9 寝取ってやったぜ
彩音は追い討ちをかけた。
「虎児郎は純真で、純愛が好きな人なの。あんたたちみたいな汚い女は近づいてほしくないのよっ」
ギャルどもの多くを敵に回しても構わないという彩音の捨身のセリフだ。
実際、僕は汚い女が嫌いだ。
だけど僕ははっきりそれを言う勇気がない。
彩音が代わりに言ってくれて非常に助かる。
「彩音はきれいな女なのかよっ!?」
もっともな疑問が天使からぶつけられる。
「あたしはきれいな女よ」
彩音は動揺のかけらも見せずに、胸を張る。
「はあ!? めっちゃ遊んでるっぽいけど!?」
金髪ギャルだからな、彩音は。外見からすると説得力がない。
「あたしは処女だったもんねー。虎児郎に捧げたけど」
ちょっと顔を赤くして、彩音が言い放つ。
「マジか……」
天使がうめく。
彩音が僕に何か言うように目で合図してきた。
「本当だ、彩音の言うことは」
僕が恥ずかし気に呟くと、みなが息を呑む音がした。
彩音が処女だったと信じ込ませることに成功。
僕にしては上手く空気を読んで、演技ができたようだ。
「……あ、あたしが処女だったら……」
ガクリと膝をつく天使。
他の女子も軒並み項垂れている。
非処女が多すぎる……
天使も桃も、他の女子も肩を落として、自分の席に戻っていく。
僕は彩音と視線を交わす。
上手くいったね、と彩音は伝えている。
彩音がこれほどの熱意でもって、彼女役をやってくれるとは思わなかった。
だがこれくらいやらないと、しつこいギャルどもを追い払えないだろう。
ギャルどもの生態を知る彩音だからこそできることだ。
毒をもって毒を制する作戦は大成功になりそうだ。
そこで背後から男子たちの会話が耳に入ってきた。
「彩音は、翔とつきあってるんじゃなかったのか」
「やりまくってるって言ってたのにな」
「寝取られてやんの」
「だっせー」
「でもよ、虎児郎が彩音は処女だったって言ったぜ。翔とはつきあってなかったんじゃん」
「血が出たってことだよな……虎児郎の言うことが本当か」
「彩音は前から虎児郎とつきあってたって言ってたな」
「虎児郎との関係がバレないように、翔とつきあっているふりをしてたってことか」
勝手に、僕と彩音と翔の関係を都合よく想像してくれている。
僕は翔の方に視線を向けた。
翔は面白くなさそうな顔をして座っている。
彩音は翔の前の席に座るが、翔の方を向かない。
二人の間には気まずい空気が目に見えるようだ。
クイーンビーから見放された翔。
僕は、ほくそ笑む。
けけけ、寝取ってやったぜ。
そもそもつきあってなかったらしいがな。
翔はクラスで一番可愛い彩音を彼女にしていることで、クラスで一番偉い俺って感じに振舞ってた。
無残に打ち砕かれたわけだ。ざまあみろ。
彩音をギャル除けスプレーにするのは、翔の地位を失墜させる一石二鳥の効果まであった。
あ、でも……翔と彩音の本当の関係はどうなんだろう。
火のないところに煙は立たないという。
彩音がずっと翔と一緒にいて何もなかったんだろうか。
僕の中で、ほんのちょっとだけ疑惑が浮かんだ。
でも彩音は翔とつきあってないときっぱり否定していた。本当は大嫌いっぽいし。
彩音の言うとおり、教室の空気でお互いにつきあっているように見せかていただけなんだろう。
彩音は休み時間に、集まってきたギャルから質問攻めにされていた。
「虎児郎様はエッチが上手い?」
「もちろん上手」
「きゃー」
「虎児郎様はどの体位が好きなの?」
「立ちバック」
「きゃー」
「虎児郎様には何人くらい女がいるの?」
「あたし一人だって」
「きゃー」
彩音が答えるたびに悶え声が起こる。
会話が聞こえてきて僕は赤面していた。
彩音はつきあっていることが嘘だとバレないように、落ち着いて自然な感じで話していた。
昨日、LINEでやりとりした情報が持ち球としていっぱいあるからな。
彩音には心の余裕があるんだろう。
彩音は空気を読んで、盛り下げない。
盛り上げるために誰かをイジるのが定番だが、今日の彩音は僕をイジらない。
彩音の自虐ネタも言わない。
絶妙に会話をリードする彩音のコミュ力の高さにはうならされる。
僕はかなり恥ずかしかったけど、嫌な気分にはならなかった。
おかげで、僕と彩音がつきあっていることが早くも浸透している感じだ。
朝、彩音はギャルどもを敵に回していた。
だけど全ての女子が敵に回るわけじゃなかった。彩音と仲良しの子は、味方のままだった。
僕とつきあうことで、クイーンビーの地位が復活した感じ。
僕にはこの展開は読めなかったけど彩音は、カーストが上がるとちゃっかり計算して、引き受けてくれていたのだろう。
見栄っ張りの彩音にとっても、僕とつきあうふりをするのはメリットが大きいようだ。
僕はいずれカーストを殲滅して、教室を混沌の渦に叩きこむつもりだがな。
今のうちは彩音を得意げにさせておこう。
総合評価が2000Pに達しました。
ここまでご評価いただいたことが信じられないほど嬉しく存じます。ありがとうございます。




