなもの!?
彩音って、肉食に見えてたけど、実は草食?
「虎児郎はヤンキーっぽい女はみんなバカで、何も考えてない。金髪がカッコいいと思ってるから染めてると思ってるでしょ」
彩音は僕の無知を責めてくる。
「バカとは思ってないよ」
僕は嘘をつく。本当はバカ女と思ってました。
「ふん、男って、か弱い感じの女を見つけたら、手を出してくる。親切なふりをしても、ヤることしか考えてない。あたしは、お見通しだから。なるべく男を寄せ付けないように金髪にしてるのよ」
彩音は一気にまくしたてる。
自分の金髪はちゃんと意味があってやっているんだというのは伝わってきた。
「大変なんだな」
「バカに見えても、案外繊細なんだからね……本当にまだ処女だし」
彩音は顔を赤くしている。
な――
処女……本当に?
それであんなに堂々と、他のギャルどもは汚いと言い放っていたのか!?
彩音の真の姿に驚かされてばかりだ。
カーストを保つために、クイーンビーぽく、ふるまっているし。
いろんな苦労があるんだな。
ドアがノックされて、店員さんが注文した物を運んで来てくれた。
焼そばがホカホカして美味しそう。高校生男子はお腹が空くのだ。
今、いっぱい食べても、晩御飯に穂香ちゃんの料理を残さず食べる自信はある。
彩音もフライドポテトとパフェをうまそうに食べている。
噛みながら彩音はタブレットを操作する。ピピッという音がした。
テレビの画面が切り替わり、ポ○モンのアニメになる。
「――アニメが表示されるのかよ」
僕は仰天した。カラオケって歌詞が表示されるだけだと思っていた。
「虎児郎の反応がおもしろ。この映像マークの付いている曲は、そのアニメが背景になるんだよ」
彩音がタブレットを見せて説明してくれる。
アニメ付きの方が断然いい。
子供の頃、僕も見てたから、とても懐かしい気分になる。
次はプ○キュアだ。美沙が見ている隣で、僕も見ていたからこれも覚えている。
戦隊ヒーローやら仮面ラ○ダーやらも流れる。主題歌の背景のアクションシーンがかっこいい。
「彩音も見ていたんだな」
「見るでしょ」
彩音は当然という口ぶりだ。
男の子向けのを見てたら悪いことはない。むしろ彩音に親近感が増す。
カラオケって、映像を見ているだけで楽しいところだとは知らなかった。
お互い食べ終えたところで、彩音が立ち上がって、マイクを二つ手に取る。
一個渡してくるが、僕は遮る。
「彩音が好きに歌ってくれ」
「虎児郎は歌わないの?」
彩音がきょとんとする。
「僕はカラオケ来たの初めてだし、歌を知らないからな」
真顔で告げた。
だって友達いないし。貧乏だったから、アイドルに興味持っても追っかけとかCD買ったりできないしね。
「私も流行っている歌なんか知らないよ」
「え、彩音も?」
「うん。そもそも流行っている歌なんて、あんのかなって感じ。最近は女子でカラオケに来ても、みんな知らない曲ばっかり歌うんだ」
「そうなんだ……」
「盛り上げるのに苦労するんだよね」
彩音に教えてもらうと、僕はぼんやり感じていたことが確信に変わる。
流行に疎いというか、付いていく資格がないことがコンプレックスだった。
だが、いつの間にか流行なんてものは日本から消滅していた。みんなテレビは見ずに、ユーチューブで自分の好きなコンテンツ見てるっぽい。
流行語大賞とか聞いたことない言葉ばかりだし、紅白歌合戦も知らん歌手ばかり。非リア充には良い環境になってきているみたいでうれしい。
「気まずくなることもあるから、カラオケ来ても歌わずに、飲んだり食べたりしながらおしゃべりしてることが多いんだ。で、私は子供の頃見たアニメとかを適当に流している」
「そうかそうか」
「虎児郎も、知っている曲があったら歌ったら」
再びマイクを押し付けてくるので、受け取った。
彩音はアニソンを歌い始める。ダンス部らしく洋楽でも歌うのかと思っていたら違った。
曲を知らない僕に合わせてくれてるんだろう。
彩音って、実は僕にかなり気を遣ってくれるいい子なんだな。
お読みいただき、ありがとうございました。
非リア充作者が流行に疎いだけかもしれません。
続きを生暖かい目で見守っていただきますとありがたく存じます。




