6 教室で起きる全ては虚構
彩音にエロいことをする……たとえば……
メイド服を着させて、僕に服従させる……
僕に高飛車な態度をしていた女に、ご奉仕させるっていうのはギャップに興奮するかも……
あと、スク水とかブルマの体操服とかバニーガールとかコスプレさせるのは、まあまあ魅力的だ。
いずれさせてみるのは面白い。
とはいえ僕は女には飢えていないどころか、うざく感じているくらい。
どうせなら彩音にしかできないこともさせたいな……
やはりギャル除けスプレーに彩音ほどうってつけの女はいない。彩音を配下として使ってみるか。
「彩音さぁ、僕とつきあって――」
僕は前置きなく切り出した。
「え――」
彩音が息を呑む。
突然の告白。
めっちゃ驚かせているようだが、僕の言いたいことは、それで終わらない。
「……いるふりをしろ」
命令口調。
だって、僕には彩音に言うこと聞かせる力があるし、彩音には僕の言うことを聞かないといけない負い目があるから。
「は……ふり?」
彩音にとったら意味がわからないだろう。
僕が彩音とつきあうことになるのは唐突だが、ギャル除けスプレーとして働かせて、なおかつギャルどものつぶし合いを見てみたい。
「ああ、本当はつきあっていないんだが、つきあっているように見せかけろってことだ」
「な、なんでそんなこと!?」
「ギャルだよ。教室でギャルどもがうざすぎる。追い払うのに疲れてしまったんだ。彩音とつきあうふりをすれば、寄ってこなくなるんじゃないかと思って」
僕は手短に説明を終える。つぶし合いを目論んでいることは言わない。
僕とつきあうふりする女子は美沙に頼みたいところだが、致命的な問題がある。
美沙が僕とつきあっていると、美沙が他の女子に絶対ものすごい嫌がらせをされる。
僕の思い上がりかもしれないが、学校の全ての女子を敵に回すくらいの覚悟が必要になる。
美沙は大事に大事に守ってやらないといけない愛おしい存在だ。美沙にそんな試練を味わわせるわけにはいくまい。
その点、彩音に僕は思い入れがない。
彩音はカースト上位として、教室内の人間関係に揉まれて鍛えられているはずだ。
ちょっとやそっとの嫌がらせには、へこたれないんじゃないか。
彩音にやらせるのは好都合づくめに思える。
「あたしに……虎児郎とギャルの間に入れってこと???」
彩音は困惑しながら、なんとか理解しようとしている。
「ああ、カースト上位の彩音を見込んでだ。僕とつきあうのが彩音なら、ギャルどもも遠慮するんじゃないかと思う」
「んん~」
彩音は難しい顔をする。必死にそんなことができるのか考えているようだ。
「お前らは空気を読むのが全てだろ。空気読んで僕につきまとわなくなるはずだが」
「……するかなあ? あいつら、虎児郎が誰とつきあってようがお構いなしに虎児郎に媚びそうだけど」
彩音はもっともな指摘をする。
カーストも崩壊ぎみだし。
「……なるほど、彩音はやっぱりギャルの生態に詳しいな。だったらギャルが僕に近づいて来たら、彩音が追い払ってくれ。私の彼氏に近づくなって感じで」
「虎児郎があたしの彼氏……」
彩音はそこが引っかかっている。似合わないと言いたげだ。
「ん、さっき、何でもしますと言っただろう」
僕はちょっと恥ずかしくなったので、彩音に思い出させる。
「うう……」
彩音は困っている。
こいつらの言う何でもしますは、気持ちがこもっていない。
大げさなことを言うのがウケる空気の世界に生きているからな。
「言っておくが……彩音は翔と別れる必要はない。クラスの奴らがいないところでは好きなだけイチャイチャしろ」
ギャル除けスプレーに彩音を使う際の最大の問題をどう扱うのか、僕は説明する。
彩音とつきあっている翔は絶対に嫌がる。翔からしたら、彩音を寝取られたように見えるから。
翔はそのうちボコってやるつもりだが、それは伏せておく。
今すぐに寝取ってやった風にできるのば、痛快だな……ククク
「え、つきあってないけど」
意外な答えが彩音から返って来る。
彩音の口調には、なぜそんことを言われるかという戸惑いを含んでいる。嘘をついてはいない感じだ。
「そ、そうなのか!? いつもしゃべっているから、てっきりつきあっていると思っていたけどな」
こいつらの生態はよくわからないな。
「彼氏づらされて、マジうざいのよね」
心底嫌そうに吐き捨てる彩音。
僕に媚びるために翔をけなすことにしたというよりも、元から嫌いだった感じがする。
「イケメンが好きなんじゃないのか?」
「翔をイケメンってことにしないといけない空気だから……」
は……何その言い方……
本心では、そもそも翔をイケメンだと思ってない?
一体どうなってんだ……
スクールカーストは思った以上に複雑怪奇な世界なのか。
「顔、だけ、はいいと思うけどな、翔は」
”だけ“を強調しておく。
「翔の顔は好みじゃないよ」
はっきりとした口調。
彩音は、イケメンじゃない僕に気を遣って言っているのではなさそうだ。
話し方に躊躇いがちょっとでも混じっていたら、こいつ嘘ついてるなっていうのはわかるものだけど、彩音は嘘ついている気がしない。
……まあ人の見え方って、人それぞれだろうがな。
そうかそうか、翔はイケメンじゃなかったか……
彩音のことをちょっと見直しそう。
「だったら何で翔といつも一緒にいるんだよ?」
「翔と一緒にいないとクラスで浮いちゃうってゆーか」
「なんだと」
僕は衝撃を受けた。腰を抜かすくらいの。
茫然と立ちすくんでしまって、傘をさしていた彩音に置いてかれてしまった。
雨にちょっと濡れてから、はっとして彩音の傘に追いつく。
カースト最上位の彩音でさえもクラスで浮くことを心配していたのかよ。
気が合わない翔とでも、やたら話をしていないと浮いてしまう。
彩音ほどカースト上位でも、気を抜くと転落しちゃうくらいカーストの足場ってのは不安定なのか……
浮いた奴はイジメの標的になるからな。
上位者の転落ほど、蜜の味がするものはないし。
彩音と翔は気が合うように僕に見えていたのは、間違いだった……
翔は幼稚で性格最悪だからな。翔を好きな彩音は頭おかしい、とまで思っていた。
だが、彩音はそこまで頭の悪い女ではなく、内心では翔に反吐が出ていたっぽい。
表向きでは親しいふりをしながらも、裏では陰口を言う。
教室とはまさに、日本人らしい虚構の空間というわけだ。
幻影に包まれていたスクールカーストの正体が朧に見えてきた気がする。
まだ依然として、核というか急所がどこにあるのかわからないがな。
ともかく、わかってきたのは教室で起きる全ては虚構。
同級生の固定メンバーで演じられる下手な芝居にすぎないんじゃないか。
ならば虚構に虚構を重ねても、何ら差し支えないだろう。
スクールカーストって何なのでしょうかね。
非リア充作者は散々嫌な思いをして、卒業した今でも正体不明です。
難敵ですが、なんとかボコれるように話を展開させていければと思います。




